【Vintage File】#12 Favilla 1950-60年代製 B-2 Baritone Ukulele ~移民の歌~

アコースティックギター ウクレレ ヴィンテージ 特集
渋谷店佐藤です。
前回の【Vintage File】では異形の6弦ベースとして「Fender Bass VI」を紹介させて頂きましたが、今回も前回に引き続き、低音寄りのやや変わった逸品を紹介させて頂きます。



「Favilla B-2」
【Vintage File】初のウクレレの登場、しかもバリトン・ウクレレです。正確な資料が少なく、年式の特定が難しいのですが、シリアル・ナンバーや全体的な仕様から類推すると、1950年代末期~60年代前期に製作されたものと思われます。

ここで、Favilla-ファビラ-について、残された資料等から読み解けるその歴史を簡単に紹介させて頂きます。
その語感から想像できるように、そのルーツは19世紀、イタリアでヴァイオリン製作を行っていたフランシスコ・ファビラ氏にまで遡ります。
フランシスコ氏の下、元々はイタリアにて家族で楽器製作を行っていたファビラ一家ですが、1890年に新天地であるアメリカ・ニューヨークでの楽器製造業をスタートさせます。その後、ギター、ウクレレ、バンジョー、マンドリン等、当時のアメリカにおけるポピュラー音楽で使用される機会の多い楽器の製造も行うようになり、徐々にその規模も拡張。生産規模のピークは丁度このB-2が製造された1950年代末期~60年代初頭とされています。

改めて各部を見てみましょう。

 

チョコレート・ブラウンカラーとも言うべき深みのある色合いが美しい、オール・マホガニー・ボディの1本です。
ウクレレのサイズは基本はソプラノ→コンサート→テナー→バリトンの4種類で、この順番でボディサイズが大きくなります(ソプラノが最小)。バリトンともなると、かなり音量が出ますが、ポロポロとしたウクレレらしいニュアンスはしっかりと保たれています。

 

ヘッドストックの形状はオーソドックスですが、盾が全面的に描かれた「クレスト」とも言うべきロゴ・マークが欧州に出自を持つブランドらしい印象で、個性が光ります。
楽器に限らず、自動車メーカー等でも、欧州のブランドは中世~近代の貴族やギルド(商工会)等のエンブレムを基にしたものか、クレストをロゴ・マークに取り入れている例が多いですね。

また、モデル名の付け方に関しても、ファビラは欧州出身のブランドらしく、所謂愛称を用いずに、アルファベットと数字を組み合わせただけのシンプルな型番ネーミングである点が特徴です。
例:金属弦のフラットトップ・アコースティックギターのF-5やF-6、ガット弦のクラシック・ギタースタイルのC-5やC-6など
同様の現象は同じイタリアのメーカーであるEko等でも見られます。

こちらも、近年はそうでもないのですが、60~80年代あたりまでの自動車メーカーのネーミングでも、「数字や記号の組み合わせネーミング」の欧州メーカーに対し、「愛称」を付けるアメリカメーカーといった同様の現象が見て取れますね。
例:欧州メーカーのポルシェ「911」、シトロエン「DS」、フェラーリ「275」に対し、アメリカメーカーのシボレー「コルベット」、フォード「マスタング」、ポンティアック「ファイアバード」などなど...もちろん例外はありますが・・・。

欧州とアメリカのものづくりに対する気質の違いが伺える、興味深いポイントです。

 

この時代らしく、指板とブリッジはハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)です。
塗装はラッカーで、ボディ各所に経年によりウェザー・チェックが入った味のあるルックスです。指板にも塗装が吹かれていますね。

尚、ウクレレの中で基本的にバリトン・ウクレレだけが調弦方法が異なっており、4弦からD,G,B,Eと、ギターの4-1弦と全く同じ音程になっています。そのため、ギターが弾ける方であれば簡単に弾けてしまうのもポイントですね。弦に関してはバリトン・ウクレレ専用弦を使用するのが基本となっています。

 

ボディ内部です。前述のクレストロゴ、アメリカでの楽器製作スタート年である1890年、シリアルナンバー、モデル名が記載されたかなり大柄なラベルが貼られています。ブレーシングやライニングなどは、比較的シンプルなつくりとなっています。

ファビラは1960年代にピークを迎えた後、日本で製造されたギターを「Aquila」のブランドネームで販売するなど活動を続けますが、残念ながら1986年には楽器の製造をストップ、ブランドとしての活動を休止してしまいます。同じ欧州からの「移民」ブランドであるMartinのような地位を築くには至りませんでしたが、所謂アメリカン・ブランドとはまた趣の異なる弦楽器群は今尚その魅力を放っています。
本器「B-2」、長年熟成されたマホガニーらしい非常にふくよかかつ枯れたトーンが素晴らしく、1世紀以上にわたって楽器製作に携わってきた人々の情熱を感じさせる、ロマン溢れる逸品です。私自身もファビラというブランド自体、アメリカで買付を行うようになって知りましたが、単に「ビザール・ヴィンテージ」の一言で片付けるにはもったいない魅力あるブランドだと感じます(過去オールマホガニーボディのフラットトップ・アコースティックギターのF-5もアメリカで買付けたことがありますが、そちらも非常に素晴らしいギターでした)。
ヴィンテージ・ファンならずとも、是非その魅力を味わってみては如何でしょうか?

次回の【Vintage File】もどんなブランドのどんな楽器が登場するのか、お楽しみに!

この記事を書いた人

佐藤俊太
渋谷店リユースマネージャー。普段は渋谷店に籍を置きつつ、イシバシ社内のエレキやベース、アンプ等含めた海外でのヴィンテージ楽器の買付も担当、定期的に渡米し現地のディーラー/コレクターと直接交渉を重ね買付を行っている。特にアコースティックギターに精通しているが、プライベートではパンクやガレージロック、ダークなアンビエント等を好み、愛器は1970年製Guild Bluesbird、モディファイした近年製SG Special、自作のストラト・タイプ、Mayonesの7弦などなど。個人的にはヴィンテージ/近年製問わずアクの強い楽器が大好物。はじめての楽器選びから一生モノとなるとっておきの1本まで、皆様の愛器との時間が最高のものとなるべく、精一杯お手伝いさせて頂きます。