【Vintage File】#9 Ovation 1978年製 1111-1 Standard Balladeer ~イノベイターの哲学~

あけましておめでとうございます。渋谷店佐藤です。
今年もGuitar Quest 【Vintage File】を何卒よろしくお願い致します。

2017年1発目の今回は、戦後のアコースティック・ギター界における「革新派」の代表格と言えるあのブランドから1本紹介させて頂きます。

 
Ovation / 1978年製 1111-1 Standard Balladeer。

オベーションと言えば、ピエゾ・ピックアップを搭載した所謂エレクトリック・アコースティック・ギター=「エレアコ」の元祖として知られていますが、今回はあえてノンPUの生アコモデルを取り上げ、エレアコ以外の部分でのオベーションの魅力に触れたいと思います。

オベーションは元々ヘリコプター用のパーツ等の設計/製造会社であった、カーマン・コーポレーションの社長であり、ギタリストでもあったチャールズ・カーマン氏により、自身の会社の子会社として1965年に設立されます。
ヘリコプターのローターに使用されるグラファイト材をボディに使用するなど、機械工学/航空機の製造技術を応用した設計が特徴で、設立後数本のプロトタイプを製作後、1966年にプロダクション・モデルの第1号として発表されたのが、モデル名:1111、スタンダード・バラディーアでした。

*オベーションのモデルネームについて;
2000年頃までのアメリカ製オベーションは、基本的に4桁の数字でモデル名を表すネーミング方式となっていますが、どの数字がどの仕様に当てはまるかは、時期によっても異なる、複雑な法則となっています。
例を挙げると、バインディング等装飾を豪華にしたデラックス・バラディーア=レジェンドは「1117」、後年登場するカスタム・バラディーアは「1112」、同じスタンダード・バラディーアでもピックアップ付きモデルは「1611」または「1711」などなど…
そして、その4桁の数字の後、ハイフンから続く数字は、「1」はサンバースト、「4」はナチュラル、「5」はブラック…という風に、フィニッシュ・カラーを表しています。

今回紹介させて頂く個体は1978年製、丁度Adamasの発表等で、ブランド・イメージが固まりつつあった時期の物と言えます。

細部も順番に見てみましょう。

 

ヘッドには、オベーションの顔とも言えるボウル・バックをデザインしたロゴが入っています。
ペグは1960年代の最初期型はグローバー・ロトマチックなのですが、この時期はやはりボウル・バックのデザインがカバーに施されたシャーラー・ペグとなっています。
ヘッドひとつを見ても、ギブソンやマーチンといった楽器職人出身のブランドとは趣の異なる、モダンで工業製品然としながらも美しいデザインですね。

 

バラディーア/レジェンド系統のモデルの特徴である、サウンドホール・ロゼッタ。経年により褪色し、ウェザー・チェックが入った渋いルックスとなっています。
弦を裏通しするタイプのブリッジも当時としては画期的なデザインでした。本器はノンPUのため、シンプルなストレート・サドルとなっています。

 

オベーション最大の特徴とも言えるカーボン・グラファイト材によるボウル・バック・ボディ。大量生産に向いており、かつ効率の良い反響を狙った独特なドーム形状で、生ギターとして見ても跳ね返り感の強い個性のあるサウンドです。
特に本器のような胴厚のあるディープ・ボウルの場合、その形状が災いし、慣れないと座って演奏していると滑り落ちてきてしまう事で有名な(?)オベーションですが、一応太ももに当たる部分には滑り止め的な加工が施されています。実際の効果の程は・・・ですが・・・。

*オベーションのボディ厚について;
60年代に登場した当初はボディの形状は1種類のみでしたが、後発で薄胴の「シャロウ(アーティスト)」ボディ、その進化版「スーパー・シャロウ」ボディや、中間に位置する「ミッド・デプス」ボディなど、バリエーションが豊富になり、用途や好みによってセレクトできるようになります。

また、この時期のノンカッタウェイ・モデルの場合、ヘッド側のストラップピンが、右利き用であっても一般的な6弦側ではなく、1弦側に付いている事も特徴です。恐らく実際に立って演奏する際の重量バランスを考慮しての設計でしょう。

 

ボディ内部です。
サイド&バックのボウル(リラコード)はこの時期は90年代以降と比較すると明らかに作りが異なっており、全体的にごつめの印象です。
トップにはスプルースを使用。ブレーシングはオベーション独自のXブレーシングです。Xブレーシングと言っても、マーチンやギブソンのそれとは形状が全く異なっており、幾何学的な印象を与える作りです。
70年代当時、このXブレーシング以外にもオベーションはモデルにより「Aブレーシング」「ファンブレーシング」「VTブレーシング」などなど、複数のブレーシングを使い分けており、1112カスタム・バラディーアや1114フォークロアは同様にXブレーシング仕様でしたが、同じバラディーア系でも薄胴のシャロウ・ボウル仕様の1121アーティスト・バラディーアにはVT-8ブレーシングを、1117レジェンドには似た形状のVT-11を、さらに1119カスタム・レジェンドにはAブレーシングを…といったように異なるブレーシングを採用し差別化を図っています。
伝統的なアコースティック・ギターの製法に囚われず、良いサウンド・良い楽器を追求していた姿勢が見て取れるポイントです。

変形してしまう事の多いオベーションのボディトップですが、本器はXブレーシング仕様という事もあり、クラックや極端な変形も無く、良いコンディションを保っています。
サウンドの方もリラコードがごつい影響か、非常にボリューム感のある印象で、生ギターとして見てもしっかり実力を秘めている事が伺えます。
丁度この時期に、音響効果を計算してデザインされたエポレット・サウンドホールを採用したAdamas、その後のEliteといった革新的なモデルを次々に発表するオベーションですが、創業当初からのベーシック・モデルであるバラディーアにも、独自の設計思想、哲学が込められている事がわかります。

現在はエレアコ界の定番の座をTaylorやCole Clarkに譲ってしまった感もありますが、未だに根強いファンが多くいる点、また、若い世代の方の中にも店頭で興味を持って頂く機会も多く、愛用される方も多い点から、時代を経ても変わらぬ魅力を持ち続けているブランド/ギターと言えます。

オベーション=エレアコのイメージの強い方にこそ、是非お試し頂きたい逸品です。

今年の【Vintage File】も昨年同様、様々な面白いヴィンテージを取り上げていきますので、お楽しみに!

シェアする