楽器考察その3 アンクル・チャーリー&愛犬テディ/ニッティ・グリティ・ダート・バンド

イシバシ楽器池袋店の白井です。アルバムを聴いて使用楽器を考察する「楽器考察」シリーズ第三弾はニッティ・グリティ・ダート・バンド(以後NGDB)の出世作、『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』を取り上げてみたいと思います。和製フォークからスタートしたフォーク・ファンにも、フォークの原点アメリカの音楽を追っかけていくうちにNGDBへたどり着いたという方は少なくないと思います。『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』は、バンジョー、マンドリンを使ったブルーグラスの入り口的要素もあり、それらの楽器の魅力を探る上でも重要なアルバムと言えるでしょう。

NGDBは1966年にカリフォルニアのロング・ビーチで結成されたカントリー・ロック・バンドで、今年で結成50周年を迎えました。ジャクソン・ブラウンもオリジナル・メンバーとして在籍しました。ジャグ・バンド・スタイルのアンサンブルでスタートしましたが、1970年代になるとカントリー・ロック・バンドに移行します。1970年発表のこの『アンクル・チャーリーと愛犬テディ』(Uncle Charlie And His Dog Teddy)はカントリー・ロック・バンドとしてのNGDBの方向性を決定させたアルバムとなりました。カントリー・ロックと言っても、同じカリフォルニアをベースとするフライング・ブリトー・ブラザーズ、ポコらとは一線を画し、泥臭いアメリカン・ルーツ・ミュージックのごった煮的な内容となっている点がポイントです。またジェリー・ジェフ・ウォーカーやケニー・ロギンスの作品を紹介した功績も知られます。さらにほとんどのメンバーがマルチ・プレイヤーで、かつては曲ごとに演奏する楽器を持ち替えたことでも注目されました。ちなみに、日本のフォーク・グループ、武蔵野たんぽぽ団(高田渡、シバ、山本コウタローらが参加)がNGDBの影響を受けていたことも熱心なファンの間では語り草です。

このアルバム当時のメンバーはジェフ・ハンナ(ボーカル、ギター、ドラム、ワッシュボード)、ジミー・ファッデン(ボーカル、ギター、ハープ、ドラム、ワッシュタブ・ベース)、ジム・イボットソン(ボーカル、ギター、ベース、ドラム、アコーディイオン、ピアノ)、ジョン・マッキューエン(ギター、バンジョー、マンドリン、ドブロ、スティール・ギター、フィドル、アコーディオン)、レス・トンプソン(ボーカル、ギター、マンドリン、ベース)です。個人的にはNGDBの最強メンバーだと思っています。なお後年すっかりドラムがメインとなってしまったジミーですが、このアルバムではドラムは叩いていません。またゲスト・ミュージシャンとして、ビル・カニンガム、モーリス・マンソーII、ジム・ゴードン、マイク・ルビニ、ジョン・ロンドン、バイロン・バーライン、ラス・カンケルがクレジットされています。

NGDBの使用楽器について、詳細に記述した情報は見かけません。レコード・ジャケットの写真、当時のテレビ番組の映像、雑誌記事、コンサートを見に行った友人の言葉などの記憶から出来る範囲で、主要メンバーの楽器についてまとめてみましょう。

当時、彼らは主にマーチン、ギブソン、フェンダー、オベーションといったアメリカン・ブランドの楽器を使用していましたが、1974年に日本のテレビ番組『ミュージック・フェア』に出演したときジェフがK.Yairiのマーチン・コピーを弾いてたのを記憶しています。また彼はエレキ・ギターはレスポールを好んでいたようですが、1973年の初来日ではストリングベンダーの付いたギターを使用したことが当時のヤング・ギターで紹介されていました。さらに彼は日本ではオベーションがまだ珍しかった頃から同社のギターを使用していました。今回紹介するアルバムに収録された曲ではないですが、「コズミック・カウボーイ(パート1)」のリズム・ギターに典型的なオベーション・サウンドを聴くことができます。ちなみに、私はNGDBに憧れてオベーションを買いました。


