楽器考察シリーズ第六弾 レスポールを堪能するサザン・ロック・アルバム特集

Gibson エレキギター


アルバムを聴いて使用楽器を考察する「楽器考察」シリーズ第六弾です。ツイン・レスポールをフィーチャーしたサザン・ロックの作品を取り上げてみたいと思います。
言うまでもなく、レスポールはブルース、カントリー、ロックなど幅広い分野に影響力を持つジャズ・ギタリスト、レス・ポールが考案したエレキ・ギターの名器。その芸術品的なフォルム、パワフルなサウンド、艶と伸びのあるトーンといった魅力を挙げるのに尽きません。典型的なアメリカン・サウンドと言えるサザン・ロック作品には、そんなレスポール・サウンドを堪能できる楽曲が多数あります。中でも二人のギタリストがレスポールを愛用するバンドも珍しくないのですが、今回はそんなバンドを三つ紹介いたしましょう。
なお、これまでは一アーティスト、一作品全楽曲を取り扱ってきましたが、今回は贅沢に(?)三アーティスト、四作品のハイライトを中心にご紹介していきたいと思います。
なお曲順はCDに沿っています。予めご了承ください。

一般的に「サザン・ロック」という名称は、アメリカ南部出身の、特にブルース、カントリーといった南部で培われた音楽のテイストを強く感じさせる、どちらかというと豪快で荒削りなサウンドを持つアーティストを括る言葉として使用されます。ビジュアル的にはカウボーイ・ファッションのイメージが強いですね。
アメリカ南部独特のロック・サウンドを世に知らしめた最初のバンドはオールマン・ブラザーズ・バンドと言えます。エリック・クラプトンが結成したデレク&ザ・ドミノスの名盤『愛しのレイラ』の客演で一躍注目されたスライド・ギターの名手、デュアン (註)とオルガン・プレイヤーでボーカリストのグレッグのオールマン兄弟を中心に、1969年に結成されました。ロックにブルース、ゴスペル、カントリーなどの要素を大胆に取り入れた音楽性と、ツイン・リード・ギター、ツイン・ドラムをフィーチャーしたダイナミックな演奏が特徴です。同世代のレーナード・スキナード、ZZトップなどと並んでサザン・ロック・シーンを牽引していきました。デュアンとディッキー・ベッツのツイン・レスポールがアンサンブルの要です。
それではまず、オールマン・ブラザーズ・バンドの出世作『フィルモア・イースト・ライヴ』から検証していきましょう。

●フィルモア・イースト・ライヴ(原題The Allman Brothers Band At Filmore East)


ジョージア出身のオールマン・ブラザーズ・バンドの1971年発表の三作目。彼らの真骨頂と言えるライブ演奏を聴かせる初のライブ・アルバムです。アナログ盤では二枚組として発売されました。
冒頭の「ステイツボロ・ブルース」(Statesboro Blues)のイントロからぶっとびます。デュアンのスライド・ギターのピッチのコントロールが絶妙で惹きつけられます。そしてグレッグのボーカルと掛け合うオブリガードはギターと言うより肉声のようで、その表現力には脱帽します。間奏でディッキー・ベッツのソロも登場。タイプの違う二者のギターのコントラストも楽しむことができます。個人的には、この一曲を聴くだけでもこのアルバムを買う価値があると思っています。特にスライド・ギタリストを志す人には絶対に聴いていただきたいナンバーです。
ちなみにこの「ステイツボロ・ブルース」はブラインド・ウィリー・マクレルのブルース・ナンバーですが、オールマン・ブラザーズ・バンドはタジ・マハールのバージョンにインスパイアされています。タジのバージョンも是非聴いてみてください。こちらはジェシ・エド・デイヴィスのスライド・ギター、ライ・クーダーのリズム・ギターがフィーチャーされています。
アナログ盤の一枚目、CDでは最初の四曲はブルースのカバーですが、アナログ盤の二枚目、CDの五曲目以降「アトランタの暑い日」、「エリザベス・リードの追憶」、「ウィッピング・ポスト」はオリジナル・ナンバーです。スタジオ盤にないインプロビゼーション、そしてツイン・リードのハーモニーやギター・バトルの醍醐味が味わえます。聴きごたえ十分のアルバムです。
デュアンはストラトキャスターやディッキーに譲られたSGも使用しますが、トレード・マークは濃いめのサンバーストの58年レスポールです。粘りのあるトーンは意表を突く大胆なチョーキングとともにデュアンのギター・サウンドを象徴しました。また59年製のレスポールも使用しましたが、58年製、59年製ともに、ギブソンから彼のシグネチャー・モデルとして復刻されたことがあります。



