玄人好みの名器D-18

Martin アコースティックギター
前回に引き続きマーティンのスタンダード・シリーズを紹介していきます。今回はD-18を取り上げてみましょう。
実はこのD-18は、スタンダード・シリーズの中で唯一今回リニューアルされなかったモデルです。と言うのは、2012年に他のモデルに先行し、エボニー指板&ブリッジ、スキャロップド・ブレーシングなどのビンテージ・スタイルのスペックを取り入れた仕様変更がなされていたのです。



↑現行のD-18。

一見地味ながら名手が愛用


D-18はD-28が発売された1931年の翌年1932年に登場した古参モデルの一つです。D-28ではサイド&バックにローズウッドが使用されているのに対し、D-18はマホガニーが採用されています。ボディ・バインディングはべっ甲もしくは黒でブリッジ・ピンも黒という出で立ちで、シンプルなD-28よりもさらに地味な印象のルックスです。
私がD-18の存在を知ったのは、D-45同様中学生のときに読んだ雑誌『ガッツ』の石川鷹彦の機材特集でした。誌面上では、貝の装飾が入ったD-45と較べて視覚的なインパクトはありませんでした。当時、日本のギター・メーカーはこぞってマーティン製品のコピー・モデルを作っていましたが、D-18と似たルックスのモデルは安価な入門モデルがほとんどだったこともあって、正直なところD-18には惹きつけられませんでした。
しかしながら、高校時代に友人からドック・ワトソンのファースト・アルバムを借りたとき、ジャケットでドックが抱えているギターがD-18であることに気づきました。また同じ頃、元イーグルスのバーニー・レドンが結成したバーニー・レドン・マイケル・ジョージアディス・バンドのアルバム『歌にくちづけ』を購入したのですが、そのジャケットでバーニーが抱えているギターもD-18でした。そこでD-18にも興味を抱くようになりました。さらに良く調べてみると、ポール・サイモンやクラレンス・ホワイトもD-18を愛用していたことが分かりました。結局、私が最初に手にしたマーティンはD-28でしたが、楽器店でD-18と比較したものです。



↑ドック・ワトソンのファースト・アルバム『ドック・ワトソン』。ボーカルも味わい深いドックですが、ギターのテクニックが抜群。インストゥルメンタルの「ブラック・マウンテン・ラグ」、「ドックズ・ギター」をコピーした方も多いことでしょう。



↑バーニー・レドン・マイケル・ジョージアディス・バンドの『歌にくちづけ』。バーニー(左)はD-18、マイケル(右)はD-28を抱えています。



↑イーグルスの『イーグルス・ファースト』。バーニー・レドンが奏でる「魔女のささやき」のリズム・ギター、「今朝発つ列車」のリード・ギターの乾いたトーンのアコースティック・ギターはまさしくD-18でしょう。イーグルスの先達CSNYがD-45を中心にパワフルなアコースティック・ギター・サウンドを押出したのとは対照的です。



↑サイモン&ガーファンクルの『コンプレート・アルバム・コレクション』のジャケットに写るD-18を弾くポール・サイモン。



↑GuitarQuestでは既に紹介済みのケンタッキー・カーネルズの『アパラチアン・スウィング』。ジャケット中央のクラレンス・ホワイトは、写真でこそラージ・サウンド・ホールのD-28を使用していますが、レコーディングではD-18を使用。後年のローズウッドのドレッドノートの演奏と比較してみると、明らかに抜けが良くクリアな音色であることが分かります。

ブティック・メーカーが後押し、人気が開花


D-18の魅力は、マホガニー・サイド&バックならではのウォームなレゾナンスと抜けの良さにあると言えるでしょう。現行モデルはフォワード・シフテッド・スキャロップド・ブレーシングが採用され、よりクリアな音色となっています。速弾きやオープン・チューニングの際にも音の淀みを感じさせません。近年のテクニカルなブルーグラス・プレイヤーやフィンガー・スタイル・ギタリストの演奏スタイルにもマッチしたキャラクターと言えるでしょう。D-28ほど押し出しの強さを感じさせませんが、マイクの乗りが良く、スタジオで人気があるのも頷けます。宅録でも威力を発揮するギターです。
実際のところD-18が注目を浴びたのは、おそらく1980~1990年代あたりからでしょう。当時いわゆるブティック・メーカーが登場する中で、D-28のみならずD-18のレプリカが作られるようになりました。本家の新品よりも高価でありながら評判となったそれらの商品に、本家も少なからず刺激を受けたのではないでしょうか。マーティンも1995年に戦前のD-18のレプリカであるD-18ゴールデン・エラをギター・オブ・ザ・マンスとして登場させます。1999年にレギュラー製品化されるこのモデルは比較的高価であるにもかかわらず人気を博しました(現在は生産終了)。時代とともにユーザーの耳が肥えてきたことで、D-18の実力が広く認められたと言えるでしょう。



↑D-18 Golden Era。トップにアディロンダック・スプルースを採用。D-28に負けず劣らずの豊かなボリュームを誇り、ベスト・セラー・モデルの仲間入りをしました。余談ですが、日本ではゴールデン・エラと呼ばれるこのモデル、英語の発音に近い表記はゴールデン・イーラなのです。

スタジオ・ミュージシャンや玄人好みのギタリストに愛されるD-18は、さしずめ燻し銀の名脇役。一度手にしていただきたい名器です。

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次回もお楽しみに。

>>前回記事『フォーク世代の永遠の憧れ Martin D-45』はこちらから

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始める。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンであり、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代のファッションを好み、音楽のあるスローライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様の音楽スタイルはもちろん、ライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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