現行のオベーション製品。ジェフが使っていたのは当時のノン・カッタウェイ・モデル。

アルバム『オール・ザ・グッド・タイムス』(All The Good Times)のジャケットではジムがマーチンを抱えています。日本で手放したD-21でしょうか。ジムと言えば、スプリット・ピックアップが搭載されたジムのテレキャスター・ベースも印象に残りましたが、これも日本で手放したようです。アルバム『星条旗よ永遠なれ』(Stars&Stripes Forever)の中ジャケットにはテレキャスターを持つジムの姿があります。

ジョンの派手な装飾入りのバンジョーは、最近のインタビューで1927年製のギブソン・フロレンタインと紹介されています。古い「ミスター・ボージャングル」の動画では、彼がGibson EM-150らしきエクトリック・マンドリンを使用しているのが確認できます。またメタリック・ブルーのエレクトリック・バイオリンはバーカス・ベリー製のようです。スティール・ギターはスタンド付きのフェンダー製品と思われる物や膝の上に乗せるラップ・スティール(メーカー不詳)などを使用していました。


バンジョーと言えばギブソンですが、現在は残念ながら生産休止中。画像はアール・スクラッグス・シグネチャー・モデル。


お手ごろ価格のアリア・エレクトリック・マンドリン。


ビンテージのフェンダー・スティール・ギター。

ジミーはハーモニカやドラムを担当することが多くなってしまいましたが、かつてはリード・ギターも担当しました。上述の『星条旗よ永遠なれ』の中ジャケットにはストラトキャスターを持った写真があります。

 

それでは、いよいよ各ナンバーをそれぞれのキーとなる楽器に触れながら紹介していきましょう。曲順はCDに沿っていきます。

1 サム・オブ・シェリーズ・ブルース(Some Of Shelly’s Blues)
ジョンのバンジョーのイントロで始まる軽快なカントリー・ロック・ナンバー。冒頭からNGDBの真骨頂と言えるサウンドが飛び出します。リード・ボーカルはジェフ。この曲はモンキーズのマイケル・ネスミスの作品です。マイケルもモンキーズ解散後、自身のバンド、ファースト・ナショナル・バンドを結成してカントリー・ロックの道を歩みました。マイケルのバージョンはNGDBよりテンポがゆっくりです。ジョンはブルーグラス・スタイルのバンジョーを得意としますが、ここではフォーク・スタイルの演奏を聴かせてくれています。また後半ドブロも聞こえてきます。クレジットにはないですが、これもまたおそらくジョンによるものでしょう。
余談ですが、このアルバムのゲスト・ミュージシャンとしてクレジットされているジョン・ロンドンはファースト・ナショナル・バンドのメンバーでもありました。

2 放蕩息子の帰郷(Prodigal’s Return)
ケニー・ロギンスとダン・ロターモーザーによる泥臭いロック・ナンバー。ケニー・ロギンスは後にロギンス&メッシーナでデビュー、同グループで活動した後ソロ・アーティストに転身。大きくブレークしました。リード・ボーカルはジェフとジムでしょうか。冒頭のハープはジミー。途中でアンサンブル全体にジェット・マシンがかかるあたりに時代を感じさせますね。
ちなみにジミーはハープの名手としても知られ、スタジオ・ミュージシャンとしてジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタットらのアルバムでも活躍しています。

3 治療(The Cure)
こちらも途中にジョンのバンジョーをフィーチャーした軽快なカントリー・ロック・ナンバー。ジェフの作品。リード・ボーカルもジェフ。コンプレッサーをかけたリード・ギターはジミーによるものでしょう。エンディングのフレーズはペダル・スティール風です。

4 トラベリン・ムード(Travelin’ Mood)/チッキン・リール(Chicken Reel)
トラベリン・ムードはジェイムズ・ウェインズのブルース・ナンバー。ドクター・ジョンも取り上げています。リード・ボーカルとハープはジミー。ジミーが得意とする曲調です。
続くチッキン・リールはレス・ポールもカバーしたトラディショナルなダンス・チューン。ビル・モンロー&ブルーグラス・ボーイズの元メンバーで、ローリング・ストーンズの「カントリー・ホンク」にも参加しているバイロン・バーラインのフィドルをフィーチャーしています。ジョンのバンジョー、ジミーのハープを加えた古き良きアメリカの雰囲気を伝えるシンプルな演奏です。

