マーティンD-28のバリエーション紹介

Martin アコースティックギター
前回に続きマーティンD-28の特集です。前回はモデル・チェンジしたD-28のスタンダード・モデルの新旧比較をおこないましたが、今回はD-28のバリエーションを紹介いたしましょう。

現行のD-28のバリエーション・モデルは、12弦仕様のD-12-28を除くと、いずれも過去のD-28の仕様を取り入れたり、再現しています。そして、その再現の程度や忠実度が異なるいくつかのモデルがラインアップされています。こういったモデルが登場した背景にはビンテージ・ギターへの探究心や憧れ、またデザインやサウンドの再評価があると言えます。

ちなみにD-28の場合、目立つ変化としては、ブレーシング、ネック内部のロッド、ネックの形状、ポジション・マーク、ボディ・トリム、ピックガード、ペグ、サドル、サイド&バック材が挙げられます(順不同)。

元々ビンテージ・ギターの探求は本国アメリカよりも日本の方が熱心だったと言えましょう。1970年代から1980年代の初め、日本ではマーティン、ギブソン、フェンダーなどのアメリカの人気ブランド製品のコピー・モデルが数多く作られましたが、コピー・モデルの視線が次第にビンテージに向けられていきました。多くの有名ミュージシャンがアコースティック、エレクトリック問わず、ビンテージ・ギターを使用していることが分かるとビンテージ・ギターが神話化されるようになりました。情報が少ない時代でしたが、写真などを基にまず外見を真似るところからスタートしました。

マーティンのビンテージのコピーの走りは1974年頃登場したブランド、ブルーベル辺りからと記憶しています。W-600というモデルが、戦前のD-28が採用したヘリンボーン・バインディングやベッコウ柄ピックガード、スロッテド・スクエア、スロッテド・ダイアモンドといったポジション・マークのデザインを取り入れ、他社製品との差別化を図りました。そして、間もなくマーティンの輸入代理店である東海楽器がキャッツアイというブランドを立ち上げ、戦前のD-45の復刻モデルを登場させます。70年代後半には、色々なブランドがビンテージ風のモデルを登場させました。今振り返るとそれらのアイテムはスペック的に中途半端であることは否めませんが、私達に未知なるビンテージ・ギターの門戸を開いたと言えるでしょう。さらに、経年や演奏者によって育まれたビンテージ・ギター独特の鳴り、また当時のギター特有の構造などが明らかにされてくると、ビンテージ・ギターへの興味とロマンが深まっていきました。

そんな頃、マーティン社は1976年に戦前のマーティン製品に採用されたスキャッロプド・ブレーシングとヘリンボーン・トリムを採用したHD-28を発売します。もっとも、当時の日本のギター・ユーザーは、国産コピー・モデルが採用していた「ヘリンボーン」は知っていても、「スキャッロプド・ブレーシング」という言葉はにはあまり馴染みはなかったのではないでしょうか。スペック的な知識が広がっていくまでにはまだ少々時間がかかりました。

それでは、D-28のバリエーションの現行機種を個別にご紹介していきましょう。なお、先日マーティン社のホームページにて、昨年リニューアルしたD-28以外のスタンダード・シリーズのモデルの仕様変更がアナウンスされました。今回ご紹介するモデルのいくつかも該当しています。今後の最新の情報もチェックくださいませ。

HD-28



1976年登場。上述の通り、D-28にスキャロップド・ブレーシング、ヘリンボーン・トリムを取り入れたモデル。レギュラーのD-28よりレスポンスが向上したサウンドとなりました。ブレーシングの位置が「フォワード・シフト」されていない点に注意。「フォワード・シフト」されていないため、音色は幾分タイトです。外見を含めビンテージの復刻版として見ると物足りないスペックということになりますが、マーティン社の狙いはサウンドのバリエーションにあるでしょう。力強さとクリアさを兼ね備えた印象のサウンドが特徴です。

