超カントリー入門

アコースティックギター エレキギター カントリー 特集
前回は「超ブルーグラス入門」をお届けいたしましたが、今回は「超カントリー入門」です。これでブルーグラスとカントリーの違いをお分かりいただけると思います。

カントリーとは


カントリーはアメリカの白人音楽の象徴的存在です。古くはカントリー&ウエスタン(日本では単にウエスタンと呼ばれることが多かった)、さらにヒルビリーと呼ばれていました。カントリーは、イングランド、スコットランド、アイルランド系移民が持ち込んだフォーク・ソングがアパラチア地方で融合した音楽が源流です。そのルーツや音楽性にはブルーグラスと重なる要素もありますが、ブルーグラスはビル・モンローが考えて作り上げた音楽であり、カントリーは貧しい白人労働者のフォーク・ソングの源流的要素を残す音楽でした。

しかしながら、カントリーも様々な音楽と融合し、アメリカを代表する商業音楽に成長していきます。メッカとなったテネシー州ナッシュヴィルはカントリーのみならずアメリカの音楽産業を支える都市となり、かのギブソンもこのナッシュヴィルに引っ越してきています。商業的な規模はブルーグラスよりもカントリーの方がはるかに大きいのです。

歴史のある音楽なので、時代によって使われる楽器も多少異なりますが、コンテンポラリーなカントリーのスタイルにおいて使用される楽器を紹介しましょう。

カントリーのスタイルで使われる楽器


●アコースティック・ギター
まずアコースティック・ギター。主にリズムを刻みますが、特徴的な奏法としてベース・ランを入れるカーター・ファミリーのスタイルがあります。マーティンのドレッドノートに代表される大型のギターは、カントリーの隆盛の中で人気を博していきました。今のようなPAシステムが確立する以前、大勢の聴衆を前にバンドで演奏するカントリー音楽ではギターには大きな音が要求されました。ドレッドノートはそれに応えるものでした。かつて、大型のアコースティック・ギターをウエスタン・ギターと呼ぶことがありましたが、カントリー&ウエスタンに使用されたギターだったからです。

ちなみに、コーヒー・ハウスのような小さな場所で弾き語り演奏をするフォークの世界では、暫くの間はトリプル・オーなどの旧来からのサイズのアコースティック・ギターが使用され続けました。そこで、当時はトリプル・オーなどのギターをフォーク・ギターと呼ぶこともありました。古いアコースティック・ギターの型番で、ドレッドノートがW、トリプルオーがFとなっているものを見かけることがありますが、ウエスタン・ギター、フォーク・ギターと呼んでいた時代の名残りです。

●フィドル(バイオリン)
必ず登場する楽器ではないですが、ブルーグラス同様、フィドルもカントリーには良く使われます。

●スティール・ギター


ハワイアンの楽器だったスティール・ギターが電気楽器化されて間もなく、カントリーにも導入されます。ハワイアンが衰退した後もスティール・ギターはカントリーで生き残ったばかりか、カントリーの分野において、フロア・ペダルやニー・レバーでチューニングを自在に操れるペダル・スティールへと発展していきます。

●エレキ・ギター

↑Fender American Vintage 52 Telecaste現行品

ホロー・ボディだった頃からカントリーでもエレキ・ギターが使われていますが、ソリッド・ギターが登場すると次第にそれに置き換わっていきました。特に1960年代よりフェンダー・テレキャスターが主流になっていきます。スティール・ギターの流れを汲む音色はまさにカントリーにぴったりと言えます。

●エレキ・ベース
元々はウッド・ベースが使われていましたが、フェンダーがエレキ・ベースを登場させると、ベースの主流もエレキになります。

●ドラム
カントリーとジャズが融合したウエスタン・スウィングが登場すると、カントリーでもドラムを使用するようになります。

●ピアノ
ピアノも使われます。カントリーでは、明るく軽快なホンキー・トンク・スタイルの演奏が象徴的です。

●シンセサイザー
近年のカントリーで使われる鍵盤楽器としては、ピアノ、オルガン、ストリングスなどのサウンドが一台でまかなえるシンセサイザーが主流と言っても良いでしょう。


お勧めシンガー&アルバム紹介


現在全世界で人気を博すテイラー・スウィフトも元々はカントリー・シンガーでした。しかしながら、今では誰もがそれと認識できる典型的なカントリー・テイストの楽曲は演奏しなくなってしまいました。むしろ、ロック・バンドがカバーしているカントリー・ソングの方が、それらしいスタイルを守っていることが多いと言えるでしょう。そこで、今回はロック・ミュージシャンに影響を与えたカントリー・シンガーを紹介していきましょう。なお、全員が自作自演歌手です。


●ハンク・ウィリアムス

↑Live At The Grand Opry/Hank Williams

日本でも一世を風靡したシンガーです。戦時中から戦後にかけて活躍。カーペンターズがカバーした「ジャンバラヤ」をはじめとして代表曲が数多くあります。ニッティ・グリティ・ダート・バンド、リンダ・ロンシュタット、ザ・ザなどハンクのナンバーを取り上げたバンド、歌手は枚挙にいとまがありません。鼻にかけた唱法はカントリーの典型ですが、黒人音楽の要素も持ち合わせており、短い生涯であったこともあってカリスマ的な存在となっています。そんな彼のライブ盤を紹介しましょう。ナッシュヴィルにあるカントリーの殿堂、グランド・オール・オープリーでのライブ盤です。有名曲が収録されており、オーバーダビングができない時代の嘘偽りのないライブ演奏です。
なお、ハンクはマーティンD-28の愛用者としても知られ、同社からシグネチャー・モデルも発売されたことがあります。ハンク本人が所有していた戦前のD-28は現在ニール・ヤングが使用。



