楽器考察その1 元気です/吉田拓郎

アコースティックギター
チケットが入手できました!行ってまいりました!もう二週間経ってしまいましたが、吉田拓郎のコンサート・ツアー最終日(10月27日)の横浜公演!感動しました。泣きました。『ライブ73』バージョンに近いアレンジの「春だったね」からスタート。盛り上がらないわけありません。

残念ながら、拓郎はギブソンJ-45を使用しませんでしたが、アコースティック・ギターはレクターのダブル・カッタウェイの物とヤマハFGサンセット、エレキ・ギターはフロントにハムバッカーを配したイエローのテレキャスター、そしてテレキャスター・シンライン、そしてホワイトのストラトキャスターを使い分けました。特にテレキャスター・シンラインは昔から使用しているギターで、往年の姿がかぶりました。

さて、そんな興奮から、今回は吉田拓郎の出世作『元気です』を題材に使用されている楽器(主に弦楽器)について考察をしてみたいと思います。

元気です

『元気です』は1972年に発売された5枚目のアルバムで、発売後一か月で40万枚のセールスを記録。オリコン・アルバム・チャートで14週連続一位となった吉田拓郎のアルバムの中では最も売れた作品です。長年のファンであればお持ちのことでしょう。私も擦り切れるほど聴ききました。フォーク・ブームを牽引した作品です。

ところで、以前弊社のイベントに石川鷹彦さんに出演いただいたとき、このアルバムは基本的に石川さんの自宅スタジオで録音されたと伺いました。曲によって後でドラムなどの楽器をオーバー・ダビングしたそうです。レコーディング・クレジットを見ると、石川さんが様々な楽器を演奏しているのが分かります。その石川さんをはじめ、松任谷正隆、常富喜雄が、バンジョー、マンドリンなどのアメリカン・ルーツ音楽系のアコースティック弦楽器を弾いているのが興味深いですね。当時の日本のフォーク・シーンでは、こういった楽器の使用は珍しくなく、フォーク・ギター・メーカーのカタログにはバンジョーやマンドリンも掲載されていました。また和製フォークからブルーグラスに目覚めたという方も少なくありません。こういった点にも注目しながら収録曲をおさらいしていきましょう。なお曲順はCDに沿っていきます。

①春だったね
ボブ・ディランの’Memphis Blues Again’を思わせるオルガンが印象的ですね。エレキ・ギターのオブリガードは石川鷹彦でしょう。テレキャスターを所有しており、おそらくそれを使用しているものと思われます。

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石川鷹彦も愛用するテレキャスター。画像は近年のモデル(アメリカン・ビンテージ52テレキャスター)

②せんこう花火
ほぼ全編に流れるマンドリンが印象的なナンバーです。こちらもまた石川鷹彦による演奏でしょう。ギブソンのF4を使用していいるものと思われます。F4はボディとヘッドにスクロール(渦巻き)のデザインを持つギブソンの上級モデルの一つで、楕円のサウンド・ホールをフィーチャーしています。比較的柔らかい音色で、この「せんこう花火」のような抒情的な旋律にマッチします。

ちなみに日本ではフォークの世界で使う平たいマンドリンをフラット・マンドリンと呼び、クラシック音楽で使用するラウンド・バックのマンドリンと区別しています。『元気です』のクレジットにも「フラット・マンドリン」と記載されていますね。

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和製フォークにもかかせないフラット・マンドリン。画像はエピフォン製品(MM30S)

③加川良の手紙
エレピのイントロではじまりますが、この曲にもマンドリン、そして5弦バンジョー、さらにドブロが登場します。カントリー・タッチのエレキ・ギターとともに、これら弦楽器の演奏は全て石川鷹彦によるものでしょう。石川鷹彦のエレキはカントリー風といってもパキパキと弦を弾かず、どちらかというとソフト・タッチなのが特徴的です。

ちなみに、ドブロはリゾネーターを共鳴させる独特のサウンドが特徴。元々はハワイアン・ギターのスライド奏法向けに考案されましたが、ブルーグラスやブルースにも使用されるようになりました。
石川鷹彦が使用するドブロは膝の上に寝かせて演奏するスクエア・ネック・タイプです。弊社のイベントで拝見させていただきましたが、ボディは金属製のタイプでもともと8弦仕様のものを6弦に改造したそうです。


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5弦バンジョーの一例。こちらはリゾネーターがないエピフォンのフォーク・バンジョー(MB100)

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リゾネーター・ギターの代表格ドブロ・ギター。現在はエピフォンのグループに入りお求め易くなりました。画像は膝の上に寝かせて引くスクエア・ネック・タイプ(ハウンド・ドッグ・デラックス・スクエア・ネック)

