【新製品レポート】Marshall Amplification渾身のニューモデル「ASTORIA」シリーズ!

2016年5月、Marshall Amplification渾身のニューモデル「ASTORIA」シリーズ3モデルが日本国内で遂に発売!その発売に先駆けて、ASTORIAシリーズ各モデルの特徴をご紹介!

 

「ASTORIA(アストリア)」シリーズとは…

マーシャルアンプがFender/Bassmanを手本にゲインの高いプリ管(12AX7/ECC83)を採用しハイファイオーディオ用トランスを搭載したJTM45というモデルからその歴史が始まっているというのは有名な話。

これまでマーシャルアンプはこの「JTM45」から始まった流れの中でJMP、JCM800、Silver Jubilee、JCM2000、JVMシリーズなどその時代のニーズに合った様々な派生モデルを生み出してきた。

ロックはもちろん、あらゆるミュージックシーンにおいてサウンド/ヴィジュアルの両面においてとても大きな功績と印象を残してきたマーシャルアンプの創業者ジム・マーシャル氏が亡きマーシャルアンプは既存のモデルとは全く異なる流れとして、「ブティックアンプ」と言われる高級ハンドメイドギターアンプへ挑むために生み出されたのがこの「アストリア」シリーズである。

近年のマーシャルアンプは、ヴィジュアル面で言えば、一部のモデルを除き、基本「黒(ブラック)」レザーカバーリング・ゴールドパネル・筆記体ロゴ(スクリプト・ロゴ)という一貫したデザインを踏襲してきた。それが紛れもなくマーシャルアンプのイメージとなっているわけだが、その反面で、一部の人しか「モデル名(品番)を特定できない」という側面も持っていた。

そこで今回のアストリアシリーズは特徴の異なる3つのモデルを分かりやすく「グリーン」「レッド」「ブルー」を基調にしたカラーカバリングで区別。各モデルともレーシングストライプのようなホワイトカラー部を織り交ぜたスポーティーな2トーンカラーとなっている。

一見モダンな印象ではあるが、オールド(ヴィンテージ)マーシャルにも使用されていたプレキシグラスにモデル毎のカラーでプリントされたオックスブラッドロゴ(ブロック・ロゴ)や豆電球のようなインジケーターはオールドファンの心もくすぐるデザインだ。

ルックスだけでなく見えないところにもマーシャルアンプによるブティックアンプへの回答が随所に散りばめられている。

チャンネル切替基盤など一部を除き、サウンドに関わる基盤にはタレットボードを用いたポイントトゥポイント・ハンドワイヤード回路(コンテンポラリー・ハンドワイヤード)で、トランスにはこのモデルのために新たにカスタムされたものを使用したクラスAB回路を採用し、パワーチューブ(KT66)、プリチューブ(ECC83)、整流管(GZ34)ともに真空管を用いた生粋のイギリス製オールチューブ(オールバルブ)ギターアンプだ。(下の基盤画像はMarshall本国オフィシャルサイトより引用)

Masterを2時方向以上に上げた状態で使用することでこのアストリアシリーズの魅力を堪能することが出来る(特にClassic)が、各モデルとも「POWER REDUCTION」機能により5w出力程度までスイッチ一つで切替が可能なので、音量を抑えつつダイナミックな真空管アンプサウンドを楽しむことも出来る。ただし、パワー管の構造特性を用いた(五極管と三極管)の出力なので切り替えると少しずつ音量が変化することも書き加えておく。

各モデルともヘッドタイプとCelestion社製12インチスピーカー“CREAMBACK”(クリームバック 75w/8Ω)を搭載したハーフオープンバックキャビネットのコンボタイプをラインナップ。同シリーズのキャビネットはコンボアンプと同じスピーカーを搭載しており、カバリングのカラーは違えど3機種とも全く同じ仕様となっている。また、キャビネットはコンボアンプとほぼ同じサイズなので拡張(エクステンション)キャビネットとしても使用することが出来る。

次に各モデルの特徴について見ていこう。

Astoria Classic

グリーンカバーのこのClassic(クラシック)は、真空管の豊かな倍音と艶やかなクリーントーンが得意なモデル。

最大の特徴は3モデルで最もクリーンなサウンド。「SENSITIVITY」でネガティブフィードバック(※)の量をコントロールし、「EDGE」でフェイズスプリッターとパワー管の間の高周波数(高音域)をカットすることが出来る。つまり、歪み方も含めてそのサウンドはプリアンプ部分ではなく「パワーアンプ部分」で精製する設計を採用している。2本パワー管KT66と1本の整流管GZ34の効果もあり、ピュアな真空管アンプでしか味わえないファットでレスポンスの良いクリーントーンは絶品。特にこのモデルは「MASTER」を2時以上まで上げ、使用するギターの特性やサウンドの方向性に合わせ「SENSITIVITY」と「EDGE」を決めて、各EQで補正する使い方が常套手段となりそうだ。ちなみにシングルチャンネルで、エフェクトループやフットスイッチによる切替など現代的な機能は備えていない。

「アンプはクリーンに、歪みはファズやオーバードライブなど拘りのエフェクターで」というギタリストをはじめ、このアストリアシリーズの真髄を知るには、まずこの「クラシック」を試していただきたい。

