スモール・サイズ・アコースティック・ギターの代表格Martin 000-28

Martin アコースティックギター
Harvest Guitars店長の白井です。この原稿を書いている最中、フジロックフェスティバル’18に出演したボブ・ディランのサポート・メンバー、ドン・ヘロン氏がご来店。少々興奮気味です。

さて、またマーティン製品を取り上げてみましょう。昨年リニューアルしたスタンダード・シリーズのD-28については以前紹介いたしましたが、今回は今年リニューアルした000(トリプルオー)-28をご紹介することにしましょう。私のコーナーでドレッドノート以外のモデルを紹介するのは今回が初めてとなります。

それではまず「000」の意味から。これはサイズを示します。「000」モデルはボディ幅が15インチ、ボディの深さが4 1/8インチ、スケールが24.9インチとなっており、D-28に代表される「ドレッドノート」(ボディ幅15 5/8インチ、同4 7/8インチ、スケール25.4インチ)と比較すると小ぶりということになります。アメリカのポピュラー・ミュージックの発展の中での主流は、どちらかと言うとマーティンD-28、D-45などのドレッドノートでした。マイクで音を拾っていた時代、ボリュームが大きいドレッドノートは有利だったからです。特にバンド形式で演奏するミュージシャンの多くはドレッドノートを使用していました。もっとも、ドレッドノートが登場するまでは、000はマーティンのラインナップの中では大きいギターでした。マーティンには現在でも000よりも小ぶりなサイズの00(ダブルオー)、0(シングルオー)などが存在しています。より大きい会場で、より多くのオーディエンスに向けて演奏するために、またアンサンブルの中でしっかりと音が出せるように、ギターのボディ・サイズが大型化していったのでした。

そして「28」はトップにスプルース、サイド&バックにローズウッド、指板&ブリッジにエボニーを採用し、ボディにホワイト・バインディングを施したギターを意味します。D-28と000-28は、原則的に材は同一でサイズ違いのギターということになります。



↑今年リニューアルされた000-28。


和製フォーク全盛の1970年代、モーリスなどの日本のアコースティック・ギター・メーカーの入門モデルに000サイズのギターが多く見られましたが、本家マーティンの000モデルはドレッドノートほど多くは流通していませんでした。000-28はバート・ヤンシュが使用していたことで熱心なファンの間では注目されていましたが、当時はD-18同様玄人向けモデルのイメージがありました。日本ではフォーク・シンガーの本田路津子が000-28らしきギターを使用していたのをテレビで見た記憶がありますし、またジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタットらも000-28を使用していましたが、D-28、D-35、D-45といったドレッドノート・モデルほど普及することはありませんでした。

ちなみに、以前にも書きましたが、000などの小型のギターは弾き語りのフォーク・シンガーが使用する傾向にあったため「フォーク・ギター」と呼ばれていました。対してドレッドノートなどの大型のギターはカントリー&ウエスタンのバンド演奏に適していたのでウエスタン・ギターと呼ばれていたことがあります。



↑リンダ・ロンシュタットが弾くグローバー・ペグ時代の000-28。


000サイズのギターがメジャーになったきっかけを作ったのは、エリック・クラプトンのアルバム『アンプラグド』(1992年)と言って間違いないでしょう。デラニー&ボニーの映像を見る機会がありましたが、この頃エリックはまだD-45を使用していました。ソロ活動開始後に000を使いだしたようです。1974年か1975年頃、音楽雑誌にエリックが000-42を持っているグラビアを見た記憶があります。とは言え、当時のエリックはエレキのイメージが強く、アコースティック・ギタリストとしての影響力は今ほどありませんでした。しかしながら、エリック自身もファンも年を重ね、機が熟した頃に発売された『アンプラグド』は高い評価を得ました。MTVアンプラグドにおけるアコースティック・パフォーマンスを収録したこの作品の中で、エリックが1939年製の000-42を弾いたことから000が注目されるようになりました。そして彼のシグネチャー・モデルである000-42EC、000-28ECが発売されました。エリックのおかげで000はドレッドノートと並ぶ人気を博すようになったのです。



↑『アンプラグド』ジャケット。エリックが弾くギターは1939年製000-42。




↑000の人気を不動にしたエリック・クラプトン・シグネチャー・モデル000-28EC。


前述の通り、000はドレッドノートと比べるとスケールが短いため、テンションが柔らかめです。弦が押さえやすく、また音色も幾分ソフトです。またボディが薄いため、弦を弾いてから音が出るまでのレスポンスが早いという特徴もあります。ボリュームやダイナミクスの豊かさはドレッドノートに譲りますが、アコースティック・ギター用のピックアップが発達した今では、ボリュームが多少小さいことはハンデではなくなりました。000独特の特徴が広く浸透し、多くのファンを獲得しています。特に弾き語り、フィンガー・スタイルで演奏するギタリストに人気を博しています。
000-28はトップにスプルース、サイド&バックにローズウッドが採用され、小ぶりな割にはサスティンとボリュームを感じさせてくれます。000の中では比較的オールマイティに使用できるモデルと言えるでしょう。



↑エイジング・トナーが使用されたトップのフィニッシュ、ベッコウ柄ピックガード、ヘリンボーン・トリムが確認できるトップ。

 



↑ヘッドのロゴは金箔からデカール・ロゴに戻りました。




↑ペグはロトマティックから軽量なオープン・タイプに変更となりました。


さて今年リニューアルした000-28の特徴は、昨年リニューアルしたD-28以上に戦前のモデルのスペックに近づいたことです。

リニューアルしたD-28には採用されなかったスキャロップド・ブレーシング、ヘリンボーン・トリム、スロッテド・ダイアモンド&スロッテド・スクエア・インレイがこの000-28には採用されています。オープン・タイプのペグ、デカール・ロゴ、ベッコウ柄ピックガード、エイジング・トナー・フィニッシュの採用はD-28と同様ですが、トータルではHD-28相当の仕様に変更されました。

ネック・シェイプは現代のニーズをとらえたモディファイド・ロー・オーバルとなっており、ヴィンテージのスペックを取り入れながらも、演奏性を考慮した設計になっています。エリック・クラプトン・モデルの幅広の三角ネックが苦手だった方もこれなら大丈夫かもしれません。

000-28には「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という諺があてはまります。スモール・ボディのマーティンもまた魅力的です。プレイ・スタイルによって使い分けるのも手でしょう。是非一度お試しください。

バックナンバー「D-28新旧モデル比較」も参照くださいませ。

次回もマーティンの話題を取り上げようと思います。ご期待くださいませ。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始める。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンであり、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代のファッションを好み、音楽のあるスローライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様の音楽スタイルはもちろん、ライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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