【Vintage File】#20 Fender 1961年製 Jazzmaster Sunburst ~時代の潮流とは~

FENDER Fender USA エレキギター ヴィンテージ 中古楽器 特集
渋谷店佐藤です。
Guitar Quest【Vintage File】、早いもので今回で20本目です。
これからも独断と偏見を交えつつ、面白い楽器を紹介していきますので、よろしくお願い致します。

というわけで、20本目の今回は、超定番モデル!というわけではありませんが、現在に至るまで多くのミュージシャンの愛器としてステージで活躍し、Fenderというギターメーカーのものづくりの姿勢や、時代ごとの音楽のトレンドを語る上でも重要な、こちらのモデルを紹介させて頂きます。



Fender 1961年製 Jazzmaster。
前々回紹介させて頂いたJaguarより一足先に登場し、当時のフェンダーのフラッグシップとして君臨していたモデルです。

1950年代にテレキャスターやストラトキャスターといったソリッドボディのモデルを世に出し、現在に至るエレクトリック・ギターの時代の基礎を作ったフェンダーでしたが、50年代当時、ジャズ・ギタリスト達の間では、依然GibsonやEpiphoneのアーチトップ・ギターが幅を利かせていました。そこでフェンダーが開発したのがこのジャズマスターでした。その名の通り、Gibson等からシェアを奪う為ジャズ・ギタリストをメインターゲットとし、それに則した仕様としながらも、Gibson等の所謂"楽器職人"とは違う、エンジニア気質のフェンダーならではの思想が随所に盛り込まれているジャズマスター。各部を順番に見ていき、その秘密に迫りましょう。



ボディ裏面、こうして見ると、特徴的なボディ・デザインがわかりやすいです。このジャズマスターで初めて採用された「オフセット・コンター・ボディ」。その名の通り左右(6弦側と1弦側)でボディの切り欠きの位置が非対称となっているシェイプで、座って構えた時に自然にヘッド側が持ち上がり、楽に演奏しやすいデザインとなっています。座って演奏する事の多いジャズ・ギタリストをターゲットとしながらも、斬新さ・新鮮さも持ち合わせた美しい意匠です。

 

ヘッドストックおよび指板です。同時期のストラトキャスターと比較すると大柄なヘッドストック(通称ラージヘッド、後年ストラトキャスターにも採用)が採用され、ブランド~モデル名のロゴ・デカールも独自のものとなっており、上位モデルらしい風格があります。また、フェンダーのギターとしては初めてローズウッド指板が採用されたモデルでもあります。61年製の本器は、指板材はハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)で、指板材の体積が大きいスラブ貼り仕様となっています。

 

ネックジョイントを外した所です。ネックデイトはこの時期はまだ鉛筆描きで、「10/61」と確認できます。こちらの断面でも、指板がスラブ貼りである事が確認できます。また、この時期はネックポケットの塗装時のハンドル跡は見られない仕様のため、ポケット全体にサンバーストの塗装が乗っています。



ネックジョイント部のプレートにはシリアルナンバーの他、下部に過去のオーナーが施したであろう謎の英数字の文字列の刻印があります。末尾の"CA"はカリフォルニア州の略記でしょうか?

それではボディ内部も見てみましょう。

 

登場した際のジャズマスターはアルミニウム製の通称ゴールド・アノダイズド・ピックガードが採用されていましたが、ピッキングにより皮膜が剥がれてしまう等の理由があったためか、1959年には本器と同じようなベッコウ柄(カスタム・カラーの個体に関してはホワイト)のピックガードに変更されています。
前々回のジャガーを紹介させて頂いた際にも触れましたが、このタイプのピックガードは経年で収縮してしまう事が多く、うっかりピックアップやスイッチを取り外してしまうと、再度取り付けるのが非常に困難だったりします。その為、写真のようにピックアップをはめ込んだまま取り外し、その後で上手くピックアップ本体をカバーから取り出しています。ジャガーと並んで「好きだけど仕事でいじるのは嫌なモデル」の筆頭ですね・・・。他にももっといじるのが面倒で嫌なモデルも沢山ありますが・・・。

ボディのキャビティ内部にはシールディング用に金属製のプレートが貼られているのが確認できます。
コントロールはマスターボリューム&トーンに加え、前々回紹介させて頂いたジャガー同様、プリセット・トーンのon/offスイッチ及びボリュームとトーンのダイアルが備えられています。現代程フットペダル式のエフェクターやブースター、さらには多チャンネルのアンプ等が無い時代、バッキングとリードで音色をワンタッチで変えられるこの機構は、正にジャズ・ギタリストに向けた仕様でした。



ピックガード裏側にもシールディング用にプレートが貼られています。元々ゴールド・アノダイズド・ピックガードはシールディングの意図もあり採用されたのですが、ベッコウ柄に変更されても、このプレートが貼られている事でキャビティ内のプレートと合わせて電装系を包み込み、シールド効果が出るようになっています。複雑な配線を上手く狭いキャビティに収めるため、マスキングテープでコードが固定されています。
プレートの表面に"Jasie"サインが。アッセンブリを組み込んだ担当者の署名でしょうか?



