CSNYを聴いてマーティンD-45に憧れた僕達 楽器考察シリーズ第五弾『デジャ・ヴ』/CSNY

アルバムを聴いて使用楽器を考察する「楽器考察」シリーズ第五弾はクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(以下CSNY)の『デジャ・ヴ』(1970年)を取り上げてみたいと思います。

CSNY

CSNYは、元バーズのデイヴィッド・クロスビー、元バッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルス、元ホリーズのグレアム・ナッシュ、元バッファロー・スプリングフィールドのニール・ヤングによるアメリカ西海岸ロック・シーンのスーパー・グループ。元々はクロスビー、スティルス&ナッシュ(以下CSN)としてスタートしていましたが、間もなくニール・ヤングが加わりCSNYとなりました。
アコースティックとエレクトリック・サウンドを大胆に融合させたアンサンブルと独特のコーラス・ワークはその後の西海岸ロック・シーンに大きな影響を与えました。前回取り上げたイーグルスはその代表格ですが、日本のフォーク・シーンへの影響もはかりしれないものがありました。GARO、NSP、THE ALFEEなど、その影響を受けたアーティストは枚挙にいとまがありません。特にGAROのCSNYのカバーは完全コピーと言える演奏で、語り草になっています。

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↑マーティンの40番台の魅力を紹介する『マーティン・ヴィンテージ・ギター・ガイド』。南こうせつ、石川鷹彦がD-45を語る中でCSNYに言及しています。

イーグルスに影響を与えたCSNYの使用ギターもまたマーティン、ギブソン、グレッチなどで、やはりアメリカン・ギターのカタログ的内容でした。中でも4人が揃って所有していた当時のマーティンの最高峰アコースティック・ギター、D-45は衝撃的でした。言い換えれば、1968年に再生産が開始されたばかりだったマーティンD-45はCSNYによって音楽ファン、ギター・ファンに紹介されたのです。その後、多くの日本のミュージシャンがD-45を所有するようになりましたが、ほとんどがCSNYの影響と言っても過言ではないでしょう。マーティンD-45伝説はCSNYによって生み出されたのです。また、日本のギター・メーカーの多くがD-45のコピー・モデルを作ったのにはそういう背景があったのです。
ちなみに、彼らのD-45は再生産直後の物なのでサイド&バックにハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)が使用されています。ヘッドストックに丸みがあるのも特徴です。全員揃ってバークリーの楽器店で購入したということです。

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↑CSNYは1970年に一旦解散しますが、翌年に二枚組ライブ盤として発売された『4ウェイ・ストリート』のジャケットにはナッシュ以外のメンバーがマーティンD-45を持って登場。

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↑現行のマーティンD-45。仕様変更はありますがフラッグシップ・モデルとしての地位は不動です。

 

それではメンバーが用する主な楽器を紹介しましょう。なおCSN、CSNYは解散、再結成を幾度も繰り返しますが、全盛時代と言える1970年代前半までの使用楽器を重点的に紹介します。

●デイヴィッド・クロスビー
アコースティック・ギターは、マーティンD-45のほか、同D-18を12弦ギターに改造した物(後にマーティンよりシグネチャー・モデル化された)やギルドのドレッドノートの使用が知られます。
エレキ・ギターはフェンダー・ストラトキャスター、グレッチ・カントリー・ジェントルマン、ギブソンらしきセミアコの12弦ギターの使用が確認できます。近年リリースされた1974年のライブでは、アレンビックのセミアコ12弦ギターも使用されていました。

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↑現行のカントリー・ジェントルマン

●スティーヴン・スティルス
スティルスはギター・コレクターとしても知られており、そのリストはかつて日本でも『楽器の本』(1976年)に紹介されましたが、ここではステージやレコーディングで使用されたであろう主なアイテムを挙げてみましょう。
アコースティック・ギターは、マーティンD-45、同D-28が有名ですが、後者にはヘッドストックのロゴがD-45同様のヴァーティカル・ロゴ(縦ロゴ)の物もありました。
エレキ・ギターは、ギブソンSG(プルサイド・ウェイ・アーム付き)、同ファイアバード、グレッチ・カントリー・ジェントルマン、同ホワイト・ファルコンの使用が確認できます。

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↑スティルスのシグネチャー・モデルのホワイト・ファルコン。現行品です。

