【Vintage File】#5 Martin 1974年製 D-35 ~芳醇な音楽の時代のドレッドノート~

Martin アコースティックギター ヴィンテージ 特集
ヴァイオリン等と比べると、所謂フラットトップ・アコースティックギターの歴史はまだまだ浅いのですが、ギターの年齢とは、人間に換算するとどのような計算になるのかが気になる今日この頃です。
第4回まで意図せずGibsonが続いてしまったため、【Vintage File】第5回は、こちら、1974年製Martin D-35を紹介させて頂きます。
年齢で言うところの今年で42歳の個体ですね。

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丁度修理・調整が完了し渋谷店に到着したばかりのこちらの個体、消耗部位を中心に交換パーツはあるものの、嬉しいブルーケース付き。
他にも色々と興味深い箇所が多い個体ですので、各所を見てみましょう。

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スプルーストップ、インディアンローズウッドサイド&バックのドレッドノートボディ。製造から40年以上経過した事により日焼けし飴色になったトップが渋く、新品とはまた違う魅力を持つルックスとなっています。
D-35の最大の特徴と言える3ピースバック。元々は1960年代に広い面積の木材を確保する事が難しくなった事から生まれた苦肉の策だったが、その影響でD-28とは異なるサウンドが生まれた...というのがこれまでの定説ですが、実はブレーシングの寸法や、指板にバインディングが入った影響でネック全体のシェイプも微妙に異なっており、その辺りもD-28とは違うD-35ならではのサウンドのファクターとなっています。

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1970年代中期までのMartinのルックスのポイントと言えるオールド・デカール・ロゴと通称ミルク・ボトル・スタイルのグローバー・ロトマチックペグ。ヘッドの形状は60年代の丸っこい形状(ラウンド・コーナー・ヘッド)に比べると角ばった形状に戻っています。

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70年代Martinの泣き所と言えるピックガード周辺。こちらの個体も良く見るとマーチン・クラックを修正した跡があり、それに伴いピックガードとブリッジを交換しています。しかしながらしっかりと交換・修復されており、実用的な楽器としてみると中途半端にオリジナルの状態であるよりは安心かもしれません。

*マーチン・クラックとは;
この当時のMartinは、現行とは異なり先にボディにピックガードを貼ってからピックガードごとラッカー塗装する工程で作られていました。その為、経年でピックガードが収縮した際、上に乗った塗装ごとボディを引っ張ってしまい、耐えられなくなったピックガード付近のボディが割れてしまうトラブルが多発します。Martinギターに特有のこのクラックをマーチン・クラックと呼びます。しかしながらMartinだけに当てはまらず、50年代後期~60年代前期の薄ラージガード仕様のGibson等にも同様の原因で起こるピックガード付近の割れがよく見受けられます。


内部を見てみましょう。

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基本的な形状は現在まで脈々と受け継がれてきているMartinのXブレーシングですが、ブリッジプレートがローズウッド製である点など、現行のものと比較すると細部がかなり異なっています。

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参考までに、こちらは現行のD-35の内部です。バックブレースの高さやセンターシームの曲面やエッジの処理の違いが特に目立ちます。
ただ伝統を大事にするだけではなく、年代を経るごとにその時々のトレンドを取り入れモディファイを繰り返してきた事の証左です。

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ファンの方にとっては嬉しいブルーケース!本個体にはケース内部に新品当時のオーナーズマニュアルとサービス品(?)のクロスも残されていました。

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マニュアルの中身も中々細かくて面白いです。ブレーシングの構造まで解説してくれています。正しい弦の張り方はカットモデルの画像を使って解説してくれるという親切っぷり。
当時のアンケート用紙も未記入のまま残っています。

人気や相場はハカランダを使用していた1960年代以前のものが圧倒的なのですが、70~80年代のマーチンも、今回紹介させて頂いたD-35のように、円熟味を感じさせ、新品とは異なるヴィンテージならではの芳醇な魅力を持つ個体が多いです。
「D-35はD-28に比べて優しい音色が特徴でフィンガースタイル向き」とよくコメントされますが、本器のような70年代のD-35は意外に力強さも感じさせる個体が多く、もちろんD-35らしい優しい印象も垣間見えるのですが、優しく繊細なフレーズ以外に、フラットピックでのパワフルなストロークでも魅力が光る印象があります。

また、70年代と言えば日本ではフォーク・ブーム全盛期のため、リアルタイムで体験されてきた方にとっては最も懐かしい時代のMartinなのではないでしょうか?
もちろん、現代においてがんがん使う実用的な楽器として見てもその実力は申し分なく、かつ価格も現行の新品と同程度とお手頃なため、実践的なプレイヤーの方からも人気の高い年代です。

次回の【Vintage File】もお楽しみに!

この記事を書いた人

佐藤俊太
名古屋栄店サブマネージャー。イシバシ社内のエレキやベース、アンプ等含めた海外でのヴィンテージ楽器の買付も担当、定期的に渡米し現地のディーラー/コレクターと直接交渉を重ね買付を行っている。特にアコースティックギターに精通しているが、プライベートではパンクやガレージロック、ダークなアンビエント等を好み、愛器は1970年製Guild Bluesbird、モディファイした近年製SG Special、自作のストラト・タイプ、Mayonesの7弦などなど。個人的にはヴィンテージ/近年製問わずアクの強い楽器が大好物。はじめての楽器選びから一生モノとなるとっておきの1本まで、皆様の愛器との時間が最高のものとなるべく、精一杯お手伝いさせて頂きます。

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