↑ハンクの使用していたマーティンD-28のイメージに近い現行モデルのHD-28V


●ジョージ・ジョーンズ

↑The Bradley Barn Session/George Jones

ローリング・ストーンズ、デイヴ・エドモンズらにも影響を与えたシンガー。そのボーカルには味わいと豊かな表現力があります。カントリーには酒飲みや酒場を題材としたナンバーが多いですが、ジョージは大の酒好き。お酒で問題も多々起こしていますが、生粋のホンキー・トンク・カントリーと言えるでしょう。紹介のアルバムは1991年に発売された作品。当時の人気カントリー・シンガーやキース・リチャーズらがジョージと共演した話題のアルバム。ベスト盤的な選曲も嬉しい一枚。
ちなみに、ジョージもやはりマーティンからD-41ベースのシグネチャー・モデルが発売されていました。


●マール・ハガード

↑In Concert/Merle Haggard

カントリーと言うとアメリカ南部、中西部をイメージするかもしれませんが、カリフォルニアのベイカーズフィールドにも拠点がありました。ベイカーズフィールドのカントリーの代表的なシンガーの一人がマールです。ベトナム戦争の時代、アンチ・ヒッピー・ソングの体をなした「さすらいの流れ者」(原題Okie From Muskogee)がヒット。保守層の人気を博しますが、本人は戸惑ったようです。実際、マールはヒッピーのミュージシャンにも支持されていました。グレイトフル・デッドも彼の楽曲を取り上げていますし、カントリー・ロックのカリスマ、グラム・パーソンズはマールをアイドルに挙げていました。
バック・バンドのギタリスト、ロイ・ニコルスは手数こそ少ないですが、典型的なテレキャスター・サウンドを操る名手。しかしながら、このベスト盤的選曲のこのライブ・アルバムではさらにビッグネームで、テレキャスター・サウンドの確立者と言われるジェイムズ・バートンがリード・ギターを担当。マールの味のある歌声と、ジェイムズのキレの良いテレキャスターの妙を堪能ください。
なお、マールのシグネチャー・モデルはフェンダーから発売されています。



↑Fender Custom Shop Merle Haggard Signature Telecaster

マールの晩年のステージの愛器はシグネチャー・モデルでした。


●バック・オウエンズ

↑Live At Carnegie Hall/Buck Owens

バックもまたベイカーズフィールド・カントリーの立役者。マール・ハガードの歌には幾分憂いを感じさせますが、バックにはいかにもカリフォルニアと言った感じの陽気さが感じられます。バック・バンド、バッカルーズのサウンドも明快で、フィドルとリード・ギターを担当するドン・リッチと、ラルフ・ムーニー、トム・ブラムリー、ジェイ・ディー・メイネスと言った歴代ペダル・スティール・ギター奏者が生み出すバンド・サウンドも実にカリフォルニア的でモダン。ドン・リッチもまた、模範的なテレキャスター・サウンドを聴かせてくれます。ビートルズがカバーした「アクト・ナチュラリー」もバックのナンバー。またヴェンチャーズのノーキー・エドワーズ、メル・テイラーもバックのサポートをおこなっていたことがあります。紹介のアルバムは全盛時代のベスト盤的内容のライブ作品。

かつてフェンダーからバックのシグネチャー・モデル(日本で生産されアメリカで販売された)が発売されたことがあります。


●グラム・パーソンズ

↑Sleepless Night/Gram Parsons・Flying Burrito Bros.

最後に、カントリー・シンガーではありませんが、カントリーをロック・ファンに広めた功労者のグラム・パーソンズを紹介いたしましょう。ロック・バンド、バーズに参加し、彼らに前代未聞にロック・バンドによる本格的カントリー・アルバム『ロデオの恋人』(原題Sweetheart If The Rodeo)を作らせてしまった張本人。ロックとカントリーの音楽的な融合のみならず、戦争に反対する左寄りのロック・ファンと保守的な右寄りのカントリー・ファンを向き合わせたことが評価されています。またR&Bの要素も取り入れ、白人と黒人の音楽の融合も図りました。1973年に26歳の若さで亡くなりましたが、ローリング・ストーンズ、ベック、シェリル・クロウ、ノラ・ジョーンズなど、ジャンル、時代を超越した多くのミュージシャンに多大な影響力を維持しています。
グラムがバーズを脱退後に結成したフライング・ブリトー・ブラザーズ時代に録音したカントリー・ナンバーのカバーと、晩年のエミルー・ハリスとのデュエット・ナンバーを収録。当時のフライング・ブリトー・ブラザーズのパーソネルは、グラムのほか、クリス・ヒルマン(ベース)、バーニー・レドン(リード・ギター)、スニーキー・ピート(ペダル・スティール)、マイク・クラーク(ドラム)といったそうそうたる顔ぶれ。
ロック・ファンのカントリー入門に最適の一枚。


↑Gibson SJ-200 Standard現行品

グラムはギブソン、エピフォン、ギルドのアコースティック・ギターを好んだようです。グラムが愛用したJ-200(SJ-200)は、彼の死後、彼の意志を継いだエミルー・ハリスが使用しました。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。勤続30年以上。吉田拓郎に憧れ12歳でギターを始める。スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線も演奏するマルチ弦楽器奏者。ウエスト・コースト・ロックとマーティン・ドレッドノート、フェンダー・テレキャスター、リッケンバッカー12弦ギター、ワイゼンボーンをこよなく愛する。ライターとしても活躍中で、伝説のムック「丸ごと一冊ヤマハFG」にも執筆。

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