【Vintage File】#18 Fender 1963年製 Jaguar Black ~黒のフラッグシップ~
渋谷店佐藤です。
前回は「ロックレジェンドに愛されてきた廉価モデル」として、1966年製のFender Mustangを紹介させて頂きましたが、今回は同時期にFenderのエレクトリック・ギターの最上位機種として君臨し、紆余曲折あったものの、Mustang同様にロックレジェンドから入門者まで、今日幅広いギタリストから支持を受けているモデルを紹介させて頂きます。
Fender 1963年製 Jaguar Black
マッチングヘッドのオリジナル・ブラック・カラーがウルトラクールな、プリCBS期の1本です。
ジャガーは1962年に、当時のFenderのそれまでの最上位モデルであったジャズマスターの、さらに上位機種として発表されたフラッグシップ・モデルです。
元々ジャズマスターはその名の通りジャズ・ギタリスト向けに開発・発表されたモデルでしたが、当初の狙いとは外れ、サーフ・ミュージックやインストバンドのギタリスト達がこぞって愛用していた、という経緯がありました。そこでジャガーは、ジャズマスターの要素を継承しつつも、実際にジャズマスターを愛用していたサーフ・ミュージック等のジャンルを愛好する比較的裕福かつ若手のギタリスト向けに仕様をアレンジされ開発・登場しました。
それでは、内部画像も含め、順番に細部を見て、当時のフェンダーの最上位機種の魅力に迫りましょう。
ジャズマスター同様の左右非対称の流麗なオフセット・コンター・ボディです。元々ジャズマスターはジャズギタリストらしく座って演奏する際にバランス良く構えられる事を前提としてデザインされており、その為正面から見た際左右でボディの「くびれ」の位置が異なっています。また、ジャズマスターとは実は細部の形状が微妙に異なっているのがポイントです。ジャガーのほうがどちらかと言うと鋭く攻撃的な印象のフォルムですね。
コントロールは正面から見て右下(1弦側)のマスターボリューム&トーンの他、ジャズマスター同様のプリセット・スイッチ及びボリューム&トーン(ボディ6弦側にあるスイッチで、Onにすると強制的にフロントPUのみの出力となり、ボリューム&トーンの設定もスイッチ横のプリセットボリューム&トーンノブで設定したものとなる)を備えていますが、ピックアップセレクターは各PUごとにOn/Offのスライドスイッチを備え、さらにその横にローカットフィルターのOn/Offスイッチも備えます。最上位機種らしく、多彩なサウンドメイクが可能なコントロールとなっていますね。
また、ネックに関してはジャズマスターとは異なり、ショートスケール(24inch≒610mm)の22フレット仕様となっています。黒々としたブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)のラウンド貼り指板で、経年で渋い色合いとなったクレイドット・インレイと相まって精悍なルックスです。
本器はマッチングヘッド仕様のため、ヘッドストックには”Fender”のトランジション・ロゴのみ。また、写真では非常にわかり辛いのですが、ヘッドとボディのブラックカラーの質感が微妙に異なっています。これはボディ側は目止め(黄色)→下地(白)→トップ(黒)という塗装工程を踏んでいるのに対し、ヘッド側は下地を一部省略して黒を吹いているという工程の違いによる為です。
それでは内部も見ていきましょう。
ネックデイトは1963年7月1日。ネックポケット部には塗装時のハンドル跡(目止めの黄色部分が露出している箇所)が確認できます。
ピックガードを外した状態です。ボディ中央部に彫り込まれた”BLACK RR”という文字が目を惹きます。当時のFenderのカスタム・カラーの個体にしばしば見られる彫り込みです。ネックジョイント部の裏面にも同様の文字の彫り込みがありますね。”RR”とは・・・オーダーした顧客のイニシャルか、組み込んだ職人のイニシャルなのか、それとも全く別の暗号なのか・・・今となっては謎ですがロマンがありますね。
複雑な配線を上手くキャビティに収めていますね。キャビティ内にはノイズ軽減のため金属プレートが貼られており、ピックガードの裏面にもプレートが貼られています。
*余談ですが、ヴィンテージのJaguar/Jazzmasterのピックガードは経年で収縮している事が殆どで、しかもピックアップカバーやスイッチプレート用の穴がタイトでぎちぎちになって嵌ってしまっている事が多いです。その為、ひとたび外れてしまうと元に戻すのが非常に面倒で、無理やり押し込むと最悪割れてしまう事もあるため、分解には細心の注意を要します。今回も非常にビビりながらの作業です・・・。
