【取材レポート】D’Addario(ダダリオ)プロダクトマネージャーRob Cunningham氏インタビュー《前編》
9月某日都内某所、イシバシ楽器では来日中だったダダリオ社のプロダクトマネージャーRob Cunningham氏への独占インタビューが実現。ミュージシャンによるミュージシャンのためのブランドであるダダリオ社の製品に対する思いやエピソードなど語っていただきました。その模様を当ブログにて2回にわたってお送りいたします!
前編:『ダダリオ社の信念とAmerican Stage Cable』
~製品に対しては常にプレイヤー視点であり、ミュージシャンへのリスペクトを常に心がけています。これはダダリオ社の大きな強みだと自負しています。~
イシバシ楽器:本日は貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。まずはRobさんの簡単な経歴等教えていただけますか?
Rob氏:ニューヨークのロングアイランド出身で、ギターを始めたのは12歳頃だったと思います。LED ZEPPELINのジミー・ペイジに大きな影響を受けました。いろんな音楽を分け隔てなく聞くようにはしていますが、やはりクラシックロックやハードロックのような、基本的にはギターがドライブしているような音楽を聴くことが多いですね。ダダリオで働く前はアメリカの某大手楽器店のギターセクションで5年間ほど勤めていました。
イシバシ楽器:おぉ、そうなんですか!実際に楽器店でギターの販売をなさっていたのですか?
Rob氏:そうです。それで、その頃にたまたまダダリオ社の営業求人があって、縁あって働くことになったのです。入社後しばらくして同じニューヨークでギターストラップブランドとして人気のあったプラネットウェーブス社がダダリオ社の傘下になったのですが、ダダリオ社が様々な楽器アクセサリーを「Planet Waves」ブランドで製品化していくにあたって当時のプラネットウェーブス社にはギタープレイヤーがおらず、人材が必要でした。
そのため、ジム・ダダリオ社長は楽器アクセサリーの開発に着手する際によくギタープレイヤーでもあった私に意見を求めてくる機会が多くなっていました。そんな感じで製品開発に関わっていき、現在のプロダクションマネージャーというポジションに至ります。
とはいっても、ダダリオ社はジム・ダダリオ社長含めてほとんどのスタッフがプロアマ問わず、自ら楽器演奏をするミュージシャン(プレイヤー)なので、製品に対しては常にプレイヤー目線であり、ミュージシャンへのリスペクトを常に心がけています。これはダダリオ社の大きな強みだと自負しています。
イシバシ楽器:なるほど。クラシックロックが好きだということで、少し話は外れてしまいますが、最近では日本でもVintage Troubleのようなバンドも注目されています。面白いバンドですよね。
Rob氏:そうですね。すごく好きです。彼らと出会ったのは2~3年くらい前で、彼らがThe Whoのオープニングアクトとして出演した時でした。そこで彼らの演奏を見て「Who is this band?」(ザ・フーのライブ見に行って)「彼らは誰だ(who)?」って言ったのを覚えています(笑) 今ではダダリオのエンドースアーティストとして関わるようになりました。
イシバシ楽器:とても面白いお話ですね!こういったバンドに人気が出てくるとダダリオやプラネットウェーブス製品への注目度も高まりますね。
Rob氏:そうですね。そういったものが巡ってくことはあると思いますし、意識はしています。
イシバシ楽器:アーティストとの新しいリレーションによって、また新しいプロダクトが生まれてくるわけですね?
Rob氏:そうですね。我々はいつも発売前にアーティストに製品テストを行なってもらい意見や感想(フィードバック)を述べてもらっています。そのアドバイスや改善点が理にかなっているものであれば次のバージョンで取り入れるようにしています。
例えばこのNYXL弦はそれを象徴する製品です。我々は発売前にこれらを全エンドースアーティストにサンプルを送り、ほぼ調査に近いのですがフィードバックをもらい、それを基にリファインし、プロフェッショナルも納得の製品に磨き上げていったのです。プラネットウェーブス製品も同じように、自分たちも含め、使用するミュージシャンの意見に常に耳を傾け製品化するよう心掛けています。
イシバシ楽器:そこまで深く入り込んだマスプロダクトは多くはないように思います。それはダダリオ社の信念に基づいているということですか?
