超クラレンス・ホワイト入門

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今回は44年前の7月15日に他界したクラレンス・ホワイトを命日にちなんで特集したいと思います。題して「超クラレンス・ホワイト入門」。エッセンシャルなアルバム5枚を厳選紹介しながら、使用機材と軌跡を追ってみましょう。

1944年6月7日生まれのクラレンスは、カリフォルニアをベースにブルーグラス、ロックの垣根を超えて活躍。天性の感性、様々な音楽を昇華した独自の演奏スタイル、卓越したテクニックで高い評価を得ましたが、1973年7月15日に交通事故で他界しました。享年29歳。クラレンス・ホワイトは、特に日本においては、誰もが良く知るミュージシャンとは言えないでしょう。どちらかというと、ミュージシャンズ・ミュージシャン的な存在です。しかしながら、本国アメリカのローリング・ストーン誌の「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」2011年版では52位にランキングされており、ジョニー・ウィンター(62位)、スラッシュ(65位)らと較べて高い評価を受けているのがわかります。トニー・ライス、マーティ・ステュワート、ジミー・ペイジ、中川イサトなど、クラレンスに影響を受けたギタリストは計り知れず、伝説的なミュージシャンとして語り継がれてきているのです。

●エッセンシャル・アルバムその1


Appalachian Swing/Kentucky Colonels

クラレンスは幼少より兄弟と組んだスリー・リトル・カントリー・ボーイズというブルーグラス・バンドで活動。グループ名をケンタッキー・カーネルズと改め1962年にレコード・デビューしますが、彼らのセカンド・アルバムが『アパラチアン・スウィング』(1964年)です。兄ローランドのマンドリン、クラレンスのギターの掛け合いを前面に出した全編インストゥルメンタルの作品となっています。ブルーグラスにテクニカルなリード・ギターを持ち込んだ最初の作品であり、クラレンスはこのアルバムによってブルーグラス・ギターの確立者と評されるようになります。ベーシックなスタイルはドック・ワトソンが生み出したフラット・ピッキング、クロス・ピッキングにあると言えましょう。しかしながら、ジョー・メイフィス、ジミー・ブライアント、ジャンゴ・ラインハルトらにも影響を受けたクラレンスのフレージングは、大胆不敵であり、独特のシンコペーションが相まって、一聴すればクラレンスと分かるくらいユニークです。このときクラレンスは若干19歳!

アルバム・ジャケットには後にマーティンから発売される彼のシグネチャー・モデルの原型である1935年製のD-28が写っています。現在はトニー・ライスが所有するこのギターは、拡張されたサウンド・ホール、ポジション・マークのないバインディング付きの指板(グレッチ・ギター用)が特徴です。しかしながら、実際にレコーディングで使用されたのはこのD-28ではなく、後に盗難に遭ってしまったD-18と言われています。確かに、このアルバクから聞こえてくる抜けの良いギター・サウンドはD-18ならではのものと言えるでしょう。
ちなみに、クラレンスはケンタッキー・カーネルズにおいてはロイ・ノーブルのギターも使用していることが知られます。

●エッセンシャル・アルバムその2


Nashville West/Nashville West

ケンタッキー・カーネルズは高い音楽的評価とは裏腹に商業的な成功を収められず解散。クラレンスはジェイムズ・バートンの勧めで、スタジオ・ミュージシャンとしてエレキ・ギターを弾くようになります。このナッシュビル・ウエストはそんな時代(1967年頃)のスタジオ・セッションの記録です。ドラマーは後にクラレンスとともにバーズに参加するジーン・パーソンズです。
クラレンスのエレキ・ギターの演奏と思い浮かべるのは、すでにGuitarQuestで紹介したストリングベンダーですが、ここではまだストリングベンダーは使用されていません。しかしながら、フィンガー・ベンド、ナット・ベンドを駆使し、すでに独自のスタイルを構築しています。開放弦のドローン、セブンスやブルーノートを絡ませたハンマリング・オン、プリング・オフもクラレンスのエレキ・ギター・スタイルの特徴付ける要素ですが、すでにこの時代に全てが出揃っているのが分かります。
記録していたテープを掘り起こした作品であるため、バランスは決して良くはありません。演奏も荒削りですが、クラレンスのエレキ・ギターの原点と言えるアルバムです。

