【Vintage File】#17 Fender 1966年製 Mustang White ~野生の暴れ馬~

毎朝渋谷のビル熱にうんざりしている渋谷店佐藤です。

本コーナーGuitar Quest 【Vintage File】第1回にて、「偉大なる廉価モデル」として1959年製のGibson Les Paul Juniorを紹介させて頂きましたが、今回はそれに勝るとも劣らない評価を受けており、ロックレジェンドの間でも愛用者の多いモデルを紹介させて頂きます。

Fender 1966年製 Mustang White。

フェンダー・ムスタングが世に現れたのは1964年。当時既に販売されていた初心者向けモデルの「Musicmaster」や「Duo Sonic」と、プロフェッショナル・シリーズのうちの1本である「Esquire」(Telecasterの1PU仕様モデル)の中間価格帯を埋めるモデルとして登場します。よく誤解されるポイントですが、ムスタングは元々は所謂「完全初心者向けの最も手頃なステューデント・モデル」というわけではなく、実際は当時の中級者やセミ・プロにも対応したモデルという位置づけでした。

「他のモデルと比較して手頃な価格で手に入るフェンダー」という点は変わらないのですが、当時の最新鋭かつ最上位モデルであるJaguarやJazzmasterで採用されていた左右非対称ボディやトレモロシステムを上手く応用しつつ、パーツやボディの加工・構造を簡略化する事で生産コストを抑え、手に入れやすい価格を実現していると言えます。

登場から半世紀以上経過した今尚、熱烈なファンの多いムスタング。カタログ・モデルとしてはUSA製のリイシュー・モデルが(リミテッド等の一部の例外を除き)現在も作られておらず、基本的にはアメリカ製のムスタングを探す場合は、オリジナルのヴィンテージを探すのが手っ取り早い方法と言えます。

そんなヴィンテージの1本である今回の66年製。順番に細部を見ていきましょう。

 

6弦側と1弦側で側面の抉れ位置が異なる左右非対称ボディは、前述の通りJaguar/Jazzmaster譲りのものですが、ムスタングは全体的に小振りかつやや緩めのフォルムでまとめられており、スタイリッシュながらどこか可愛らしいデザインです。
また、本器は1966年製のため、ボディバックにコンター加工(演奏者の肋骨が当たる位置への切り欠き)が無い所に注目です。

 

ウェザーチェックがびっしり入り、経年でアイボリーに近い色合いに変化したホワイト・カラーがクールです。尚、ムスタング(及びデュオソニック、ミュージックマスターといった同様に手頃な価格帯のモデル)の場合、カタログ上のカラー表記はストラトキャスターやジャガー等の上位機種に見られる「Olympic White」や「Candy Apple Red」といった所謂カスタム・カラーではなく、単に「White」「Red」「Blue」の3色のラインナップから選ぶ、という仕様となっていました。

 

ヘッドストックです。上端のコブ状の部位の面積が大きい、所謂(ムスタング・)ラージヘッド仕様。興味深いポイントとしては、そのコブ部分に「Original Contour Body」のデカールが貼られています。しかしながら、この年代のムスタングはボディにコンター加工が施されていません。この矛盾点に後になってFenderも気づいた為か、1967年頃から、このデカールが貼られていない個体が出現します。その後1969年頃になってムスタングにもコンター加工が施されるようになり、デカールも再び貼られるようになります。

 

ネックデイトは1966年6月16日。ローズウッドのラウンド指板で、適度に握り応えのあるBネック仕様です。
ボディ側のネックポケットには、塗装時のハンドル跡が残されています。また、本器はポケット部にシムを入れてアングルを調整してあります。

 

サーキットです。ボリューム&トーンコントロール・ノブの他、各ピックアップごとにスライド式のOn-Off-Onスイッチが備えられています。これにより、フロント、リア、イン・フェイズでの同時出し(一般的なセンターポジション)に加え、フェイズ・アウトしたカリカリ・チャキチャキとしたサウンドも出す事ができます。ポット、ピックアップ共に1966年デイトとなっています。

 

ムスタングの大きな特徴のひとつである「ダイナミック・トレモロ」ユニットです。先行してJazzmasterやJaguarで採用されていた「フローティング・トレモロ」ユニットの機構を簡略化して新たに開発されたものです。

 

トレモロユニットを取り出した様子です。その名の通り僅かなタッチ(手の動き)でもダイナミックにビブラートがかかる独特な機構に迫ります。

 

やや見えにくい図で恐縮ですが、プレートとの接地部分です。窪んだ部分が支点となり、弦とスプリングが引っ張り合ってバランスをとっている格好となっています。その為、この部分が正確に接触していないと、途端にチューニングが狂いやすくなってしまいます。ムスタングのセットアップが実はシビアと言われる所以のひとつです。しかしながらビブラートのかかり方は、ストラトキャスターで採用されている「シンクロナイズド・トレモロ」とは全く異なる、ダイナミックでまさにムスタング(野生の暴れ馬)らしいピーキーな面も持ちつつも、使いこなす楽しみ・喜びをプレイヤーに与えてくれる憎いポイントと言えるのではないでしょうか?

 

ブリッジ本体です。ブリッジ・サドルは、Jaguar/Jazzmasterの愛用者の中では、”弦落ち”解消のためのリプレイスメント・パーツ(交換用パーツ)としても有名ですね。下端のネジの先端部分が支点となり、トレモロをかけることによりブリッジ自体が前後に揺さぶられる設計となっています。さらにネジ自体が回転・上下し、弦高調整が可能です。

 

ケースは当時のオリジナル・ハードケース(通称シルバー・トーレックス・ケース)、さらに、ブリッジ・カバーとトレモロ・アームも付属します。

 

一見小振りで可愛らしいデザインながら、じゃじゃ馬らしいピーキーで癖の強い一面も持つムスタング。比較的手頃なモデルながら、随所にフェンダーらしいエンジニア気質の設計思想が見え隠れする点も興味深いポイントです。Charやカート・コバーン、ジョン・フルシアンテ、ノラ・ジョーンズ、ビリンダ・ブッチャーなどなど、プレイスタイルや男女を問わず、多くのロックレジェンド達に愛用されてきた事からも、その魅力が窺えますね。

また、ヴィンテージであってもお手頃なお値段の為、1本目のヴィンテージ・ギターとしても非常にオススメです。今回紹介させて頂いた66年製の個体は、ナット交換・リフレット済みで新品同様のフィールでがっつり弾き倒せるコンディションの為、その個性的なルックスとキャラクターを活かし、ステージ上での相棒としてもしっかりと活躍できる1本と言えます。

今回紹介させて頂いた1966年製の個体以外にも、現在イシバシ楽器渋谷店には複数本のヴィンテージ・ムスタングが揃っています。もちろん、お手頃なSquireブランドやJapan Exclusive(旧Fender Japan)といった現行の新品や近年製の中古も揃っていますので、是非弾き比べてビビっと来る1本を探し当ててみて下さい!
(今回紹介の1966年製は入荷したてのため、まだWEB商品ページができておりません。完成次第掲載致しますので、お見逃し無く!)

次回の【Vintage File】もお楽しみに!

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