Rob氏:我々は常に進化(イノベート)をさせたいと考えています。既存にあるものをただ単にコピーしていくのではなく、研究して、市場にないものやそこから一歩先に行く製品を作ろうと心掛けています。
イシバシ楽器:ではお話を少し戻して「Planet Waves」というブランドに関してお伺いいたします。「Planet Waves」は元々ストラップブランドとしてその歴史をスタートさせておりますが、どのように発展を遂げていったのでしょうか?
Rob氏:当時、プラネットウェーブス社とダダリオ社は別々の会社でした。ダダリオ社はいくつかのギターストラップを楽器アクセサリーとしてリリースしていたのですが、弦以外の楽器アクセサリーをもっと広く展開していこうという話になり、それで弦以外のギター関連アクセサリーとしてギターストラップを展開していたプラネットウェーブス社を傘下に入れることになりました。
プラネットウェーブス社は小さな会社ではあったのですが順調に成長を遂げていました。しかし、自分たちの力でそれ以上に成長していくには限界があったところ、ダダリオ社の傘下に入ることで更なるステージへ進むことが出来るようになりました。そういった意味でもお互いにとってベストマッチングであったと考えています。
イシバシ楽器:両社ともニューヨークに拠点を置く会社ですよね?それも関係していたのでしょうか?
Rob氏:ニューヨーク特有のアティチュード(姿勢・態度)が一致していたということもありましたし、プラネットウェーブス社のギターストラップは当時のギターストラップではあまり使われていなかった柄や素材、目立つカラーを採用し、成長を遂げていました。加えて、やはりお互いが近くに拠点を構えていたというのも大きな理由の一つでした。当時人気のあった「パープルリザード」ストラップは未だに使用しているプレイヤーを見かけることがありますね。
イシバシ楽器:プラネットウェーブスがダダリオ社の弦以外のアクセサリーブランドとして更なる発展を遂げていくわけですが、製品化にあたり常に心掛けていることや苦労したエピソードなどあればお聞かせください。
Rob氏:最も大変なのは「製品を作る」というより、自分たちの納得する製品を形にすることですね。自分たちがミュージシャンであるがゆえに、常に自ら難題を設けて、それを越えていこうとすることがとても難しいです。
基本的に全てのプロセスは自分たちで作り、構築していくのですが、まれに外注するような場合にはかなり高いハードルを設けるので、彼らにとっては厳しいビジネスパートナーだと思われているのではないでしょうか。我々は常に良い製品を作るために信頼し邁進できるパートナーを選んでいます。
イシバシ楽器:それだけ妥協のない製品が形になっているということですね?
Rob氏:その通りです。妥協はしたくないんです。それが私たちの信念でもあります。
イシバシ楽器:それでは、代表的なプラネットウェーブス製品についてお話いただけますか?
Rob氏:その一つにAmerican Stgae ケーブルの開発があります。それまでのプラネットウェーブスケーブルはニューヨークで人の手を使って製品を製造していましたが、とてもコストがかかっていました。これを解消するため、私たちはソルダリング(ハンダ付け)の機械を自分たちで作ったんです。
多くのシールドケーブルはプラグの接合部分(ケーブルとプラグを繋げているハンダ付け箇所)にトラブルが生じますが、このソルダリングマシンによってハンダ付けされたこのAmerican Stageケーブルではここにトラブルが生じることはありません。(実際にものすごい力で引っ張ってみる)
※ヘイローフューズ:アース部分を「点」ではなく「面」でハンダ付けしているので外れにくくなるというダダリオ社の特殊技術。
これによってシールドケーブルの最大の弱点が、このケーブルにとっては一番の強みになりました。実際に耐久テストを行ないましたが、ケーブル本体の方が断線してしまうまで、他のどの部分も壊れることはなかったんです。逆にこの接合部が何回の耐久テストに耐えられるのだろうかというほどに至ったのです。それぐらい市場にあるケーブルの中でも抜群の耐久性能を持った製品になったと信じています。
イシバシ楽器:やはりこれにもミュージシャンが実際にステージやレコーディングの場面で使用するにあたって意見や要望があったのでしょうか?