↑現行のスタンダード・ヒストリック58レスポール。デュアンのシグネチャー・モデルを買い逃がした方にお勧め。



↑デュアンの59年バージョンのシグネチャー・モデル。生産完了品です。

対するディッキーですが、何といってもゴールディーと名付けられた57年製のゴールド・トップ・レスポールこそが彼のイメージ・キャラクターと言えましょう。残念ながらシグネチャー・モデルとしてゴールド・トップの物は販売されていませんが、赤いレスポールとSGがシグネチャー・モデルとして登場しました。



↑ディッキーのレスポールのイメージに近い現行のスタンダード・ヒストリック57レスポール。



↑ディッキーの最初のシグネチャー・モデルとしてギブソンから発売されたレッドのレスポール。生産完了品。

二人とも主にマーシャルのスタックにプラグインしていました。レスポールとマーシャルはロックの王道のコンビネーション。マーシャルがレスポールの持つワイルドな側面を引き出します。オールマン・ブラザーズ・バンドは、レッド・ツェッペリン同様、レスポール+マーシャルの魅力を余すところなく伝えるバンドと言えるでしょう。空間系のエフェクターを介さないドライでナチュラルなオーバードライブ・トーンを聴かせてくれます。
ちなみにデュアンが愛用したスライド・バーはコディシリンと言う風邪薬の瓶でした。ディッキーをはじめ、ジョー・ウォルシュなどのデュアンのフォロワー達もコディシリンを使用しており、後年この瓶を模したスライド・バーが復刻されるようになりました。



↑筆者愛用のコディシリンのレプリカ。

さて、そんなオールマン・ブラザーズ・バンドに間もなく悲劇が訪れます。デュアンとベーシストのベリー・オークレーが相次いでバイクの事故で亡くなってしまったのです。しかしながら、彼らは逆境をもろともせず、『ブラザーズ&シスターズ』で健在ぶりを示したのです。次にこのアルバムを紹介しましょう。

●ブラザーズ&シスターズ(原題Brothers And Sisters)


1973年発表の五作目。このアルバムからキーボードのチャック・リーヴェルとベースのラマー・ウィリアムズが参加。チャックはその後ローリング・ストーンズのサポート・メンバーとしても名を馳せています。
このアルバムからディッキーのキャラクターが前面に押し出されます。中でもカントリー・ロック的な「ランブリン・マン」、フュージョン的なインストゥルメンタル「ジェシカ」は彼の名を不動の物にしたと言えるでしょう。前者はビルボードのチャートで第二位、後者は第六十五位を記録しています。この二曲の立役者として忘れてはならないのがレス・デューデックです。レスによるとこれらのナンバーはレスとディッキーの共作だったということですが、クレジットがなされなかったことで彼は後日不満を述べています。
ともあれ、ディッキーとレスのツイン・リードをフィーチャーしたこの二曲は、それまでのオールマン・ブラザーズ・バンドには無かった明快さを持ち、バンドに新風を吹き込みました。レスはシングル・コイルのP-90ピックアップが装備されたゴールド・トップを使用。ディッキーのハムバッカーを聴き比べることができます。切れ味の良いフレーズはレスによるものでしょう。『ブラザーズ&シスターズ』は『フィルモア・イースト』ではあまり聴くことができなかった、レスポールの「陽の側面」を披露してくれたと言えるでしょう。



レスのファースト・ソロ・アルバム『レス・デューデック』(1976年)。冒頭を飾る「シティ・マジック」は、オールマン・ブラザーズ・バンドやドゥービー・ブラザーズにも通じる躍動感溢れる曲調です。
TOTOのオリジナル・メンバーを従えながらもAOR風味にはならず、骨太のロックに仕上がっている点も興味深いですね。



↑レスのサウンドを現行モデルで再現するならP-90ピックアップが搭載されたこのトゥルー・ヒストリック56レスポールがお勧め。

このようにして日本でもサザン・ロックが定着していくことになりますが、NHKのテレビ番組『ヤング・ミュージック・ショー』が1975年に放映したシカゴ、オールマン・ブラザーズ、マーシャル・タッカー・バンド、ウェット・ウィリーの回は、シカゴ以外は全てサザン・ロックのバンドでした。サザン・ロックの紹介に一役買ったと言えるでしょう。中でも親指のダウン・ピッキングでギターを奏でるマーシャル・タッカー・バンドのトミー・コールドウェルは異彩を放っていました。
それでは次にマーシャル・タッカー・バンドのアルバム、『ロング・ハード・ライド』を紹介しましょう。

●ロング・ハード・ライド(原題Long Hard Ride)


