【Vintage File】#27 Danelectro 1963-64年製 Pro 1 Brown Sparkle ~恐るべき格安ギター~

渋谷店佐藤です。

この記事を書いている2月28日現在、まだまだ寒い日が続いていますが、少しすると暖かくなりはじめ、新生活をスタートする方が多くなるシーズンとなります。
このシーズンにこれからギターを始めてみようかな・・・?という方も多いかと思いますが、今回のGuitar Quest【Vintage File】では、今から約半世紀前の1960年代、そういったこれからギターを弾き始める方向けに作られていたうちの1本であるモデルを紹介させて頂きます。

Danelectro / 1963-64年製 Pro 1 Brown Sparkle。
1963年前後、僅か2年程しか製造されていなかったモデルです。

一般にはビザール・ギター・ブランドとして認知されていながら、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ジャック・ホワイトらそうそうたるミュージシャンが愛用してきた事でも知られるダンエレクトロ。元々は1940年代にスタートし百貨店向けにアンプを製造していたブランドでしたが、1950年代に入り自社ブランドのエレクトリックギターの製造に乗り出します。ダンエレクトロは当時としてもGibsonやFender、Epiphoneといった高級ブランドと比較した際、どちらかというとビギナーやアマチュア層向けのモデルがメインでしたが、本器Pro 1はその中でもお手頃なモデルで、「これからギターを始めるビギナー」や、「自宅練習用のちょっとしたギター」といった立ち位置を狙ったものでした。

それでは、各部を順番に見ていきましょう。

 

雲形とでも形容すべき小振りなボディに、ショートスケールのネックを13フレット位置でジョイントさせたスタイルです。一見シンプルそうに見えるボディデザインですが、他のどのブランドとも似ておらず、レトロフューチャー的なニュアンスも感じさせる造形で、半世紀経った今見ても古さをあまり感じないのが不思議な所です。ピックガードのデザインもクールです。

 

ヘッドストックです。シンプルな形状ですが、ペグが左右でずれた箇所に配され、左右非対称のシェイプが強調されているのがさりげなくオシャレですね。

内部も見ていきましょう。

 

ネックジョイントを外した所です。ネックは2点止めのデタッチャブル(ボルトオン)ですが、ネックポケット下端のボディ側にネジが埋め込まれており、このネジを回す事でネック・アングルが調整できるようになっています。Fenderが70年代に入り採用するマイクロ・ティルト機構と同様のコンセプトですが、ダンエレクトロが10年も先取りしていたという点に注目です。ダンエレクトロは他にも50年代に6弦ベースを登場(Fender BassVIの登場前)させるなど、先見の明を持ったブランドである事でも知られています。

指板はこの時代なのでブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)です。今では考えられませんが何とも贅沢な時代です。

 

ボディは中空で、外見からはイメージしにくいですがほぼフルアコに近いような構造です。ネックブロックやブリッジ真下等固定が必要な箇所にのみ心材が組み込まれています。
Pro 1のボディカラーはブラウン・スパークル・カラーのみの1色展開。スパークルといってもそれ程ギラギラしたカラーではなく、どちらかというと渋く奥ゆかしい印象の色合いです。スパークル具合でいうとGretschのGold/Silver Dukeと似たような質感ですね。

ピックアップ及び配線類はメゾナイト(硬質繊維板)製のピックガードに丸ごとネジ止めされています。大量生産に向いた仕様です。

また、ピックアップ周辺ですが、金属製の板バネのようなパーツの上にピックアップが固定されており、ボディに装着した際バネの張力でピックガードが押さえつけられがっちりはまるようになっています。安価な素材を用いたシンプルなつくりながらも考え抜かれた設計ですね。

ポットやアウトプットジャック等は、メゾナイトの端材を上部にあてがい、周囲を銅箔が貼られたペーパーで覆われています。簡素ながらもノイズ処理等を考慮したつくりです。

 

ダンエレクトロの代名詞と言えるリップスティックPU!その名の通り口紅のケースをカバーとして流用した専用ピックアップです。カバーを取り除くと黒いシートに覆われたコイルが姿を現しますが、ぱっと見のルックスは正に口紅です。他のどのブランドと比べても異質なダンエレクトロ独特のサウンドを生み出す肝となるパーツです。

ぱっと見は小ぶりで可愛らしいデザイン・簡素なつくりのビギナー向け格安ギターといった印象なのですが、細部を見てみると限られた生産コストの中で最大限効率よく製造し、ライバルメーカーの製品との差別化を図るための個性が与えられたプロダクトである事が見て取れます。

オリジナルのPro 1は結局2年程で姿を消し、ダンエレクトロ自体も60年代後期には経営方針の変更によりギター製造を止めてしまうのですが、手頃ながらもこうしたハイレベルで独特な設計思想と個性溢れるサウンド・キャラクターに魅了されたミュージシャンは多く、1990年代後半にブランドとして復活。ギター/ベースに加え、やはり可愛らしいデザインのコンパクトエフェクター群でも人気を博しています。

ダンエレクトロのサウンドはしばしば弱弱しく軽い音と言われる事も多いですが、本器は歪ませてみると意外に芯があり、それでいて独特の艶やかさを持っている印象のトーンです。スケールが短く14フレットジョイントの為、流石にテクニカルなリードプレイ等には向きませんが、演奏するジャンルやスタイルによっては、現代においても十分主戦力になり得るのではないでしょうか?

次回の【Vintage File】もどんな楽器が登場するのか、お楽しみに!

 

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