Rob氏:そうです。ミュージシャンたちによって作り上げられた製品と言うことが出来ます。
例えば、ジム・ダダリオ本人もギタリストですので、製品サンプルは自宅に持ち帰りひたすら試して、翌日には自ら改善するべき点をレビューしフィードバックしています。実際には楽器を弾かない技術者が技術的に成すべき部分と、ミュージシャンが使用するにあたって必要な部分がうまく間を埋めていく形が私達には出来ていると思います。
イシバシ楽器:ケーブルの開発に力を入れていたことが証明できるような面白いお話ですね!
Rob氏:それだけでななく、このケーブルジャケット(外装)にも拘っています。良くあるケーブルジャケットはステージやスタジオで使用するとベタベタしたりホコリが付着したりしますが、ややシルキーでサラッとした手触りのこのジャケットも自分たちで開発しました。
さらにお話しさせてもらうと、このケーブルではプラグのチップ形状も独自に開発しました。これまでもジャックやプラグには統一の規格というものがなく、タイプによっては接点が不安定でダイレクトなサウンドが再現できなかったんです。そのため、私たちはありとあらゆる様々なギターやアンプなどを研究し、どんな機材にもフィットする形というのを作り出すことになりました。
ジャックに関しては世の中に存在する100以上のジャックを一つ一つ採寸し、どういうプラグ形状にすれば安定した接点を確保できるか研究を重ねました。それによって計算し尽くして導き出した答えがこのプラグなのです。
イシバシ楽器:そこまで手間をかけているんですね!
Rob氏:クレイジーですよね(笑)
イシバシ楽器:それだけ製品づくりに拘っていることが素晴らしいことだと思います!
Rob氏:(実際にいくつかのプラグを繋げてみて接点を目視しながら)このプラグと比べてこのプラグの場合は接点が少し下の方にありますよね。
ジャックによって微妙に接する部分のカーブや長さが異なるので、プラグのチップ形状を「なだらか」に変えることで接地面が多くなり、フィットするようになっています。
イシバシ楽器:とても面白いですね!こんなに細かいところまで考えられているんですね。私たちも含めて日本のユーザーもここまで理解している方もまだ少ないと思います。
Rob氏:ケーブルを開発するにあたってチェックしなければならないポイントはたくさんあると思います。
ティップ形状・デザイン・素材など、ジャケット一つにしても時間をかけているのですが、よく目にする広告では全てのポイントを記載することはなかなか出来ないんですよね。ですので、こういった形で少しでも多くの魅力をお伝えできたらと考えています。私たちは弦にしてもケーブルにしても相当なこだわりを持って作っています。弦から出た音はケーブルを通り、アウトプットされ耳に届きます。弦だけでもケーブルだけでも良い音は生まれないということは意識しています。それらを組み合わせればあとはミュージシャン次第ということです。
イシバシ楽器:やはりミュージシャン目線という理念が一貫していますね。
Rob氏:そうですね、その通りです。
~後編に続く~
Planet Waves / American Stage Instrumetal Seriesはここからご購入いただけます⇒PW-AMSGシリーズ
次回「後編」ではプラネットウェーブスの代表的製品「カポタスト」や「プロワインダー」についてのお話です。
9/15(火)更新予定!お楽しみに!
インタビュアー:㈱石橋楽器店 WEB SHOP プロダクトマネージャー 小川友也
撮影:㈱石橋楽器店 WEB SHOP 落合亮介
取材協力:株式会社キョーリツコーポレーション