Kurt Cobain Jaguar by Fender Mexico
90年代に世界を席巻したグランジ・ムーブメントの立役者「NIRVANA」のギターボーカルとして活躍し、
今なお世界中にフォロワーを生み出し続けるカート・コバーン。
没後20年目となる今年2014年、彼の愛機であった「’65 Jaguar」がフェンダー・メキシコからリリースされました。
2011年にフェンダー・USAによってリイシューされた仕様をそのまま引き継ぎながら、より手に届き易いプライスタグとなっています。
一般的なジャガーとは何もかもが違う、と言っても過言ではないほどのカスタマイズが施された本機。
その特異な仕様をひとつひとつ見ていきましょう。
フロントにDP-103 PAF、リアにDP-100 Super Distortion、と極端にパワーに差があるモデルが搭載されています。
PAFはいわゆるオールドギブソンのピックアップをシミュレートした、パワーは控えめでクリーンなピックアップ。
Super Distortionは90年代当時、強く歪んだギターサウンドを求めるギタリストはこぞって使用していたモデルであり、
軽く低音は薄めなアルダーボディのジャガーにさえ、強烈な歪みを可能としてくれます。
本来フロントピックアップの右側にあるはずの3つのスライドスイッチは取り外され、
ジャズマスターのような3ウェイのトグルスイッチに交換されています。
ジャガーの特徴のひとつでもあるスライドスイッチを用いたコントロール系ですが、
スイッチに起因するトラブルも多く、演奏中に触れてしまって音が途切れてしまうこともしばしば。
このトグルスイッチへの交換は、非常に実用的なカスタマイズと言えるでしょう。
無理やり詰め込まれた感のある3つのノブは上から、フロントボリューム、リアボリューム、マスタートーンとなっており、各ピックアップのボリュームは独立してコントロールできます。
ハムバッカーにしては弦鳴りをキレイに拾ってくれるローパワーなPAFと、現代的なまとまりの良いハムバッカーとは一味違った暴れる中低域をもったSuper Distortionを、プリセットスイッチなども上手く用いてコントロールすることで、カートの独特なクランチサウンドを追及してみるのも面白いと思います。
ショートスケールのため、そもそも弦のテンションが弱くチューニングが狂いやすいジャガーですが、ブリッジのコマの溝彫りが浅く、
強いピッキングでは弦がズレてしまうこともまた問題でした。
この問題にもチューンOマティックタイプのブリッジに変更することで対処しています。
白いバインディングが施されたネックは握り込みやすいC-shape、 分厚いローズウッド指板にシンプルなドットのポジションマークとの組み合わせは、ポジションマークがブロックタイプに変わる66年以前の仕様の特徴ですね。
以上に挙げたような多くの改造点から、通常のジャガーサウンドからはかけ離れたトーンを持つに至ったカート・コバーン・ジャガー。
全体的にザラついた印象で、ちょっと潰れたようなアタックの後にくすんだサスティンが膨らんでついてくるような感覚は、
このモデルでしか味わえない妙味でしょう。
チューニングを下げ、ズルズルと引きずるようなストロークでプレイすれば、まさしくグランジ向けの荒っぽくルーズなサウンドを楽しめます。
シングルコイルのギターでは常について回るノイズの心配がなく、ハイゲインなディストーションペダルやチューブアンプでも扱いやすいのも美点と言えます。
リアピックアップをセイモア・ダンカンのJBモデル(SH-4)に換装し、後期カートのライブ仕様を再現してみるというマニアックな楽しみ方もアリですね。
さらにこのカート・コバーン・ジャガーだけのスペシャルな特典として、全32ページのフルカラーフォトブックが付属します。
彼がジャガーと過ごした様々なシーンを切り取った、歴史的資料としての価値すら感じられる小雑誌です。