5 ユーコン鉄道(Yukon Railroad)
再びケニー・ロギンスとダン・ロターモーザーによる軽快なナンバー。イントロのフィドルはバイロン。リード・ボーカルはジェフ。ハープはジミー。リード・ギターもおそらくジミーでしょう。

6 リヴィン・ウィズアウト・ユー(Livin’ Without You)/クリンチ・マウンテン・バック・ステップ(Clinch Mountain Back Step)
リヴィン・ウィズアウト・ユーはランディー・ニューマンのナンバー。アコースティック・ギターだけのフォーキーでシンプルな演奏です。リード・ボーカルはジェフ。
続くクリンチ・マウンテン・バック・ステップはスタンレー・ブラザーズのブルーグラス・インストゥルメンタンル。ジョンのバンジョー、レスのマンドリンのほか、ジェフのワッシュボード、ジミーのワッシュタブ・ベースもフィーチャーされています。
ワッシュボードは洗濯板、ワッシュタブ・ベースは洗濯用のたらいに棹をつけたベースです。かつて楽器が買えない貧しいミュージシャンは身の回りにあるものを楽器にしていたのです。ブルーグラス・ナンバーにこういったジャグ・バンド的なテイストを加えるのはNGDBならではです。

7 レイブ・オン(Rave On)
乗りの良いピアノをフィーチャーしたバディ・ホリーのストレートなロックンロール・ナンバー。ボーカルはジェフとジム。ハープはジミー。ジミーのハープがロックンロール・ナンバーにもNGDBらしさを醸し出させています。

8 ビリー・イン・ザ・ロウ・グラウンド(Billy In The Low Ground)
「土の中のビリー」としても知られるトラディショナル・ナンバー。レスのマンドリンをフィーチャー。テンポがさほど速くなく、ブルーグラス・マンドリン入門に適した演奏です。


ギブソンの歴史はマンドリンから始まりました。画像は代表モデルF-5。ブルーグラス・プレイヤー垂涎のモデルです。

9 ジェシ・ジェームス(Jesse James)/アンクル・チャーリー・インタビュー(Uncle Charlie Interview)
アナログ盤ではここからB面です。NGDBのプロデューサーでジョンの兄弟であるウィリアム・マッキューエンとジョンの知人でもあったというアンクル・チャーリーが歌うトラディショナル・ソング、ジェシ・ジェームスからスタート。そのままインタビューに繋がり、愛犬テディが登場します。アンクル・チャーリーがテディに歌を歌わせようとするところで⑩に繋がります。

10 ミスター・ボージャングル(原題はMr.Bojangles)
テキサスのシンガー・ソングライター、ジェリー・ジェフ・ウォーカーの代表的なナンバー。NGDBが取り上げて有名になりました。日本では中川五郎の日本語のカバー・バージョンも知られています。黒人の老タップ・ダンサーを歌った曲で、彼の亡くなった犬への想いが綴られる切ない歌詞が印象的です。リード・ボーカルはジェフ、マンドリンはジョン、アコーディオンはジムでしょう。

11 作品36番・クレメンティ(Opus 36)
クラシックのムツィオ・クレメンティのピアノ曲ですが、ジョンがバンジョーのインストゥルメンタルにアレンジしています。ジョンはこういった遊び心ある演奏も得意としています。

12 サンタ・ローザ(Santa Rosa)
ジミーのハープ、ジョンのバンジョーをフィーチャーした軽快なカントリー・ロック・ナンバーで、これもまたケニー・ロギンスが書いた作品です。リード・ボーカルはジェフ。これもまた一聴してNGDBと分かるサウンドです。

13 プロピンキティ(Propinquity)
再びマイケル・ネスミスの作品が登場します。イアン・マシューズも取り上げたナンバーです。リヴィン・ウィズアウト・ユーに通じるシンプルなアレンジとなっています。リード・ボーカルはジェフ。