ブリッジ&サドルです。サドルの溝は良く見ると大きさの異なるものが3種類使用されています。この寸法やパターン数も年式によって変化していきます。
ブリッジを外すとミュート機構用のネジ穴と台座が現れます。Onにする(=1弦側の金属プレート部分を押し込むとバネでミュートのスポンジ部分が持ち上がり、ミュートがかかります)事で、サーフ・ミュージックでよくある所謂「テケテケ」サウンドを出す事ができます。
前回紹介させていただいたムスタングに搭載されていた「ダイナミック・トレモロ」システムの基となり、かつ上位機種にあたる「フローティング・トレモロ」システムです。その内部の機構を見てみましょう。
ややわかり辛い図で恐縮ですが、アーム・バーを介して弦が留まっているプレートを、バネを収縮させる方向に押し込んだり引っ張ったりする事でビブラートがかかる構造となっています。ストラトキャスターに採用されている「シンクロナイズド・トレモロ」システムと比較すると、ビブラートのかかり方が緩やかで、元々ジャズマスターに採用され、ジャズ・ギタリストが求めそうなメロウなビブラート・サウンドを出す事を意図している事が見受けられる設計です。当初意図していたターゲットからはやや外れたものの、サーフ・ミュージックで多用される緩やかなビブラートを出すというミュージシャンのニーズにはマッチしたものとなりました。
さらに、プレート表側、バネ上部のネジを回すことで、アーミングの量(バランス)を微調整する事が可能となっている他、アームアップをできなくするようにユニットを固定するスライド・スイッチを備える等、上位機種らしく多機能なものとなっています。
ピックアップのカバーを外した様子です。
ジャズマスターのピックアップはジャズを意識した甘くソフトなトーンを狙ったもの(実際のサウンドは別として・・・)であったため、より切れ味の鋭く明るく歯切れの良いサウンドを・・・というニーズがあり、その為ジャガー用には新しいピックアップが開発されました。ピックアップ周囲のギザギザの金属パーツ(=ヨーク)は、弦の下の磁界をコントロールするためのもので、ジャズマスターと比較してもジャキっとした金属的で歯切れの良いトーンが特徴です。
本器はブラックボビン、フロント・リア共にデイト(製造番号)は記載なしとなっています。
*ジャガーのピックアップがこれまたデイトを見るのに細心の注意を払う必要があります。前述のヨークを取り外す(完全には取り外さずに位置をずらすだけですが・・・)必要があり、油断するとアース用のハンダ部分をぶちっと断線してしまう事になります。ジャガーは私個人的にもカッコいいので好きなのですが、仕事としていじるとなると非常にやっかいなモデルなのです・・・。
ケースはノン・オリジナルでストラトキャスター用ですが、同時期のブラウン・トーレックス・ケースです。前述のミュートの他、ブリッジカバー、トレモロアームが付属します。
1960年代前期に登場し、フラッグシップモデルとして君臨したジャガーですが、サーフ・ミュージック・ブームの終焉や、ジミ・ヘンドリクスに代表される「ストラト使い」のギター・ヒーローの登場により、人気に陰りが出始め、1975年には一旦生産が中止となります。
しかしながら、80年代後期~90年代に入り、その個性的なルックスとサウンドが再評価され、主にオルタナ、グランジ、シューゲイザー系バンドや、ガレージ/サイケロック系バンドのギタリスト達に愛用され、人気が再燃します。愛用者としてはカート・コバーン(Nirvana)、ケヴィン・シールズ(My Bloody Valentine)、ジョニー・マー(The Smith)らが知られており、そのフォロアーと言えるジャンルのバンドでの使用率も、プロ/アマ問わず高いモデルです。
今回紹介させて頂いた1963年製の個体も、ヴィンテージとして見てもオリジナル性が非常に高いながら、現役の楽器としてもしっかり使えるコンディションを保っており、往年のサーフ・ロックやガレージ・ロック的なプレイにも合いますし、逆にエフェクトを何重にも深くかけたシューゲイザー的なバンドでがっつり使ってもクールな1本です。
何より経年で味の出たブラックカラーが、ステージで目を惹く事間違いなしですね。サウンドの方もハカランダ指板のジャガーらしく、跳ね返り感が鋭く、ジャキジャキ・ギャリギャリとした枯れていながらも非常に元気の良いトーンです。
フラッグシップらしい風格を持つ1本、如何でしたでしょうか?
次回の【Vintage File】もどんな楽器が登場するか、お楽しみに!