フォーク・シーンを支えた D-35

Martin アコースティックギター
マーティンのスタンダード・シリーズ紹介が続きます。今回はD-35を取り上げてみましょう。

歌の伴奏に相応しい軽快なサウンド


D-35は1965年に発売された比較的新しいモデルです。トップのブレース(力木)のサイズが1/4”となっており、D-28などの5/16”と較べると幾分細くなっているのが一番の特徴です。D-28はPAシステムが未発達だった時代ならではのボリュームを追求した設計と言えますが、D-35は当時流行していたフォーク・ミュージックのソフトなサウンドに照準を合わせた設計なのです。

D-35のもう一つの特徴は3ピースのバックです。D-35は、D-28同様、トップにスプルース、サイド&バックにローズウッドを使用しています。当時はまだブラジリアン・ローズウッドが使用されていましたが、すでに枯渇し始めていた時期でした。そこで材の節約のためバックを3ピースとしたのです。この3ピースのバックは1970年代にインディアン・ローズウッドへ以降した後も引き継がれました。ちなみに、モーリス、S.ヤイリ、ヤマキといった当時の日本のアコースティック・ギター・メーカーが、この3ピース・バック構造を積極的に取り入れました。木材の節約の目的ではなく、視覚的なファッション要素が強かったと思います。



↑後ろから見たD-35。3ピースのローズウッドが採用されています。



↑左はヤマキF135、右はモーリスB-12-35のバック。どちらもフォーク全盛期の日本製ギター。D-35に倣って3ピース・バックです。

和製フォーク抜きに語れないD-35


D-35は日本のフォーク・ミュージシャンに愛用者が多いギターでもあります。岡林信康、遠藤賢司、西岡たかし、なぎら健壱、中川五郎、吉田拓郎、イルカらが使用(遠藤賢司のD-35の元々の所有者は岡林信康)。しかしながら、正面から見るとD-28との違いはネックのバインディングの有無だったため、情報に乏しかった時代はD-28とD-35は混同されがちでした。ともあれ、フォーク・ジャンボリーなんて言葉を連想させてくれるギターがD-35。そう聞くとフォーク酒場通いのオジサマの触手が動くのではないでしょうか。D-35と10ホール・ハーモニカを持てばフォーク酒場のスターも夢ではないかもしれません。



↑フォーク雑誌だった頃(1970年代半ば)のヤングギターの表紙。吉田拓郎が持つギターはD-35です。




↑こちらも往年のヤングギターより「春一番コンサート」の写真。右はD-35を弾く若き頃のなぎら健壱。弊社のイベントに出演いただいたことがありますが、その際にもD-35を使用されました。



↑同じくヤングギターの「春一番コンサート」の写真。右上はD-35を弾く中川五郎さん。やはり弊社のイベントに出演いただいたこともあります。このD-35を中川イサトさんに貸し出したら、たいそうなピックアップが取り付けられてしまったとおっしゃられていました。



↑イルカ、故遠藤賢司と並び、長きに渡りD-35を愛用するなぎら健壱の名盤『葛飾にバッタを見た』。当時なぎらさんのピッキング・スタイルはフラット・ピッキングだと思っていたのですが、弊社のイベントでご本人からサム・ピッキングと教わりました。

モダン・フォークに合わせて登場したD-35ですが、洋楽ではカントリーのジョニー・キャッシュ、ブルース・ロックのロリー・ギャラガーといったミュージシャンも使用していました。比較的D-35の露出が多かったのはイーグルスです。D-28、D-18も使用していた彼らですが、特にグレン・フライ、ドン・フェルダーがD-35を良く使用していたようです。



↑(またまた登場の)イーグルスの初期のヒット曲を集めたベスト・セラー・アルバム。高価なマーティンD-45のイメージが強いウエスト・コースト・ロックの先達CSNYは、ウエスト・コーストの地域性を越えた評価がありましたが、ロサンゼルスのバンドであることを前面に表出したイーグルスは幾分カジュアルな(とはいっても十分高価な)マーティンD-18、D-28、D-35を愛用し、気取らないウエスト・コーストらしいファッションとシンプルなデザインのマーティン・ギターのイメージをオーバーラップさせました。

今年D-35は昨年のD-28に概ね準じた仕様変更がなされました。ノン・スキャロップドのフォワード・シフテッドXブレーシングが採用され、トップの塗装はエイジング・トナー、ピックガードがべっ甲柄となりました。ただし、ペグはオープン・タイプとならず、ロトマティックのままです。



↑モデル・チェンジ前のD-35。



↑2018年仕様のD-35。スタンダード・シリーズ共通の変更点であるビンテージ・ギターの黄ばみを再現したエイジング・トナーが採用されています。

D-28とD-35を比較してみると、D-28には力強さを感じ、D-35には柔らかさと明瞭さを感じます。単音の存在感が問われるリード・プレーやがつんとしたフラット・ピッキングにはD-28が相応しいかもしれませんが、軽やかな3フィンガー奏法や軽快なコード・ストロークにはD-35の方が気持ちよく決まる印象があります。機会があれば、弾き比べてみてください。

もし、フォークがお好きで、歌の伴奏で演奏するギターをお探しなら、D-35はベスト・チョイスかもしれません。

次回はD-41を取り上げてみたいと思います。ご期待ください。

⇒ Martin D-35 商品一覧はこちらから

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始める。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンであり、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代のファッションを好み、音楽のあるスローライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様の音楽スタイルはもちろん、ライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

Category