14 アンクル・チャーリー(Uncle Charlie)/ランディ・リン・ラグ(Randy Lynn Rag)
アンクル・チャーリーはジミーのハープをフィーチャーしたブルース・インストゥルメンタル。ジミーが書いた作品です。
続くランディ・リン・ラグは再びブルーグラスのインストゥルメンタル。フラット&スクラッグスのナンバーで、アール・スクラッグスの息子で現在はナッシュビルのスタジオ・ミュージシャンとして活躍するランディ・スクラッグスの名を冠しています。ジョンのバンジョー、レスのマンドリン、バイロンのフィドルをフィーチャー。
ちなみにアール・スクラッグスはブルーグラス・バンジョーの創始者です。彼のスタイルはスクラッグス・スタイルと呼ばれています。ランディ・リン・ラグでは彼の考案による2弦と3弦のチューニングを演奏中に可変するスクラッグス・チューナーが使用されています。ブルーグラス・バンジョーに興味を持ったら、まずフラット&スクラッグス

15 プー横丁の家(House At The Pooh Corner)
くまのプーさんを題材としたメルヘンタッチなナンバー。ケニー・ロギンスの作品です。ジェリー・ジェフ・ウォーカーの作品「ミスター・ボージャングル」同様、NGDBがこの曲を取り上げたことでケニーも注目を浴びました。ケニー自身も後年ロギンス&メッシーナで録音しています。NGDBのバージョンはロック・ビートに乗せたアップ・テンポな仕上がりです。リード・ボーカルはジム。ワウを使ったリード・ギターはジミー、アコーディオンはジョン、ドラムはジェフです。近年のNGDBでは、ジミーがリード・ギター、ジェフがドラムの腕前を披露することはなくなってしまいました。


ジミーもラージ・ヘッドのストラトキャスターを使用していました。

16 スワニー・リバー(Swanee River)/アンクル・チャーリー・インタビュー#2(Uncle Charlie Interview #2)/ジ・エンド(The End)/スパニッシュ・ファンダンゴ(Spanish Fandango)
スワニー・リバーはスティヴン・フォスターの作品。ジミーのハープによるインストゥルメンタルにアレンジされています。最後に再びアンクル・チャーリーが登場。トラディショナルのスパニッシュ・ファンダンゴの演奏で幕を閉じます。

曲数は多いですが、それぞれが短く、あっという間に聴き終えてしまいます。バンジョー、マンドリンといったトラディショナルな楽器や、ワッシュボード、ワッシュタブ・ベースといったジャグ・バンド・ミュージックの楽器をフィーチャーしながらも、キャッチーな楽曲がほとんどで聴きやすいアルバムに仕上がっています。アメリカン・ルーツ・ミュージックの入門者向けアルバムとしてもお勧めです。特にバンジョー、マンドリンに興味がある方にとっては、参考書的な内容とも言えるでしょう。

最後にNGDBのジョンが参加した日本人のアルバムを紹介いたしましょう。マイク真木の『ボロボロ楽学』(1974年)です。「バラが咲いた」でお馴染みのマイク真木が、ブルーグラス、ジャグ・バンド、ディキシーランド・ジャズの要素を取り入れた画期的なアルバムです。ジョンはこのアルバムの中で、ギター、バンジョー、マンドリン、マウンテン・ダルシマー、ドブロ、ピアノに大活躍しています。特にオズボーン・ブラザーズの有名なブルーグラス・ナンバー「ロッキー・トップ」に交通標語を乗せた替え歌、「せまい日本そんなに急いでどこへ行く」におけるドライブの効いたバンジョーには思わず息を飲みました。

このアルバムには多くの日本人ミュージシャンが参加していますが、その一人が石川鷹彦さんです。このアルバムのセッションでジョンがギターにナッシュビル・チューニング(6弦のギターに12弦ギターの複弦のみを使用したチューニング)を用いたそうですが、石川さんはジョンからこのナッシュビル・チューニングを教わるや、間もなく参加したかぐや姫の「22才の別れ」でそれを使用したそうです。石川さん本人から伺ったエピソードです。

いかがでしたでしょうか。次回はイーグルスを取り上げてみたいと思います。ご期待ください。

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