至福のリラクゼーション・サウンド、ワイゼンボーンの魅力

アコースティックギター 特集
イシバシ楽器池袋店の白井です。今回はリラックスした気分が味わえる、心地良いサウンドが魅力のワイゼンボーンに代表されるアコースティック・ラップ・スティール・ギター(以下ALS)を紹介いたしましょう。実は、私がプライベートな演奏活動や執筆活動で最も普及に努めている楽器なのです。

スティール・ギターの歴史


ALSは初期のハワイアン・ギター(スティール・ギター)です。横に寝かせてスライド奏法で演奏するハワイアン・ギターですが、当初(19世紀末頃)は専用の楽器があった訳ではなく通常のアコースティック・ギターを用いていました。しかしながら、それでは十分な音量を稼げないため、20世紀に入るとネックまでも空洞構造としたホロー・ネックのハワイアン・ギターが登場するようになります。

ところがホロー・ネックでも十分な音量を得ることはできず、間もなくリゾネーター・ギターやエレクトリックのスティール・ギターに置き換わっていきました。次第にホロー・ネックのギターは忘れ去られてしまいました。

人気再燃とワイゼンボーンへの注目


デイヴィッド・リンドレー、故ボブ・ブローズマン、ベン・ハーパー、グレッグ・リーズ、ジェフ・ラングといった現代のプレイヤー達がALSを再び使用するようになり、この楽器が再び脚光を浴びるようになりました。 アコースティック楽器用のピックアップとプリアンプが進化したことで、音量の問題がクリアされたことが復活の大きな要因でしょう。他の楽器では得がたい独特の音色が、彼らを通じて広く紹介されるようになりました。

そのALSの代表的ブランドは前述のワイゼンボーン(Weissenborn)です。カリフォルニアに拠点を置いた同社の製品は戦前に一世を風靡しました。現在ワイゼンボーンの名称はホロー・ネックのALSの代名詞的に使用されています。ワイゼンボーンはマウンテン・ダルシマーにも通じる撫で肩のボディ・シェイプが特徴的です。ワイゼンボーンのクラフツマンシップは決して高くはなく、またホロー・ネック構造が仇となって、ボディの歪みや割れといったトラブルに見舞われる個体が少なくはありませんでした。それでも、明るさと蕩けるような甘美さを兼ね備えた音色を持つワイゼンボーンは、愛好家にとってはトラブルのストレスを差し引いても魅力的な楽器なのです。

現在オリジナルのワイゼンボーンはビンテージ市場で個体数が少なく、また価格が大きく高騰してしまったことで容易に入手しづらくなりましたが、レプリカが登場するようになりました。

ALSの魅力


ALSの音色はボディの素材である木の質感を感じさせてくれます。またオープン・チューニングで演奏しますが、開放弦を絡めることで、オープン・チューニング独特の共鳴がリラックアスした気分にさせてくれます。あるときは森林浴をしているような、またあるときは海辺でそよ風にあたっているような開放感が得られます。オーガニックなトーンがサーフ・ミュージックにも良くマッチします。またサウンド・ホールが演奏者の方を向いているので、その素晴らしい音色を弾きながらに満喫できるのもALSの魅力です。

「スティール・ギターは難しくありませんか?」と言う質問を受けることがありますが、そんなとき私は故ボブ・ブローズマンの言葉を伝えるようにしています。それは「スライド系のギター・スタイルは、音楽の教育を受けることができない貧しい人達の間で生まれたもので、本来オープニン・チューニングを使用したシンプルなものだ。決して難しいものではない。」と言うものです。

ALS普及活動


ちなみに、私は前述のデイヴィッド・リンドレーのアルバム"Win This Record”(1982年)に収録された'Look So Good'、アルバム”Very Greasy”(1988年)に収録された'Tiki Torches At Twilight'といったナンバーを聴いて、ALSに興味を持ちました。

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”Win This Record"/David Lindley & El Rayo-X(左)、"Very Greasy"/David Lindley & El Rayo-X(右)

しかしながら、楽器を手に入れることができず、実際に挑戦することができませんでした。

1990年代の半ばになって、ようやく海外の楽器店からレプリカを購入することができました。当時活動中だった私の沖縄音楽のユニットでALSを使用してみたところ、沖縄音楽の緩やかなテイストにALSのサウンドがフィットすることに気がつきました。その活動が実を結び、リットー・ミュージックの『アコースティック・ギター・マガジン』Vol.36にALSの特集が組まれ、私はライター、インストラクターとして登場させてもらいました。付録のCDで演奏も聴くことができました。また、同誌では「スティーラーズ・ルーム」という連載コーナーも持たせてもらいました。石川鷹彦、山内雄喜、田村玄一、高田漣、おおはた雄一、日倉士歳朗、松井朝敬、すぎの暢、小島慎司、ボブ・ブローズマン、エド・ガーハードという内外の様々なタイプのALS奏者にインタビューをさせていただき、また何名かの方とは、ALSに特化したライブ・イベントで共演もさせていただきました。ALSの認知も少なからず深まったと実感しています。


アコースティック・ギター・マガジンVol.34(表紙は南こうせつ)


アコースティック・ギター・マガジンVol.34(モデルは白井です)

お勧めのワイゼンボーン・レプリカ


さて、どんなに魅力的な楽器でも、手にいれないことには話しが進みませんが、イシバイ楽器ではアッシャーのワイゼンボーン・レプリカの取り扱いを開始しました。これも普及活動の一環です。(笑) 初回入荷分はおかげさまで完売いたしましたが、現在第二弾を準備中です。
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●Asher Acoustic Hawaiian Imperial 販売価格¥128,000(税込) 専用ハードケース付属。

アッシャーはカリフォルニア在住のビルダー、リペアマン、ビル・アッシャーが手掛けるブランドです。前述のベン・ハーパーのシグネチャー・モデルのエレクトリック・スティール・ギターも作っています。そのビルがデザインし、中国の工場で生産させたのがこのモデルです。トップはコア単板、サイド&バックにはコア合板を採用しています。音色はオリジナルのワイゼンボーンに似ており、「CDで聴いたあの音色」が飛び出してきます。
私も現在メインのALSとしてこのモデルを使っています。

是非、皆様にもチャンレンジしていただければと思います。池袋店にお越しいただければ、さらに詳しい説明もいたします。よろしくお願いいたします。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始め、石川鷹彦をきっかけにブルーグラスにも興味を持つ。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンで、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代の音楽とファッションをこよなく愛し、音楽のあるスロー・ライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様のライフ・スタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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