【Vintage File】#13 Taylor 1995年製 410 ~新世代の野心家~

Taylor Taylor アコースティックギター ヴィンテージ 中古楽器 特集
3月下旬にもかかわらず寒い日が続きますが如何お過ごしでしょうか?
渋谷店佐藤です。買付等で行く機会の多い南カリフォルニアの温暖な気候が恨めしい今日この頃です。

今回の【Vintage File】は、そんな南カリフォルニアにファクトリーを構える"あの"ブランドから、年式こそ新しいものの、現行モデルとは全く異なる魅力を持つ1本紹介させて頂きます。



「Taylor 410」。1995年製の個体です。

ご存知の方も多いかとは思いますが、ここでTaylor(テイラー)のブランドとしての歴史を簡単におさらいさせて頂きます。

Taylorは1974年、創業者であるボブ・テイラーとカート・リスタグ、スティーブ・シェマーらが、アメリカ・カリフォルニア州のLemon Grove(レモン・グローブ)にて、それまで所属していたAmerican Dream(リペア・調整等も手がけるギター製作工房)を自分たちで買い取る形でスタートさせます。

American Dream時代から、GibsonやMartin、Guildなど、その時代のスタンダードと言えるブランドのギターの修理・調整を数多く手がけていたためか、所謂伝統的なフラットトップ・アコースティックギターの設計からは一歩引いて見直し、自分たちで新しいスタンダードを作っていこう!という気概の強いブランドで、そうしたリペアマン/クラフトマン上がりかつFenderにも通じるようなエンジニア気質が後に「NTネック」や「ES(エクスプレッション・サウンド)システム・ピックアップ」といったTaylor独自の革新的な機構を生み出していく事となります。

1970年代にスタートした比較的若いブランドながら、2017年現在、アメリカ本国では老舗ブランドであるGibsonやMartinを追い抜き、ナンバーワン・アコースティック・ギター・ブランドにまで成長している事でも知られています。
TaylorはLemon Groveでスタート後、1987年に同じカリフォルニア州のSantee(サンティ)にファクトリーを移転。さらに1992年には現在の拠点であるカリフォルニア州サンディエゴのEl Cajon(エル・カホン)に移転します。今回紹介させて頂く410は、エル・カホンに移転後の初期に製作された、移転前の1980年代以前の仕様・趣が色濃く残る1本となっています。

それでは、順番に各部を見ていきましょう。

 

現行の410はスプルーストップ、オヴァンコールサイド&バック、ボディの塗装は全面グロス(艶あり)仕上げとなっていますが、1995年製の本器はサイド&バック材にマホガニーを使用し、塗装は全面サテン(艶なし)仕上げと、ぱっと見のルックスも全く異なる仕様となっています。



Taylorの特徴的なヘッドストックです。
最新鋭のCNCルーター等、ハイテクデバイスを活用して効率的かつ高いクオリティでギターを加工・製造している事で知られるTaylorですが、ブランド創立当初から2017年現在に至るまで、変わらないデザインで最も原始的な方法で成形されている(ベルトサンダーを押し当てて成形)と言われているのがこのヘッドストックの上端部のデザインです。しかしながら、よく見ると現行モデルとは微妙に細部の造形が異なっている事がわかります。



参考までに、こちらが現行Taylor(画像は310ceのもの)のヘッドストックです。全体的なシェイプは同じなのですが、側面のカーブ具合や、エッジの鋭さが異なっています。

他の箇所も、現行モデル(今回は渋谷店店頭にある、ボディシェイプが同じ310ceで比較しています)との相違点を見てみましょう。

 

ネックグリップも現行のものとはかなり異なっています。左側が95年製、右側が現行品(310ce)です。
95年製の方は、80年代のLemon Grove時代から続く手のひらに吸い付くかのような極薄のUシェイプ。80年代の個体で見られるような超・極薄なものよりは多少肉厚感はありますが、それでも非常にスリムなネックです。対する現行モデルもスリムではあるのですが、全体的には肉厚感があり、シェイプも所謂ソフトVシェイプに近い印象ですね。

ボディ内部も見比べて見ましょう。

 

左側が95年製、右側が現行品(310ce)です。まるで別のブランドのギターかのように形状が全く異なっている事が見て取れ、そこから出されるサウンドもやはり異なっています。
70年代末期からTaylorはスキャロップドXブレーシングを採用し始めますが、95年製の内部もその流れを汲む仕様で、ライバル・ブランドかつ元祖にあたるMartinのものとは形状もかなり異なっています。また、本器はピンレス・ブリッジ仕様のため、ブリッジプレートに穴が開いていない点が特徴的です。

対する現行品は比較的がっしりした印象のノンスキャロップド・ブレーシング。台形というよりは底辺の長い三角形に近い形状のトーンバーも印象的です。バックブレースの形状も微妙に異なっていますね。ピックアップは最新のES2がインストール済みです。

 

ネックブロック付近です。ラベルのデザインも20年時代が違うと大幅に変更されていますね。95年製の方はバックのセンターシーム材が無いのも特徴です。



今回取り上げた個体の最大の特徴と言える、エボニー製オリジナル・ピンレス・ブリッジ!Ovation等でも見られるタイプのブリッジピン不要・裏通しタイプのブリッジから、さらに洗練されたようなかっちりしたデザインです。
非常に引き締まったタイトさを感じさせつつもボリューム感・箱鳴り感のあるサウンドを生み出す重要なファクターとなっています。

1995年製と新しい年式ではありますが、現行品のギターとは全く異なる設計思想・ロマンで溢れており、飛び出すサウンドも現在のTaylorの所謂優等生的なバランスの良いハイファイな鳴りとは全く異なる、非常に個性的なトーンです。個性的とはいってもボリューム感や出音のバランスは非常に優れており、力強いコード・ストロークから、繊細なソロ・ギタースタイルまで、ジャンルやシーンを選ばず活躍できる印象ですので、人とは違うちょっと変わったギターを持ちたい方、かつしっかりと鳴ってくれるお手頃なドレッドノートをお探しの方には非常にしっくり来る1本なのではないでしょうか?

次回の【Vintage File】も、是非お楽しみに!

この記事を書いた人

佐藤俊太
渋谷店リユースマネージャー。普段は渋谷店に籍を置きつつ、イシバシ社内のエレキやベース、アンプ等含めた海外でのヴィンテージ楽器の買付も担当、定期的に渡米し現地のディーラー/コレクターと直接交渉を重ね買付を行っている。特にアコースティックギターに精通しているが、プライベートではパンクやガレージロック、ダークなアンビエント等を好み、愛器は1970年製Guild Bluesbird、モディファイした近年製SG Special、自作のストラト・タイプ、Mayonesの7弦などなど。個人的にはヴィンテージ/近年製問わずアクの強い楽器が大好物。はじめての楽器選びから一生モノとなるとっておきの1本まで、皆様の愛器との時間が最高のものとなるべく、精一杯お手伝いさせて頂きます。

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