【Vintage File】#24 Gretsch 1962年製 6119 Chet Atkins Tennessean ~名手の愛する銘器~
渋谷店佐藤です。
本記事の一般公開は年明けになるかと思いますが、この記事を書いている今は2017年も終わりかけの12月26日です。皆様如何お過ごしでしょうか?今年もGuitar Quest【Vintage File】にお付き合い下さいまして、ありがとうございました。
それでは1年を締めくくる渋い1本を紹介させて頂きましょう。
Gretsch 1962年製 6119 Chet Atkins Tennessean。
【Vintage File】初のグレッチの登場です。
ギターやベース等の他、ドラムでも知られるグレッチ・カンパニーの歴史は古く、1883年にドイツからの移民であるフレデリック・グレッチがニューヨークで創業した事に始まり、当初はタンバリン、ドラム、バンジョー等が主力商品でした。ドイツ人移民で19世紀にニューヨークを拠点にしてスタートしたと言う点ではマーチン(C.F.Martin)と成り立ちが非常に似ているのですが、ギター作りに関する哲学や設計思想、そしてブランドが辿った歴史が全く異なっている点が興味深いポイントですね。
今回紹介させて頂くテネシアンは1960年代初頭、グレッチの最盛期と言える時期に作られた1本です。順番に各部を見てみましょう。
本器6119(テネシアン)の他、6120(ホローボディ=ナッシュビル)、6121(ソリッドボディ)、6122(カントリー・ジェントルマン)は、当時のギター・ヒーロー、チェット・アトキンスの名を冠したシグネチャー・モデルとして発売されていたもので、6119は当初その中では廉価グレード・モデルとしての位置づけでした。
その為、テネシアンは登場した当初は1PU、fホール付の厚みのあるディープ・ボディといった「6120の簡略化バージョン」としての印象が強い仕様でしたが、1961年に2PUに仕様変更、その後他の細かい箇所も徐々に変更され、現在良く知られるスタイルに変化していきます。
今回紹介させて頂く1962年製の個体は薄いボディにハイロートロンPUを2基搭載、ゼロフレット仕様。ボディのfホールは実際には空いておらずペイントされているだけの所謂「シミュレーテッド・fホール」ですが、ペイントの外周部に白色の縁取りが無い初期仕様である所がポイントです。
6120や6122等のグレッチのホローボディ・モデルの特徴のひとつと言える、ボディバックの合皮製のカバー(及び裏蓋)ですが、本器6119には付いていません。つまり、前述のシミュレーテッド・fホール仕様も手伝い、電装系パーツにアクセスできるのはピックアップキャビティの穴のみという極悪なメンテナンス性の悪さ(笑)!さらにヴィンテージの6119は後ほどお見せする画像の通りピックアップキャビティの穴が狭く、リペアマン泣かせな仕様となっています。
同時期のメンテナンス性の悪いギターと言えば、狭いfホールからしか電装パーツにアクセスできず、センターブロックもぶっ通しの初期のGibson ES-335や、6119同様fホールすら空いておらず、裏蓋もなし、ピックアップキャビティしかアクセス可能な場所がないGuild M-75(アリストクラット/ブルースバード)等が思い浮かびますね・・・。
それではピックアップも見てみましょう。
固定されているビスを外し、この薄いカバーを取り除きます。
ハイロートロンPUの中身が姿を現します。カバーが付いている状態だとサイズ的にハムバッキングPUに見えなくもないのですが、中身を見るとシングルコイルである事が見て取れます。その名(Hi-Lo)の通り、シングルコイルらしいしっかりした低音とキレのある高音が特徴的でレンジの広い特性・・・とよく表現されるのですが、所謂Fender系のシングルコイルとは全く異質な、非常に図太く「ジリジリ」としたウォームなニュアンスがあるのが持ち味となっています。
また、この建てつけの悪さもヴィンテージ・グレッチの特徴です(笑)。割り箸の破片のような木材を接着剤でぞんざいに取り付けている辺り(本器はさらに別の端材を接着し土台部分を補強してあります)や、エスカッションとピックアップカバーの縁が全く合っていない辺りに、雑ですが中々憎めないグレッチのキャラクターが見て取れます。
さらに前述の通り、ボディ内部に繋がる穴がポールピースが貫通する範囲の、狭いエリアしか空いていない点+その穴の開け方も何ともアメリカンで適当(褒め言葉)な辺りにも注目です。
一方で、一見シンプルに見えるバー・ブリッジを分解すると、木製のブリッジベース(土台)の受け皿部分はすり鉢状に加工され、金属側は円弧状となっており、ビブラート・ユニット(ビグスビー)でアーミングした際、ブリッジ自体が動いてスムースにビブラートがかかるよう工夫されています。
後年には音響特性を狙ってボディ内部に音叉を仕込んだりといった創意工夫が見られるグレッチ。ひたすらアメリカンで雑な部分と、実は考え抜かれた設計である部分が同居する奇妙なキャラクターもまた魅力のひとつです。
ヘッドストックはシンプルですが、ダークチェリー(ウォルナット)カラーと相まって渋い印象を醸し出しています。
チェット・アトキンス自身はカントリー・ミュージックがベースのミュージシャンとカテゴライズされる事が多いのですが、その後のジョージ・ハリスンや浅井健一といった名プレイヤーの愛用でも知られている通り、癖は強いながらも多少歪ませた現代的なロックなジャンルでもしっかりと活躍できるポテンシャルを持った銘器と言えます。
強烈な個性を持つヴィンテージ・グレッチの世界、是非体感してみては如何でしょうか?
お問い合わせの際はイシバシ楽器渋谷店までお気軽にお申し付け下さいませ。
それでは、2018年の【Vintage File】もお楽しみに!