D-28新旧モデル比較

Martin アコースティックギター
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。



昨年末発売になったイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』40周年記念盤がヘビロテです。以前にも書きましたが、私はイーグルスの故グレン・フライに憧れてマーティンD-28を購入しました。私が購入した『ホテル・カリフォルニア』40周年記念盤はブックレット付きのデラックス・エディション。グレンがデ・アルモンド製ピックアップをサウンドホールに付けたD-28を弾いている懐かしい写真も掲載されていました。彼らの音楽、ファッションにわくわくした青春時代を思い出しています。

さて、私のコーナーの新年第一弾はマーティンD-28です。言わずと知れたアコースティック・ギターを代表するモデルD-28ですが、昨年暮れにスタンダード・シリーズのD-28がリニューアル・されました。
1833年創業の老舗マーティンですが、日本でマーティンのギターが一般に広く知られるようになったのは1970年代からと言えるでしょう。それ以降、1985年にネック矯正のしくみがスクエア・ロッドからアジャスタブル・ロッドへ変更されたことを除けば、マーティン製品全般に共通する大きな仕様変更はありませんでした。D-28に関して言えば、上記以外にもマイナー・チェンジはありましたが、ボディの構造、外観が大きく変わることはなかったので、数十年ぶりの大幅な仕様変更となります。これはマーティン・ファンにとってはセンセーショナルな出来事です。


マーティンD-28とは




↑故クラレンス・ホワイトが所有していた1935年製D-28を持つトニー・ライス(下右)

それではまずマーティンD-28とはどんなギターか、またどうやって人気を博していったのかを、おさらいしておきましょう。

<基本スペック>


D-28は1931年に登場しました。ボディ・サイズを表すDはドレッドノートの頭文字。ドレッドノートはイギリスの大型戦艦の名前ですが、マーティン社はD-28に代表される大きなボディ形状をDと呼ぶことにしたのです。スタイル・ナンバーである28は、トップがスプルース、サイド、バックがローズウッドを表します。当初は12フレット・ジョイントでしたが、1934年に14フレット・ジョイントに改められました。なお12フレット・ジョイントの物は後年D-28Sとして再発売されました。
D-28は完成度が高く、高音から低音までバランスのとれた音色、豊かな音量とサスティンは演奏ジャンルや演奏スタイルを問わないことで高い評価を得てきています。

<カントリー&ウエスタンで人気を博す>


D-28は豊かな音量とサスティン、高音から低音までバランスの取れた音色が特徴です。特にPAシステムが未完成だった時代、カントリー、ブルーグラスのような主張の強い楽器が集まるバンド・アンサンブルで威力を発揮出来ました。「生音」で勝負できるD-28は圧倒的な人気を誇ります。余談ですが、Dサイズのギターをウエスタン・ギターと呼ぶのは、カントリーをカントリー&ウエスタンと呼んでいた名残りです。D-28や上位機種のD-45などのドレッドノート・タイプのギターがカントリーの主役だったことを証明しています。今なお多大な影響力を持つカントリー・シンガーのハンク・ウィリアムスや、ブルーグラス・ギターの始祖であるレスター・フラットもD-28愛用者でした。



↑レスター・フラット(左)をフィーチャーしたフラット&スクラッグス。

<ロックとフォークの融合で威力を発揮>


戦後しばらくして、ロックンロール、そしてロカビリーが登場し若者を虜にしました。その中で爆発的な人気を誇ったエルヴィス・プレスリーもまたD-28愛用者の一人として知られます。
そして、1960年代にはモダン・フォークのムーヴメントが沸き起こります。代表的バンドのひとつ、キングストン・トリオのボブ・シェーンもD-28愛用者でした。なお、この時代に、よりフォークの歌唱スタイルにマッチする明るい音色を持つD-35が登場しています。
同じく1960年代にはボブ・ディランやビートルズが登場します。フォーク畑から登場したディラン、ロック畑から登場したビートルズですが、彼らはアコースティック、エレクトリックの音楽的な垣根をなくしました。彼らもまたD-28を使用していました。そして60年代末に登場したクロスビー、スティルス&ナッシュ(CSN)、さらにニール・ヤングが加わり発展したクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSNY)がアコースティックとエレクトリックの融合を決定的にします。彼らは全員がD-45の愛用者としても有名ですが、スティーヴン・スティルス、ニール・ヤングはD-28も良く使用していました。ちなみに、上述のハンク・ウィリアムスが使用していたD-28は、現在ニール・ヤングが所有しており、ヤングのメインのアコースティック・ギターになっています。



↑CSNのファースト・アルバムのジャケット。中央のスティーヴン・スティルスが持つギターもD-28.