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↑彼らのファースト・アルバム、『クロスビー、スティルス&ナッシュ』(1969年)。まだヤングは参加していません。ヘンリー・ディルツ撮影のジャケットにはマーティンD-28が登場。冒頭の「組曲:青い目のジュディ」のスティルスのアコースティック・ギター演奏は圧巻。パンチのあるコーラスと一度と五度のみで構成されたオープン・チューニングの響きに誰もがKOされました。

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↑スティルスのファースト・ソロ・アルバム『スティーヴン・スティルス』(1970年)。ジャケットにはマーティン000-45が登場。

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↑スティルスのコレクション紹介記事も掲載された『楽器の本』(1976年刊)。

●グレアム・ナッシュ
ナッシュは歌に徹することが多く、必ずしも楽器を演奏するとは限りません。アコースティック・ギターはマーティンD-45のほか、エピフォン・テキサンの使用が良く知られます。エレキ・ギターはフェンダー・ストラトキャスター、ギブソン・レスポール・カスタムなど。

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↑テキサンの限定版復刻モデル。

●ニール・ヤング
アコースティック・ギターはマーティンD-45、同D-28、同D-18、ギブソンJ-200など。当時使用していたD-28はスティルス同様ヴァーティカル・ロゴの物でした。ピックガードがオーバー・サイズでトップに修理の痕跡が見られました。

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↑当店で特注したヴァーティカル・ロゴのHD-28のカスタム・モデル。ピックガードもオーバーサイズを再現。販売完了品。

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↑現行のSJ-200 Standard

エレキ・ギターはグレッチ・ホワイト・ファルコン、ギブソン・レスポール(通称オールド・ブラック)、同フライングVなど。

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↑ニール・ヤングが使用していたフライングVと同タイプのエピフォン版復刻モデル。

ちなみにオールド・ブラックは1953年製と言われており、バッファロー・スプリングフィールドの仲間、ジム・メッシーナから譲り受けたものだそうです。元はゴールド・トップですがブラックにリフィニッシュされたり、ピックアップやピックガードが交換されたり、ビグスビーのアームが取り付けられたりと、大幅なモディファイがなされています。もっとも、このギターが注目されたのは70年代後半に「ライク・ア・ハリケーン」のPVが放映されてからと言えるでしょう。

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↑ニール・ヤングのソロ作品としては最も代表的な『ハーヴェスト』。こちらもマーティンD-45を使用して録音されたと言われています。

なおCSNYには専任のベーシスト、ドラマーがいません。『デジャ・ヴ』には、ベーシストとしてグレッグ・リーヴス、ドラマーとしてダラス・テイラーが参加しています。ただしレコーディングでは、スティルスも一部の曲でベースを弾いています。

それでは、各曲を解説していきましょう。

① キャリー・オン(Carry On)
スティルスの作品。イントロの力強くグルーブのあるアコースティック・ギター・サウンドが大変印象的なナンバー。この音色はまさしくD-45でしょう。スティルスならではのオープン・チューニングがより一層深い響きを作り出します。最近の音楽においては、ここまで力強いアコースティック・ギターのサウンドは聴くことはほぼ困難でしょう。
コーラスもギターに負けず重厚ですが、この曲ではニール・ヤングは不参加です。エレキ・ギター、エレキ・ベースもスティルスが、コンガはスティルスとナッシュが担当しています。スティルス独特の指弾きのリード・ギターもフィーチャーされています。途中で曲調が変わり、スティルスが弾くB-3オルガン、ワウをかけたエレキ・ギターがコーラスと印象的に絡んできます。

ちなみに、この曲はステージではアコースティック・ギターが使われません。ハウリングの問題があるのでしょう。
CSNYのみならず、イーグルスやドゥービー・ブラザーズでもレコーディングではアコースティック・ギターが使用されていた曲が、コンサートではエレキで演奏されているのに気付いた方も多いでしょう。大音量の中ではアコースティック・ギターの使用は難しい場合があります。バンドの中でのアコースティック・ギター、エレアコのハウリングは悩みの種と言えますが、彼らを見習って楽曲によってはエレキに持ち替える工夫も必要でしょう。

② ティーチ・ユア・チルドレン(Teach Your Children)
映画『小さな恋のメロディ』でも使用されたナッシュの作品。彼らの代表曲の一つです。西海岸で湧き起っていたカントリー・ロックの音楽スタイルを世界に広く紹介したナンバーでもあります。コーラスありきで成立する旋律を持ち、CSNY流コーラス・ソングの極みと言えるでしょう。と言っても、この曲にもヤングは不参加。ナッシュとスティルスの弾くマーティン・ギター・サウンドとグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが弾くペダル・スティール・ギターの絶妙なアンサンブルが心地良いですね。ここでもスティルスはベースも担当。

