【Vintage File】#25 National 1960年代製 Val-Pro 082 Map Guitar ~ニュー・イヤー、ニュー・ワールド~

渋谷店佐藤です。

ビザールファンの皆様、お待たせ致しました。
2018年執筆1発目となる【Vintage File】、新年らしいめでたい紅白カラーが鮮烈な1本を紹介させて頂きます。

 

National Val-Pro 082。1960年代製の所謂「マップ・ギター」です。

ナショナルと言えばトライコーンに代表される戦前のリゾネーター・ギターを思い浮かべる方も多いと思いますが、一方でこうした今ではビザール系と大別されるエレクトリック・モデルもリリースしていた時期があり、そのブランドの歴史は波乱に富んでいます。

元々ナショナルはリゾネーター・ギターの考案者でドブロの設立者としても知られるジョン・ドピエラとその兄弟達、さらに後にリッケンバッカーと史上初のエレクトリック・ギターとされるフライング・パンを開発し特許を取得することにもなるジョージ・ビーチャムらによって1925年に設立されました。20年代後半に生み出されたナショナルのリゾネーター・ギターは一世を風靡しますが、経営上の問題や商品についての意見の相違から、ジョン・ドピエラは1929年初頭にナショナルを一旦離脱。兄弟達(ルディ・ドペイラ、エド・ドペイラら)とドブロ(Dobro=DOpyera BROthers)を立ち上げます。

元々ナショナルのプロダクトに満足しておらず、より良いものを作ろうとの意気込みでジョン・ドピエラが立ち上げたドブロ。ナショナルと異なる設計でメタル・ボディのモデルを設計したりと紆余曲折がありましたが、1935年に兄弟のうちの一人で主に財務面を担当していたルイス・ドピエラがまとめ役となり、ナショナルとドブロは合併。National-Dobroとなり、両者はLAにある同一工場である程度ラインを共用されつつ作られるようになります。

しかしその後第二次世界大戦が勃発すると、国策として金属など重要資材は軍需に回されるようになり、National-Dobroの金属ボディのギター製造は制限される事となります。これを受けルイス・ドピエラはNational-Dobroを元々Nationalの経営母体でもあったValco(ヴァルコ;前述のルイス・ドピエラに加え、元々ルイスの同僚でもあったVictor Smith, Al Frostら創始者3名のイニシャル(V-A-L-Co.)から名付けられています)に吸収させ、シカゴに拠点を移し、金属を使わないスパニッシュ・ギター(所謂フラットトップ・アコースティックギター)やアーチトップギター、ラップスチールギターの製造に移行します(その当時のValcoのギターの中にはGibsonからボディの供給を受けて作られたモデルも多く存在します;J-45のボディを使用したNational Model-1155等)。

その後50年代に入りGibsonがLes Paul、FenderがTelecasterをリリースするとValcoも流れに乗ってピックアップを搭載したエレクトリック・モデルをNational、Dobro、Suproの他にもAirlineやKay等所持するブランドの名義でリリースしていきます。今回紹介させて頂くマップ・ギターもそうした中生み出され、Nationalのバッジを付けて送り出された1本です。

大戦を経て紆余曲折ありつつも生き残ったブランドの名を背負い世に出たエキセントリックな1本。それでは順番に各部を見ていきましょう。

 

アメリカ合衆国の地図を基にしたボディ・デザインが特徴的なマップ・ギターのシリーズ。本器「Val-Pro」はその中では比較的廉価グレードのモデルで、アメリカ西海岸のカリフォルニア湾?にあたる1弦側のボディ下部は切り欠きが無くデザインが簡略化されており、さらにはフロリダ半島にあたる1弦側ホーンも、単純なベネチアン・カッタウェイで造形されています。
これが上位モデルの「Newport」や「Westwood」になるとまず1弦側ホーンがややフロリダ半島っぽい?凝った造形となり、さらに上位の「Glenwood」になると1弦側のボディ下部にカリフォルニア湾に見えなくもない?切り欠きが設けられるようになります。
ボディサイズは意外に大きく、抱えた印象としてはレスポールやストラト等よりもむしろES-335等に近いサイズ感でしょうか?

 

ナショナルらしい大振りなヘッドストック。ペグはクルーソンの所謂シングルライン・タイプ。0フレット仕様である点にも注目です。

この手のビザール・ヴィンテージとしては珍しく、がっつり使い込まれた為か塗装がいい感じに剥がれたネックがクールです。

 

1PU仕様ながら、複雑なコントロール系統を持つこちらのモデル。3-Wayスイッチはトーンコントロールで、実際に弾いた印象としてはポジション2がノーマルなタイプ、1はトレブルを思い切り良くカットしたモコっとしたサウンド、3は逆にベースをがっつりカットしたカリカリ・チャキチャキしたサウンド(フェイズ・アウトさせた際のムスタングに似ている印象でしょうか・・・?)です。

 

ピックアップやテイルピースには元々黒で縁取りのような模様がペイントされているのですが、本個体のものは経年で剥がれています。ピックアップは一見ハムバッキングPUに見えますが、実はシングルコイルです。しかしながらサウンドは非常に図太く、Fender系のシングルコイルとは全く異なるキャラクターです。

 

スタイリングと並びこのモデルの特筆すべきポイントとして、ボディはレゾグラスと呼ばれる強化繊維プラスチック製となっています。レゾグラスはこの当時としては「夢の新素材!」というイメージで、ボディ表と裏をそれぞれ別パーツとして成型し、内部にピックアップや電装パーツ、ネジ止めの為の木片等を挟み込み、つなぎ目にあたる外周部を白いゴムのパッキンで覆い、表裏を合わせる事で作られています。本個体はボディ中央部にあるネックブロック的なパーツ周辺で接着剤が固着してしまっているようでネジを全て外しても分解できませんでしたが、隙間のある部分からカメラで覗き込んで内部の画像を撮影してみました。こうして見ると大量生産に向いた合理的な設計を意図している事が窺えます。
ボディの素材の影響か、サウンドは一般的な木製のソリッドボディのエレキギターと比べると異質な、独特の残響感のあるものとなっています。

ボディ底部のテイルピースを取り除いた所です。ブリッジは木製ですがしっかり弦アースがテイルピースから取られており、実用面でも問題なしです。

特徴的なクレストロゴがピックガード上にデザインされています。

Valcoが1960年代末期には財務的な問題から楽器製造を取り止めてしまい、マップギターは1960年代の僅かな期間にのみ製造された短命なモデルとなってしまい、レゾグラス製のギターについてもその後のエレクトリック・ギターのスタンダードとはならなかったのですが、近年ではジャック・ホワイトやダン・オーバックといったガレージ・ロック系バンドのギタリストによる愛用や、Eastwood GuitarsによるAirlineブランドでの復刻等、その強烈なスタイリングには今なおファンが多い事が窺えます。

シングルコイルとは思えないファットなそのサウンドは比較的エグめの歪みとも相性が良く、ステージでガシガシ弾き倒しても映えますね。

 

紆余曲折を経てきたNationalの歴史と共に紹介させて頂いた今回のマップ・ギター、如何でしたでしょうか?
今年も面白い楽器をがんがん紹介していきますので、【Vintage File】を宜しくお願い致します!

 

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