④親切
コンプレッションの効いたアコギのリード・ギターがフィーチャーされています。石川鷹彦といえばマーチンD-45のイメージがありますが、おそらくこのサスティンを感じさせないどちらかと言うと乾いた音色はD-45ではないでしょう。D-18を使用しているか、もしくは吉田拓郎が演奏しているのかもしれません。

⑤夏休み
亡くなった田口清(元猫)が弾く12弦ギターが全編にフィーチャーされ印象的です。12弦ギターは1、2コースがユニゾン、3から6コースがオクターブ違い(主弦に対して複弦は1オクターブ高い)となっており、重厚かつきらびやかな音色が特徴。さらに松任谷正隆が弾いているであろう5弦バンジョーと石川鷹彦のドブロも絡んできます。松任谷正隆は吉田拓郎の「結婚しようよ」でもバンジョーを弾いていますが、ピックを使わないフレイリング・スタイルを得意としているようです。上述の「加川良の手紙」のバンジョーと比較すると、タッチが異なることが分かるでしょう。

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12弦ギター。画像はエピフォン製品(DR-212)

⑥馬
「たくろうちゃん」などと並ぶユーモラスでお茶目なナンバー。この曲はベースに注目。ピック弾きで、とてもアマチュアっぽいですね。少なくとも、後藤次利、小原礼ではないでしょう。吉田拓郎が弾いているのでしょうか。吉田拓郎にもエレキ・ベースのクレジットがあります。
この曲をカバーするとき、最後の「今日までそして明日からを馬が歌っている」のエコー・マシンによるリピートを「る・る・る・る…」と自分から歌ってしまいますね。

⑦たどり着いたらいつも雨降り
この曲はモップスがカバーしてヒットさせました。モップスのバージョンはハード・ロック仕立てですが、この吉田拓郎のオリジナル・バージョンはアコースティックで緩やか。
田口清の12弦ギターと同じ猫のメンバー、常富喜雄の5弦バンジョーを全編フィーチャー。常富さんご本人に伺いましたが、ギブソンのロング・ネック・バンジョーを使用したとのこと。

⑧高円寺
アナログ盤ではここからB面です。乾いたアコースティック・ギター・サウンドはギブソン系でしょう。楽器を重ねていない分、アコースティック・ギターの生々しさが伝わってきます。

⑨こっちを向いてくれ
このナンバーでも田口清の12弦ギターが効果的に響いています。ミディアム・スローなナンバーで12弦ギターの分散和音ははまります。マンドリンとドブロも出てきますが、マンドリンは松任谷正隆によるものでしょうか。「せんこう花火」とは明らかに違うタッチです。

⑩まにあうかもしれない
カントリー風の軽快なナンバーです。ブルーグラス風のGランをフィーチャーしたアコースティック・ギターは石川鷹彦、フレイリング・スタイルの5弦バンジョーは松任谷正隆でしょう。

⑪リンゴ
アコースティック・ギターの試奏ナンバーの定番です。弊社のイベントで石川さんにインスト・ナンバーとして演奏していただきました。石川さんによると、レコーディング時にギターのネックが逆反りして弦がびびっていたのですが、面白い雰囲気だったのであえてそのままにしたそうです。

⑫また会おう
唯一ロック色のあるナンバーです。石川鷹彦と明らかに違う演奏スタイルのエレキ・ギターはミニ・バンドの田辺和博によるものでしょう。

⑬旅の宿
これも試奏の定番ナンバーです。ちなみに、このアルバム・バージョンはアコースティック・ギターがメインですが、シングル・バージョンは石川鷹彦が弾くマンドリンとドブロが印象的でした。

⑭祭りのあと
吉田拓郎はマーチンD-35も所有していましたが、このアルバムで使ったアコースティック・ギターはギブソンJ-45でしょうか。この曲でもそれらしい乾いたサウンドが確認できます。アコースティック・ギター・メインのナンバーではダイナミクスがダイレクトに伝わってきます。

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マーチンD-35


ギブソンJ-45

⑮ガラスの言葉
この曲もアコースティック・ギター・メインで、店頭の試奏でも良く聴かれます。
作詞は六文銭の及川恒平です。やはり弊社のイベントに出演いただいた及川さんから、「拓郎が歌詞を間違えてミルキー・ウェイとミルク・ウェイと歌ったんだよ」という話を伺いました。確かに歌詞カードと実際の歌の歌詞が異なっています。

(敬称略)

いかがでしたでしょうか。こういう視点からアルバムを改めて聴いてみるのも面白いと思います。そして、バンジョー、マンドリン、ドブロ、12弦ギターといった楽器にも興味が沸くのではないでしょうか。次回もこのシリーズをお届けいたします。ご期待くださいませ。

この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始め、石川鷹彦をきっかけにブルーグラスにも興味を持つ。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンで、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代の音楽とファッションをこよなく愛し、音楽のあるスロー・ライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様のライフ・スタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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