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↑CSNYに刺激を受けたのか、サイケデリック・ロックの代表格グレイトフル・デッドも『ワーキングマンズ・デッド』(1970年)でアコースティック路線に進みます。

③ カット・マイ・ヘア(Almost Cut My Hair)
クロスビーの作品。ロック色の濃いナンバーでクロスビーの力強いボーカルとリズム・ギター、スティルスとヤングのツイン・リード・ギターがフィーチャーされています。オルガンはナッシュが担当。ロック・バンドとしてのCSNYの力量を発揮しています。

④ ヘルプレス(Helpless)
ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』でも披露されたヤングの作品。スティルスが弾くバイオリン奏法を駆使したエレキ・ギターが印象的です。ピアノもスティルスが担当。ヤングのけだるいボーカルとCSNの張りのあるコーラスのコントラストも特徴的です。

⑤ ウッドストック(Woodstock)
盟友であるカナダ出身のシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェルのナンバー。メインのボーカルはスティルス。クロスビー、スティルス、ヤングがエレキを弾き、スティルスはオルガンも、またナッシュがピアノを担当。ジョニのバージョンとは異なり、力強いロック・ナンバーに仕上がっています。このアルバムに収められたロック調のナンバーに共通して言えますが、スティルス、ヤングともにリード・ギターにはグレッチを使用していると思われます。

⑥ デジャ・ヴ(Deja vu)
クロスビーの作品。いかにも彼らしいやや複雑で難解なハーモニーで始まり、少しずつ曲調が変化していく。バーズのサイケデリック期のサウンドにも通じる一面があり、また途中からビーチ・ボーイズ的なハーモニーの旋律やスティルスのブルージーなギターも聞こえてきます。不思議な余韻のあるナンバーだ。ベース、ピアノもスティルスが担当。途中で聞こえてくるハーモニカはラヴィン・スプーンフルのジョン・セバスチャンによるもの。

⑦ 僕達の家(Our House)
日本でもテレビCMやドラマに使用されてきたお馴染みのナンバー。ナッシュの作品。ピアノがメインでギターは使用されていません。
ちなみに、彼らのコンサートでは、「ティーチ・ユア・チルドレン」、「僕達の家」は観客と一緒に合唱するのがお約束となっていました。

⑧ 4+20
フォーク・ブルース・スタイルのスティルスの作品で、彼の弾き語りとなっています。元々ソロ・アルバム用に用意していたそうです。マーティンらしい、太く存在感のあるギター・サウンドが聞こえてきます。近年の音楽で聴かれるアコースティック・ギターの音色はほとんどの場合ハイ・ファイに処理されていますが、ここで聴かれるロー・ファイな音色には時代を感じさせます。スティルスのハスキー・ボイスとも良くマッチしています。ノスタルジックなギター・サウンドとも言えるでしょう。

⑨ カントリー・ガール(Country Girl)
a. ウィスキー・ブーツ・ヒル(Wisky Boot Hill)
b. ダウン、ダウン、ダウン(Down, Down, Down)
c. カントリー・ガール(”Country Girl” I Think You’re Pretty)
ヤングの作品。オーケストラを起用したアレンジはヤングのソロ作品でも聴くことができますが、このアルバムの中ではやや異色なナンバー。ヤングのらしいコード展開で歌をじっくり聴かせる演奏です。

⑩ エヴリバディ・アイ・ラヴ・ユー(Everybody I Love You)
スティルスとヤングの共作。二人のギターとCSNYらしい分厚いコーラスをフィーチャーしたロック・ナンバー。実のところ、CSNYはバンドというよりソロ・アーティストの集合体的な形態ですが、この曲などを聴くと、やはりCSNYでなければ出せないサウンドがあることを確信します。

いかがでしたでしょうか。四人の個性が反映された楽曲とボーカル、フォークとロックの垣根を超えたアンサンブル、オープン・チューニングをフィーチャーしたギター・サウンドなどユニークな要素が盛りだくさんでした。その中で私達の印象に一番深いのはやはりこのアルバムの「キャリー・オン」やファーストの「青い目のジュディ」で聴かれるようなダイナミックなマーティン・サウンドと言っても過言ではないでしょう。この記事をきっかけに改めてその素晴らしさを実感いただければ幸いと思います。
次回はツイン・レスポールをフィーチャーしたサザン・ロック・バンドを取り上げてみたいと思います。ご期待ください。

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