1973年にデビューしたサウス・キャロライナ出身のマーシャル・タッカー・バンドですが、『ロング・ハード・ライド』は1976年発表の五作目。彼らはオールマン・ブラザーズ・バンド同様、ブルースやカントリーに根ざしたサウンドを信条としますが、声量あるダグ・グレイのボーカルが相まって広々とした風景を連想させる牧歌的な雰囲気をも漂わせます。このアルバムは、西部劇を思わせるジャケット通りのインストゥルメンタルのタイトル曲がまず印象的です。バンジョーに以前取り上げたニッティ・グリティ・ダート・バンドのジョン・マッキューエン、フィドルに後述のチャーリー・ダニエルズが起用されています。
リード・ギタリストのトイがハムバッカーのレスポール、リズム・ギタリストのジョージ・マッコークルはP-90のレスポールを使用していました。トイはレスポールをフェンダー・ツイン・リバーブに繋いでいます。四曲目の「1人で歩けば」や五曲目の「ウィンディ・シティ・ブルース」で聴かれるダイナミックで気持ち良く伸びるギター・サウンドは、デビュー・ヒット「キャント・ユー・シー」以来トイを象徴するものと言えるでしょう。やはりレスポールらしい音色ですが、ツイン・リバーブとのコンビネーションのせいか、よりなめらかで奥行きを感じさせてくれます。エッジの立ったオールマン・ブラザーズ・バンドのサウンドとは一線を画しています。
二曲目の「プロパティ・ライン」ではチキン・ピッキングを披露。チキン・ピッキングというとテレキャスターのイメージがありますが、レスポールでも演奏できることを証明しています。なお、何曲かで聴こえてくるペダル・スティール・ギターはトイによるものです。
またジョージも三曲目の「アム・アイ・ザ・カインド・オブ・マン」ではリード・プレイを披露。トイとは対照的な乾いたトーンの演奏です。

最後にこの『ロング・ハード・ライド』で客演したチャーリー・ダニエルズをフィーチャーしたチャーリー・ダニエルズ・バンドの『サドル・トランプ』を紹介しましょう。

●サドル・トランプ(原題Saddle Tramp)


チャーリー・ダニエルズ・バンドは1950年代から活躍してきたチャーリー・ダニエルズを中心にしたバンドで1971年にデビューしています。『サドル・トランプ』はチャーリーのソロ名義作品を入れて七作目で1976年に発表されました。ここでもチャーリーとトム・クレインのツイン・レスポールがフィーチャーされています。
上記二バンドと比べると手数はやや多めの印象がありますが、骨太でワイルトな点は共通しています。カントリー・ミュージシャンとしても知られるチャーリーらしいウエスタン・スウィングやカントリー調のナンバーはもちろん、二曲目のタイトル・トラックなどオールマン・ブラザーズ・バンドを思わせるツイン・リードとキメを持った楽曲を含むバラエティに富んだアルバムです。
マーシャル・タッカー・バンドからトイ・コールドウェルとポール・ホーンズビーがゲスト参加しています。オールマンやマーシャル・タッカーに興味を持ったら、チャーリー・ダニエルズも聴いてほしいと思います。

最後に、現在数多くのレスポールのバリエーションが発売されていますが、昔と変わらぬルックスで、比較的リーズナブルな価格のモデル二機種を紹介いたしましょう。



↑現行のレスポール・スタンダードはウェイト・リリーフ(ボディを軽量にするための空洞)が施され、グローバーのロック式のペグをフィーチャー。。



↑旧来のレスポール・スタンダードのスペックを受け継ぐレスポール・トラディショナル。1970年代当時に憧れたレスポール・スタンダードに近いイメージのモデルです。

 

いかがでしたでしょうか。どれも、「これぞレスポール」、「レスポール以外も何者でない」というサウンドを存分に味あわせてくれるアルバムです。しかも、グルーヴィで気分を高揚させてくれます。
ちなみに、私はこれらのアルバムを聴くと、アメリカ南部の荒野、もしくは夜のバーを連想します。自分のギターを取り出して一緒に弾きたくなったり、バーボンが飲みたくなったりもします。アメリカ南部に想いを馳せるのも楽しいものです(画像のカウボーイ・ハット、ウスタン・ブーツも自前です)。

註:本来の発音に近く表記するのであれば、デュアンではなくデュエインとするべきところなのですが、日本では一般にデュアンと呼ばれているのでここでもデュアンの表記を採用します。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。勤続30年以上。吉田拓郎に憧れ12歳でギターを始める。スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線も演奏するマルチ弦楽器奏者。ウエスト・コースト・ロックとマーティン・ドレッドノート、フェンダー・テレキャスター、リッケンバッカー12弦ギター、ワイゼンボーンをこよなく愛する。ライターとしても活躍中で、伝説のムック「丸ごと一冊ヤマハFG」にも執筆。

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