【Vintage File】#3 Gibson 1972年製 ES-150D Walnut ~実力を秘めた異端児~

ギブソンのように長い歴史を持つブランドの場合、喝采を浴びた名器もあれば、歴史の影に埋もれていった迷器?も多数存在します。

【Vintage File】第3回は、その迷器のひとつと言えるモデルを紹介させて頂きます。

渋谷店にて展示・販売中のこちらのギターは1972年製 ES-150D。
ES-150と言えば通称チャーリー・クリスチャンPUを搭載した戦前のアーチトップモデルを思い浮かべる方も多いかとは思いますが、本器(ES-150D)はそれとは別の経緯で登場した、全くの別物と言えるモデルです。

  

正面から見るとES-335と同様のシェイプのダブルカッタウェイ・ボディとなっており、ハムバッキングPUを2基搭載した仕様ですが、胴厚がありセンターブロックの無いフルアコ構造になっているのが最大の特徴です。ただし胴厚は同じフルアコのES-175(3.5インチ)と比較するとわずかに薄く、Tal Farlowモデル等と同様の3.0インチ(=約77mm)となっています。

他にはボディ1弦側のホーン部分にマスター・ボリュームが搭載されている点も特徴です。これはセンターPU時にワンタッチでボリューム調整ができる事を狙ったものと思われます。

細部を見ていきましょう。

フレットはこの時期のこの手のモデルでよく見られる、幅広で背の低い指に吸い付くようなタイプです。元々チョーキングなどのベンドをあまり用いないジャズ・ギタリスト向けの仕様と言われており、特にロック系のプレイヤーの場合は慣れないうちは面食らいますが、慣れると妙な弾き心地の良さを感じさせます。

ネックジョイント部です。こちらの個体はネックヒール部に隙間ができ、元起き状態となっていたため、ネックリセットしセットアップしてあります。ヴィンテージではありますが、新品の現行ギブソンと変わらないフィールで演奏可能となっています。

ピックアップは所謂デカール・ナンバードのハムバッキングPUです。適度にウォームで甘いトーンながら、独特の枯れた歯切れ良いニュアンスも感じさせます。

1960年代末期からギブソンのエレクトリック・モデル全般に採用され始めたウォルナット・カラー。王道のチェリーやナチュラル・ブロンドとはまた異なるシックなルックスが魅力で、経年で黄変したバインディングとのコントラストも美しく、隠れたファンも多いカラーです。

 

内部画像です。
センターブロックの無い、完全な”ハコモノ”である事が見て取れます。そのためアンプに繋がず生で弾いた際の鳴りもそこそこボリューム感があり、L-48やL-50といったプレス合板のアーチトップ・ギターにも似た印象です。

キャパシタはスプラグの通称”ブラック・ビューティー”、ポットはオリジナルで1972年デイトです。また、過去のオーナーによりボディトップ側にもアウトプットジャックが増設されていますが、回路がステレオ化されているわけではなく、単純に2台の異なるアンプから同時に出力させる事を狙ったモディファイと思われます。

ネックブロックがフロントPUの真下まで延びている形状で、そのままフロントPU用のキャビティを兼ねているようなデザインです。

こちらのES-150D、1969年にデビューを飾るも、1974年には生産中止。その後リイシュー・モデルや直接の後継モデルも出ておらず、正に歴史の影に隠れたモデルとなっています。ES-335という超・定番モデルの影響もあり、第一印象はその胴厚からかなり違和感…というより気持ち悪さ…も感じてしまうモデルなのですが、実際に弾いてみるとES-335とは全く別の良さを持ったギターである事に気付かされます。

フロントPUのふくよかで甘いトーンは正に深胴のフルアコならではですが、リアのサウンドも適度に歯切れ良く輪郭がはっきりした印象で、それらを組み合わせ、それらのボリュームやトーンを調整しブレンドさせたセンターのサウンドも素晴らしく、さらにそのセンターのボリュームをワンタッチで調整できるという、意外にも「かゆい所に手が届く」一面を持つギターと言えます。

音色で言うとやはりブルース/ジャズ・ギタリストの方に特にオススメですが、意外に軽く歪ませたオーバードライブ・サウンドも中々に小気味良く、ロック系のサウンドで弾き倒すのも面白い1本です。

ギブソンの歴史上、迷器でありながら、実力もしっかりと秘めた逸品と言えるES-150D。優等生嫌いの方(私もそうです)、珍しいモノ好きの方、または単純にしっかりと使えるハコモノをお探しの方はビビっとくる1本なのではないでしょうか?

次回の【Vintage File】も、どんな名器、はたまた迷器が登場するのか、お楽しみに!

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