●エッセンシャル・アルバムその3


(Untitled)/Byrds

1968年クラレンスは、ジーン・パーソンズとともにロック・バンドのバーズに参加します。フォーク・ロックのパイオニアと呼ばれたバーズは、サイケデリック・ロック、スペース・ロックといった形容をもまといながら、音楽性を広げ、そして変化させていきましたが、最終的にはカントリー・ロックへと向かいます。
『タイトルのないアルバム』と言う邦題が付けられたこのアルバムは、アナログ盤二枚組としてリリースされました。一枚はヒット曲を中心としたワイルドなライブ演奏が集約され、もう一枚は泥臭く落ち着いた大人の演奏を聴かせる内容です。近年のCDバージョンは未発表ライブ音源が足され、タイトルも(Untitled/Unissued)と改められました。
このアルバムのライブ曲では、クラレンスのストリングベンダーの演奏を存分に聴くことができます。ストリングベンダーはペダル・スティールの効果をギターで得るためにクラレンスとジーンが考案したデバイスです。ネックを押し下げるとネック側ストラップ・ピンに連動したレバーが2弦をベンドするしくみで、エレキ・ギタリストとしてのクラレンス・ホワイトを象徴するアイテムです。愛用のフェンダー・エスクワイヤーをフェンダー・スーパー・リバーブにプラグイン。ときにはフェンダー・トーンベンダー(ファズ)を駆使し、ダイナミックな演奏を披露しています。
スタジオ録音の楽曲では、演奏は抑え気味ですが、クラレンスはフェンダーの回転スピーカー、ビブラトーンを使用するなど、注意深く聴くと興味深い点が発見できます。また二曲でクラレンスの渋いボーカルも堪能できます。
バーズと言えば、リーダーのロジャー・マッギンが奏でるリッケンバッカーの12弦ギターがトレード・マークでしたが、この時期のバーズはクラレンスのストリングベンダーがそのアンサンブルを特徴付けるようになっています。

ストリングベンダー特集はこちら。

●エッセンシャル・アルバムその4


Muleskinner

バーズ解散と前後してクラレンスはブルーグラスの活動を再開します。このアルバムは、クラレンス、ピーター・ローワン、デイヴィッド・グリスマン、ビル・キース、リチャード・グリーンという、ブルーグラス出身ながら多方面にクロスオーバーして活躍するミュージシャンを集めて制作されたブルーグラス・セッション・アルバム。1973年に録音され、翌年にリリースされました。事実上、クラレンスの遺作となりました。
クラレンスのブルーグラス・ギターは成熟し、さらにグルーヴィかつパワーアップ。ここで使用されたアコースティック・ギターは、おそらくジャケットのイラストにも描かれているマーク・ホワイトブックでしょう。もちろん、ストリングベンダーも登場。
演奏、楽曲ともに素晴らしい内容のアルバムです。

●エッセンシャル・アルバムその5


Running Down The Road/Arlo Guthrie

クラレンスはセッション・ギタリストとして数多くのレコーディングに参加しています。その中でも際立った作品がこちら。多くのナンバーでクラレンスのストリングベンダーが堪能できます。ここでは、ベンダーを使ったベンドにハンマリング・オンやプリング・オフを重ねた、ふにゃっとした脱力系(?)フレーズが多用されています。ライ・クーダーやジェイムズ・バートンと絡み合うクラレンスは圧巻です。

いかかでしたでしょうか。クラレンス・ホワイト未聴の方のお手伝いができれば幸いです。上記以外にも素晴らしいレコード、CD、動画、音源があります。興味が膨らんだら、是非それらも掘り下げてみてください。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。勤続30年以上。吉田拓郎に憧れ12歳でギターを始める。スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線も演奏するマルチ弦楽器奏者。ウエスト・コースト・ロックとマーティン・ドレッドノート、フェンダー・テレキャスター、リッケンバッカー12弦ギター、ワイゼンボーンをこよなく愛する。ライターとしても活躍中で、伝説のムック「丸ごと一冊ヤマハFG」にも執筆。

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