<和製フォーク・ブーム到来>


1970年代になると日本でもフォークが大きなブームとなり、訝しがる学校の先生や親の視線を余所に、CMソングやテレビ・ドラマを通じてお茶の間にまで浸透していきました。モダン・フォークやCSNYに影響を受けていた当時のフォーク・シンガーの多くが手にしていたのがマーティンのドレッドノート・タイプのギターでした。1ドル=360円の時代、フォーク少年達にはマーティン製品は高値の花でしたが、安価なコピー製品が日本のメーカーから多数登場しました。私達はそんなコピー品を弾きながら、「いつかはホンモノを」と思ったものでした。
当時ヒットチャートを賑わした日本のフォーク・シンガーには同じマーティンのD-45、D-35の愛用者が多かったのですが、1960年代から活動をしていたマイク眞木や、関西フォークの西岡恭三や高田渡もD-28を使用しました。
1970年代には、内外のロック人気も過熱していきましたが、代表格のレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがD-28を使っていたことも良く知られます。こうして、D-28がアコースティック・ギターの代名詞的存在であることが認知されていきました。



↑高田渡の名盤『ごあいさつ』

<アメリカン・アイテムへの憧れ>


1975年に『メイド・インUSAカタログ』が発行され、数々のアメリカン・アイテムが紹介されます。そこでもマーティンが紹介されました。マーティンがリーヴァイス、レッド・ウィングといったブランドと同列に私達の頭に刷り込まれていきました。アメリカ建国200周年にあたる翌1976年には雑誌『ポパイ』が創刊され、アメリカ西海岸ブームが到来します。そんなタイミングでイーグルスがアルバム『ホテル・カリフォルニア』をリリースします(1976年12月)。この作品は翌1977年に大ヒットを記録。イーグルスは西海岸ブームの音楽面の象徴的な存在となりました。彼らが愛用したアコースティック・ギターもD-28などのマーティン。ブームの中、ピックアップ・トラック、サーフボードといったアイテムと同じ土俵にマーティンのギターが並んだのです。
こうして、マーティンD-28が私達の世代の「憧れのギター」になっていったのでした。


マーティンD-28新旧比較




↑左が新D-28、右が旧D-28。

まず、メーカー・ホームページのスペック表を見比べてみました。表記上の相違点が全て変更点とは限らないようですが、念のため順番に挙げていきましょう。

①ロゼット
旧)Style 28 Multi-Stripe→新)Multi-Stripe
表記は変わりましたが、パターンは変わっていません。色味が黄色っぽくなっていますが、素材そのものの色味が変更されたのかは不明です。

②ブレーシング・パターン
旧)X Brace→新)Forward Shifted X Brace
今回の仕様変更の目玉のひとつ。サウンド・ホールから覗くと、新しいD-28の方がXブレースが手前にあることが確認できます。
前方にXブレースが来たため、より豊かな響きが得られるようになりました。



↑新D-28はXブレーシングが手前にあるのが分かります。



↑こちらは旧D-28。

③バインディング
旧)White→新)Antique White
白からクリームっぽい色に変更されています。

④ネック・シェイプ
旧)Low Profile→新)Modified Low Oval





⑤ネック・テイパー
旧)Standard Taper→新)High Performance Taper
⑥ナット幅
旧)1 11/16”→新)1 3/4””
④~⑥は近年のマーティン製品に見られる、やや幅広で癖の無いネックとなりました。

⑦トップ・カラー
旧)Clear→新)Aging Toner
経年変化後の黄ばみを再現した色味となりました。



↑左が新D-28、右が旧D-28。

⑧ブリッジ・スタイル
旧)Belly-Drop in Saddle→新) Modern Belly-Drop in Saddle
形状の変更が見られません。只今詳細を確認中です。

⑨糸巻き
旧)Chrome Enclosed Gear→新)Nickel Open Gear
ロトマティックから同社のオープン・タイプに変更されました。



↑左が新D-28、右が旧D-28。

⑩推奨弦
旧)SP Lifespan 92/8 Phospher Bronze Medium (MSP7200)→新)SP 92/8 Phospher Bronze Medium (MSP4200)
表面にトリートメント処理をしたライフスパン弦の使用が休止されました。

⑪ピックガード
旧)Black→新)Faux Tortoise
黒からべっ甲柄に変更されました。



↑左が新D-28、右が旧D-28。

なお、ヘッドのロゴがデカール・ロゴに戻されたのですが、それの記載を比較できる項目がありませんでした。

次に現物を較べてみましょう。入荷したばかりの新D-28のシリアル・ナンバーは2139443、旧D-28のシリアル・ナンバーは2100302です。
視覚的には色味の違いが印象的です。ペグやロゴを含めて新D-28はHD-28Vに近づいた印象を受けます。
ネック・グリップについては、新D-28は全体にがっちりとした印象を受けます。幅が広くなったとは言え、演奏性は損なわれていません。ハイポジションでは適度な肉厚を感じますが、個人的にはリード・プレーをするときはこれくらいの方が力が入りやすいです。
そしていよいよ肝心な音色についてです。コード・ストロークで弾いてみると、新D-28は柔らかで広がりを感じさせてくれます。対する旧D-28はタイトでエッジがはっきりとした印象を受けます。総合的な音量は新D-28が幾分大きく感じます。単音で弾いてみると、新D-28の方が押し出しが強く、ハイ・ポジションでのリード・プレーでは粘りもあるように思えました。
両者の違いは、交互に弾き較べてみると実感できますが、HD-28、HD-28V、D-28 Marquis、D-28 Authenticといった他のD-28のバリエーション・モデルと比較したときほどの差ではありません。新D-28はこれまでのスタンダードなD-28の延長線上にあると言えそうです。
最終的にルックス面で好みが分かれそうです。旧タイプはメーカーからの供給は終了しています。新品は店頭にある物に限られます。もし旧タイプがお好みであれば、早めに行動に移した方が良いことは間違いありません。

次回は、せっかくの機会ですので、D-28のバリエーション・モデルを改めて紹介したいと思います。

>>マーティン・アコースティックギターの一覧はこちら

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始める。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンであり、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代のファッションを好み、音楽のあるスローライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様の音楽スタイルはもちろん、ライフスタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

Category