【Vintage File】#19 Gibson 1975年製 Dove Custom Cherry Sunburst ~70’s Gibson 再考~

渋谷店佐藤です。

最近店頭でお客様から「ネットで〇〇のギターが良いって書いてあったんですけど」「ネットで〇〇はあんまり良くないって書いてあったんですけど本当ですか?」といった事を聞かれる機会が多いです。

ネットに限らず、ムック本等でも最近は非常に詳しく記述されているものも増えてきました。しかしながら、ここまで情報が多いと、何が正しくて何が間違っているか、判断するのも迷う事も多いかと思います。

本日のGuitar Quest【Vintage File】では、そういったネットやムック本で何故か貶される事の多い、”1970年代のギブソンアコースティック”を紹介させて頂き、私佐藤の楽器を観てきた経験とやや勝手な私感も混ぜつつも、「本当の所はどうなのよ?」というポイントでお伝えできればと思います。

というわけで今回紹介させて頂くのは渋谷店店頭の1975年製のGibson Dove Custom。
メイプルサイド&バックのスクエアショルダー・ドレッドノートボディで、ピックガードに描かれた鳩の文様が特徴的なモデルです。ネックもメイプルで、J-45やHummingbirdとは異なり、ロングスケール仕様となっているのも特徴です。

他のギブソンアコースティック同様、Doveも1960年代前期に登場してから、時代ごとに細かく仕様変更を経ています。

それでは、順番に各部を見ていきましょう。

 

1960年代後期同様、あまり変色しないタイプの塗料が用いられているためか、製造から40年以上経つ現在も色鮮やかなチェリー・サンバーストカラーを保っています。しかしながらバインディングの黄変やヴィンテージ特有の程よいヤレ感により、どことなく渋く枯れた印象を醸し出しています。
また、この個体のポイントとしては、何と言ってもネックのバリトラ!現在のモンタナ・ファクトリー製のモデルの場合AAAグレードに相当するのではないか?と思われる程のフィギュアド・メイプルが惜しげもなく使用されています。ボディのサイド&バックにしても、ネックほどではないにせよ、しっかりとフレイムが出ています。
まだこの当時は現在のようにトラ目信仰が盛んではなかったにせよ、良質な材をしっかりと使っている事が見て取れるポイントです。

 

 

他のモデル、他の年代と比較してもやや大柄で迫力のあるヘッドストックです。角ばったGibsonロゴ、ネック裏のボリュートも特徴です。ペグは所謂ミルクタブタイプのグローバー・ロトマチックペグが採用されています。

ボリュートに関しては諸説ありますが、ネック折れのトラブルが多発し、ネックに強度を持たせるために採用されたという説が有力です。同時期にJ-45等に採用された3ピースネックも、コスト削減の意図に加え、純粋にネックに曲げ方向に対する強度を持たせたかったのではないかと推察されます。

 

鳩のインレイ入りピックガードも、素材等含め、年代により仕様が異なります。本器のような70年代のものはセルロイド製で経年で崩壊しやすいタイプです。(同様の現象は同じような材で作られたヴィンテージのL-5のピックガード、1960年代のLG-0や70年代以降のJ-45/50のバインディング等でも見られます。)
本個体も場所によっては崩壊していますが、程度としては綺麗な方です。
長年のプレイで絵柄のインクが落ちてしまっていますが、赤褐色のピックガードと相まって渋い雰囲気を醸し出しています。
ブリッジはエボニー製。オーソドックスなストレート・サドル仕様です。

内部画像です。
70年代のギブソン・アコースティックがネガティブに捉えられる原因の一つであるダブルXブレーシング。その名の通り、ボディトップ裏側、ブリッジプレートを挟むようにして、上下2つのX型のブレーシングが貼られています。
見るからに強固でごつそうな印象ですが、これも60年代比較的華奢なブレーシングが採用されていた結果、ボディトップが変形するトラブルが多発し(実際に60年代の個体、特にDoveや、ボディをJ-45と共用するEpiphone Texanなど、ロングスケール仕様のモデルで、トップが膨らんでいる個体を非常に多く目にします。)、それに対処するために採用されたのではないかと推察されます。
しかしながらその強固な設計が災いし、良くも悪くもボディトップの振動を抑えてしまうため、よく言えばコンプがかったタイトでバランスの良いトーン、悪く言えば「鳴らない」印象を与えてしまいます。
恐らく70年代当時、新品で販売されていた時代、それまでの60年代のギブソンや、同時期のMartinと比較し、硬く鳴らない印象の音がネガティブなイメージを与えてしまい、それが伝聞で伝わり、ネットや書籍で拡散されて今に至る・・・という感じで現在の70年代のギブソンの評価が出来てしまっているのではないかと考えられます。

とはいえども、製造から40年以上経過した今現在では、流石に楽器としてもしっかり育っており、ダブルXブレーシング特有のコンプ感を差し引いても、しっかりと力強くガリン!と鳴ってくれる印象です。

*ちなみにこちらも諸説/各論ありますが、私佐藤はエレキも含め楽器は経年でサウンドが変化する(=育って鳴るようになる)説を支持しています。木部や塗装等の化学変化という理由以上に、様々な新品・中古・ヴィンテージ楽器を触ってきた体験から、やはりそうなのではないかと直感的に感じられるのです。

また、同様にネガティブに捉えられる理由として、「70年代のギブソンは作りが粗い!」というものも考えられます。確かに60年代後期にギブソンは経営母体がノーリン社に移り、車やバイク等他のアメリカの製造業と同様に効率化/コスト削減の方向へ舵を切ったため、余計にそういったイメージで捉えられるのですが、実際のところ60年代以前のギブソンも作りは粗いです!(笑・・・) むしろ50年代や40年代など、同じ年式の同じモデルでもネックの仕込み方や使われている材が違ったり、バインディングの巻き方がやっつけだったりしますので、それに比べると工業製品としては幾分しっかりしているのではないか・・・?と感じてしまいます。

 

*尚モデル名の「Custom」ですが、この時期のGibsonはモデル名の末尾にDeluxeやCustom等を付け足していました。J-45やJ-50等、所謂ミドルクラスのモデルには「Deluxe」、HummingbirdやDove等比較的上位のモデルには「Custom」のネーミングが与えられています。

 

70年代のギブソンアコースティック、確かに60年代以前のギブソンとはキャラクターも含め全く別物ではありますが、私個人としても、70年代のギブソンアコースティックはどうも不当に過小評価されているように感じます。
きっちり調整された70’sは値段も考えると(コンディションにもよりますが、2017年現在新品Gibsonと同じか、ちょっと安いくらいです)楽器として非常に優秀です。
各部の仕様を見ても分かるとおり、コストカットを意図しつつも、60年代までの泣き所を改善すべく、苦心しているポイントが見て取れるのも興味深いですね。

尚、70年代のギブソンアコースティックを愛用していたミュージシャンの代表格が、言わずと知れた故・忌野清志郎氏です。
ですので、もし貶されたら「でもキヨシローさんも70年代のやつ使ってたんですよ?」と言い返してやりましょう(笑)

食べ〇グの評価をあまり気にしすぎてレストランや飲み屋選びをしても面白くないのと同様に、ギター選びも最後は「プレイヤーである自分が気に入るか気に入らないか」ですので、是非実際のサウンドを体感して頂き、相棒となる1本を選んで頂ければ、と思います。

それでは、次回もどのような楽器が登場するのか、お楽しみに!

 

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