ブリッジ・アンカーです。60年代初頭のものは、本器のようにアンカー自体のサイズが大きく、ややずんぐりしているのが特徴です。また、弦アース用の針金がアンカーに接しながら埋め込まれ、逆側の折れ曲がった先端部分でピックガード裏の金属プレートと接触し、アースが取れるようになっています。これも60年代初頭までの仕様です。

 

ジャズマスターのトーンのキモとなる専用のピックアップ。同時期のストラトキャスターのものと比べると、コイルが巻き取られている部分が幅広かつ背が低いのが特徴で、ジャズ・ギタリストが求めるような甘くファットなトーンを出す事を狙っています。また、本個体のものは初期型のため、表側は平坦ですが、裏側でポールピースが飛び出ているのが特徴です。

実際のジャズマスターのサウンドは甘くふくよか・・・というよりもかなりキレがあり、ライバルして想定していたGibsonやEpiphoneのアーチトップ・モデルと比較すると異質で、しっかり高音域が抜けるジャキっとした印象のものです。これはボリュームやトーンポットに、あえて抵抗値の高いものを採用している事や、ボルトオンのメイプルネックといった他の箇所の仕様が影響しています。
しかしながら、フェンダーのギターの中では比較的甘めでふくよかなトーンと表現される事が多く、この専用のピックアップによる所が大きいと言えるでしょう。



ピックアップの他にもう一点、独特な甘いトーンを生み出すファクターとなっているフローティング・トレモロ&ブリッジです。ストラトキャスターに搭載されていたシンクロナイズド・トレモロと比較すると音程の変化が緩やかで上品なのが特徴で、このジャズマスターで初めて採用された機構です。
ブリッジは年式によって細かく仕様が変わっていますが、本器は61年中盤までの、所謂最初期型で、サドルの溝のサイズが3パターン(6,5弦:幅広、4,3弦:中くらい、2,1弦:狭い)のタイプです。

 

前々回紹介させて頂いたジャガー同様の機構です。プレートにはパテントナンバーの刻印が入っています。

 

ケースはオリジナルの所謂ブラウン・トーレックスケースです。
この個体が新品時に販売したショップでしょうか?ケース内部に北カリフォルニア(サンフランシスコやサンノゼ辺り?)のギターショップ、"Stevens music"のステッカーが貼られています。ネックジョイント部のプレートの刻印(落書き)と関連性がありそうですね。最初のオーナーがカリフォルニア在住で、目印として彫ったのでしょうか?興味がつきません。

 



ジャガーを紹介させて頂いた際にも触れた通り、ジャズマスターは当初メイン・ターゲットとして想定していたジャズ・ギタリストにとっては先鋭的すぎたのか、あまり歓迎されませんでした。しかしながら、同時期ブームとなっていたサーフ・ミュージック/インスト系バンドのギタリストには、その歯切れの良いサウンドや、フローティング・トレモロによる緩やかなビブラート、流麗なボディ・デザインが受け、一躍人気モデルとなったのは嬉しい誤算と言えます。
その後、サーフ・ミュージックのブーム終了等、音楽のトレンドの変化により徐々に人気が落ちていき、80年には一旦生産中止となります。
しかしながら、80年代後期から90年代にかけて、再び脚光を浴びます。生産中止となり忘れられかけていたジャズマスターを手に取りステージで活躍させたのは、グランジ/オルタナ系バンドのギタリスト達でした。HR/HMや所謂産業ロックへのカウンターから生まれたグランジのように、「他のギタリストとは違うルックス/サウンド」を求めたプレイヤーにとって、琴線に触れるものがあったのでしょうか?
現在ジャズマスターは、プロ/アマ問わず多くのギタリストの愛用で知られるモデルとして一定の地位を築いており、新品のラインナップを見ても、お手頃なSquireブランドや日本製からUSA製やカスタムショップまで、幅広い選択肢の中から選ぶ事ができます。

ジャズマスターが現在の地位を手に入れるまでは紆余曲折あったわけですが、こうした歴史を辿ると、時代の潮流を捉え、狙い通りのプロダクトを出しヒットさせる事の難しさと、瓢箪から駒のような、その時代によって何が受けるか分からない面白さを感じられますね。

今回紹介させて頂いた61年製の個体も、入荷したばかりで掲載が間に合っておりませんが、準備が出来次第イシバシ楽器渋谷店のページにて掲載させて頂きますので、お見逃し無く!

次回の【Vintage File】もお楽しみに!

この記事を書いた人

佐藤俊太
渋谷店リユースマネージャー。普段は渋谷店に籍を置きつつ、イシバシ社内のエレキやベース、アンプ等含めた海外でのヴィンテージ楽器の買付も担当、定期的に渡米し現地のディーラー/コレクターと直接交渉を重ね買付を行っている。特にアコースティックギターに精通しているが、プライベートではパンクやガレージロック、ダークなアンビエント等を好み、愛器は1970年製Guild Bluesbird、モディファイした近年製SG Special、自作のストラト・タイプ、Mayonesの7弦などなど。個人的にはヴィンテージ/近年製問わずアクの強い楽器が大好物。はじめての楽器選びから一生モノとなるとっておきの1本まで、皆様の愛器との時間が最高のものとなるべく、精一杯お手伝いさせて頂きます。

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