HD-28V



2006年登場。1996年から1998年に生産されたHD-28VRが前身モデルと言えます。
フォワード・シフテッド・スキャロップド・ブレーシング、ヘリンボーン・トリム、バター・ビーン・ペグ、ロング・サドル、スロッテド・ダイアモンド&スクエア・マーカー、モディファイドVネックなどをフィーチャーし、戦前のD-28のイメージに近づけたモデルです。トップのフィニッシュにはエイジング・トナーが採用されビンテージ風の色焼けを再現していますが、今後このエイジング・トナーに関しては多くのモデルにおいて標準のフィニッシュとなっていくので、ビンテージ復刻モデルならではの特徴ということにはならなくなります。
レスポンスが良く、広がりのあるサウンドを持ち、ブルーグラスのフラット・ピッキングやフィンガースタイルなどの技巧的な演奏に向いたギターと言えるでしょう。

HD-28E Retro



マーティン・ギターらしいルックスを持ち、ラインアウトした音色もマーティン・ギターらしいことで、うるさ方も納得のエレアコのシリーズ、レトロ。レトロ・シリーズにおけるD-28バージョンは、上記のHD-28Vをベースにしています。ネック・シェイプがロー・オーバル・モディファイド、サドルがショートとなるなど、HD-28Vとの相違点もあります。フィッシュマンのモデリング技術を駆使した内蔵プリアンプが生み出すサウンドはスタジオ・ミュージシャンも絶賛しています。

D-28 Authentic 1937



D-28 Golden Era、D-28 Marquisと言った、HD-28Vよりさらに戦前のD-28の仕様に近づけたモデルが登場しましたが、その後決定版とも言えるAuthenticがラインナップに加わりました。こちらはその名の通り、1937年製のD-28に限りなく仕様を近づけたモデル。
トップ材にはVTS加工(ビンテージ・ギターの音響特性を再現する加工)されたアディロンダック・スプルースが採用され、またサイド&バック材にじは高価なブラジリアン・ローズウッドの代わりに、視覚的にも音色的にもブラジリアン・ローズウッドと同等のマダガスカル・ローズウッドが採用されています。オリジナルに忠実に、接着剤にはニカワが採用され、やや太めのネックにはTバーが内蔵されています。
豊かなボリューム、サスティンに圧倒されます。価格はD-45と同等ですが、その存在感あるサウンドはD-45に引けを取りません。


また最近になって、経年変化や使用感を新品に施したD-28 Authentic 1937 Agedも発表されました。

D-28 Brazilian



50本限定品。サイド&バックに希少なブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)を採用しながらも、価格を抑えた画期的なモデル。
アディロンダック・スプルース・トップ、フォワード・シフテッド・スキャロップド・ブレーシング、ヘリンボーン・トリム、バター・ビーン・ペグ、スロッテド・ダイアモンド&スクエア・マーカーが採用された、ほぼ戦前風のスペック、ルックスではありますが、ネックはロー・プロファイル、サドルはショートと一部に現代的なアレンジも施されているのが味噌。

D12-28



1970年登場の12弦ギター・バージョン。イーグルスのグレン・フライが愛用したモデルです。6弦仕様と同じような仕様変更の道を歩んできていますが、2018年にはHD12-28が発表されており、D12-28の行方が気になります。


いかがでしたでしょうか。誰もが憧れるマーティンD-28ですが、過去に作られたモデルも中古市場で見かけますし目移りするかもしれません。

力強い音色をお好みであれば、ノン・スキャロップド・ブレーシングのスタンダード・モデルが良いでしょう。タイプは新旧を問いません。1970年代のフォーク・ソングに親しんだ世代であれば、「迷ったらコレ」です。お値段も比較的リーズナブルなのでフォーク酒場にも気兼ねなく持っていけるのではないでしょうか。

テクニカルな演奏をされる方は、クリアな音色のHD-28、HD-28Vをトライしてみてください。

そして、道具にこだわる楽しみや持つ喜びをより一層満喫したいということであれば、Authentic、Brazilianなど本格的なモデルに是非ゲットしていただきたいと思います。男の書斎に似合う一本です。

今年2018年はスタンダード・シリーズ各モデルの仕様変更の年となります。目が離せないマーティンですが、期待しましょう!

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始める。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンであり、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代のファッションを好み、音楽のあるスローライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様の音楽スタイルはもちろん、ライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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