※ネガティブフィードバック(負帰還)とは、端的に言えばパワーアンプ部を通った信号をプリアンプ部に戻す回路のことで、オーディオアンプをはじめマーシャルアンプやフェンダーアンプなどのギターアンプにもよく採用されている。様々な抵抗や真空管を通った信号にはノイズが加わったり、高音や低音のレスポンスが変化したりする場合があるが、このネガティブフィードバック回路の効果によってこれらノイズや周波数特性が改善され、歪みの少ない信号が後段に流れていくという仕組み。

MarshallオフィシャルProduct Demo(Astoria Classic)

 

Astoria Custom

レッドカバーのCustom(カスタム)はグリーン(クラシック)よりもアンプ単体でクランチ/オーバードライブサウンドを創出することが出来るモデル。

80年代以降、よりハイゲインなサウンドが求められた頃から主流となり始めた、「GAIN」ツマミによるプリアンプ部で歪み(オーバードライブ)が調節できるタイプで、エフェクトループの他に、GAINツマミをプルすることで低音域(120Hzあたり)の鳴り方が変化する「BODY」機能を装備している。使用するギターの特性や使用環境、接続するスピーカーキャビネットの鳴り方に応じて切り替えてみてほしい。また、20dbのゲインアップが可能な「BOOST SW」やTREBLEツマミを引っ張ることでサウンドのエッジが変化する「BRIGHTNESS」はこのモデルだけが持つ機能だ。

専用フットスイッチではBOOSTのON/OFFとエフェクトループのON/OFFを切り替えることが出来る。

このアンプのみで作り出すゲイン(歪み方)はあくまでオーバードライブの範囲内といったところで、ゲインをフルにしてもモダンなハイゲインアンプで奏でるのようなザクザクのメタルリフが弾けるようなサウンドではなく、とにかく「音の芯が太い」オーバードライブサウンド。ブルースロックやハードロックには十分に対応できるゲイン量だ。ハンドワイヤード回路とそこに組み込まれた4本のプリ管ECC83で純粋にオーバードライブさせているような極めてオーガニックなドライブサウンドはギタリストのピッキングやフィンガリングのニュアンスをしっかりと伝えてくれる。

「アンプをクランチ程度にセッティングし、必要に応じてエフェクターでブーストする」プレイヤーや「チューブアンプのファットな極上ドライブサウンドを堪能したい」ロック・ブルースギタリストにもおすすめのモデルだ。

MarshallオフィシャルProduct Demo(Astoria Custom)

 

Astoria Dual

ブルーカバーのDual(デュアル)はClassic(グリーン)とCustom(レッド)のエッセンスをこれ一台に盛り込んだアストリアシリーズ唯一の2チャンネル仕様モデル。

BASS/MIDDLE/TREBLEの3バンドEQは各チャンネル共通で、クリーンチャンネルとオーバードライブチャンネルの切り替えはCLEAN VOLUMEツマミを引っ張るか専用フットスイッチで行なうことが可能。

Customにも搭載されていた120Hzあたりの低音を調節する「BODY」機能はこのDualにも引き継がれている。Classicの 「SENSITIVITY」やCustomの「BOOST」「BRIGHTNESS」機能など一部は搭載していないが、ClassicとCustomのベーシックなサウンドをこのDual1台に集約することで、より多くのギタリストを受け入れてくれる許容範囲の広いオールラウンドなアンプとなっている。

アンプ直でのサウンドメイクを軸にするギタリストはもちろん、様々なジャンルのセッションを行なうためにアストリアならではのピュアなクリーントーンからダーティなオーバードライブサウンドまでこのセッティング幅の広さを活かしたいギタリストにはこのモデルがおすすめだ。

MarshallオフィシャルProduct Demo(Astoria Dual)

ちなみに各モデルのコンボタイプは、アンプ上部から背面に目を向けると各出力端子がどこにあるのかが内部をのぞき込まなくても分かるように記されている点も実にプレイヤー目線での設計がなされている。

《結び》
デジタルエフェクトを搭載した手頃なギターアンプや高性能デジタルプロフェッサーを搭載した高精度アンプシミュレーター内蔵マルチエフェクター、PCやアプリなどでも使用するプラグイン・アンプシミュレーターなどが続々と世に広がっていく中、ロックギターアンプの代名詞であり、その歴史を作ってきたマーシャルアンプが挑戦したのは古典的とも言えるハンドワイヤード・ブティックアンプであった。ただ、それは決して時代を逆行したものではなく、マーシャルアンプが本気でギタープレイヤーのことを考えて行き着いた答えがこの「Astoria(アストリア)」だ。

オールチューブギターアンプがギターアンプの完璧な姿であるとは言い切らない。なぜなら、そのサウンドが真空管などのパーツコンディションや演奏環境、スピーカーの違いなど様々な要因に左右されることは面倒ではあるからだ。しかし、そういう部分も含めて真空管を用いたギターアンプはとても人間的だ。この現代にマーシャルアンプが生み出したピュアバルブギターアンプ「アストリア」にとって最良のパートナーとなるギタリストがこの記事を読んでいただいた皆さんの中にいれば筆者冥利に尽きる。

 

Marshall Amplification / ASTORIA CLASSIC

Marshall Amplification / ASTORIA CUSTOM

Marshall Amplification / ASTORIA DUAL

 

文:小川友也(イシバシ楽器WEBSHOP)

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