楽器考察その2 かぐや姫さあど/かぐや姫

Gibson Martin アコースティックギター
イシバシ楽器池袋店の白井です。アルバムを聴いて使用楽器を考察する「楽器考察」シリーズ第二弾はかぐや姫のサード・アルバム、『かぐや姫さあど』を取り上げてみたいと思います。

かぐや姫1
前回取り上げた『元気です』の吉田拓郎とかぐや姫の交流は深く、拓郎はかぐや姫の『はじめまして』のプロデュースを担当したほか、両者が伝説のつま恋コンサートで競演したことは語り草となっています。

かぐや姫は、南こうせつ、伊勢正三、山田パンダの三人編成。『かぐや姫さあど』は大ヒット曲「神田川」を収録した彼らの1973年の作品です。当時、映画などでも流行した「同棲」をテーマにした「神田川」は、フォーク・ブームの中で四畳半フォークと呼ばれるスタイルを確立しました。アメリカの音楽の影響を受けながらも、日本人の感性に訴える叙情的な作風を打ち出し、その後のフォーク、ニュー・ミュージック・シーンに大きな影響を与えました。なお正やんこと伊勢正三が頭角を現すのは、「22才の別れ」、「なごり雪」をフィーチャーした次の『三階建ての詩』ということになりますが、それでも『かぐや姫さあど』は山田パンダの「僕の胸でおやすみ」など佳曲揃いとなっています。昭和のフォークの名盤のひとつです。
それではまず、かぐや姫のギタリストである南こうせつと伊勢正三の使用ギターをおさらいしておきましょう。
アルバム『オン・ステージ』のジャケットでは、こうせつがギブソン・ダヴ、正やんがハミングバードを抱えていました。また二人ともマーチンD-45オーナーであることも有名です。同D-28も所有しています。またこうせつはギルドのD-50も使用していました。かぐや姫の晩年はヤマハのカスタム・モデルも使用していました。

Gibson Hummingbird現行品
Gibson Hummingbird 現行品

Martin D-45現行品
Martin D-45 現行品

Martin D-28現行品
Martin D-28 現行品

『かぐや姫さあど』の時点で彼らがどのモデルを使っていたかは不明ですが、少なくともD-45はまだ使用していないはずです。余談ですが、南こうせつの最初のD-45が当時の国鉄の東北本線の急行列車の中で盗難に遭ったニュースは今でも良く覚えています。こうせつが現在所有するD-45は二代目です。
ところで、『元気です』でも登場した石川鷹彦がこのアルバムでも活躍しています。ちなみに、このアルバムのレコーディングにはD-45を使用したそうです。

それでは収録曲を検証していきましょう。曲順はCDに沿っていきます。
① ポカポカ日曜日
初デートのときめきを歌ったちょっとコミカルなナンバー。どことなくアマチュアっぽい演奏ですが、それが青春時代の青臭さ、甘酸っぱさを象徴しているようにも思えます。色々な楽器を重ねることなく、アコースティック・ギター主体のサウンドが、いかにも当時のフォークらしいです。アコースティク・ギターは正やん、エレキ・ギターのリード・ギターは石川鷹彦でしょうか。メジャー・ペンタトニック・スケールにのせたアコースティック・ギターのオブリガードには、ジム・クロウチのバック・ギタリスト、モーリー・ミューライゼンに通じるものも感じます。
ちなみに、私はニール・ヤングの名前をこの曲で知りました。

② アビーロードの街
正やんが作詞とボーカルを担当。マイナー・キーですが、ファルセットのコーラスとエレキ・ギターのカッティングによって抒情派フォーク的な仕上がりではなく、どちらかと言えばロック・バンド風なアンサンブルとなっています。雨の日の寂しげな青山通りの光景が目に浮かびます。公衆電話で恋人に連絡する歌詞は昭和ですね。間奏に登場するバンジョーは正やんでしょう。「サザエさん」的なシングル・ストリング奏法です。

Epiphone MB100バンジョー
Epiphone MB100バンジョー(参考画像)

③ けれど生きている
山田パンダ(山田つぐと)が作詞したナンバー。ミディアム・テンポで明るいコーラス・ワークをフィーチャーしており、しっとりとしたメロディでありながらテーマを重たく感じさせません。イントロ、間奏などで聞こえてくる流れるようなフレージングと艶のある音色は、まさしく石川鷹彦がマーチンD-45で演奏したものでしょう。①と比べると緻密なアレンジです。まさに石川ワールドと呼べるでしょう。

④ あてもないけど
ピアノ、メロトロンらしきストリングス、フルートをバックに演奏されたこのアルバムの中では異色のアレンジ。クレジットから察するに、少なくともメロトロン、フルートは今は亡き木田高介によるものでしょう。

⑤ 黄色い船
山田パンダが作詞、作曲し、リード・ボーカルを取るカントリー・タッチで軽快なナンバー。ビートルズの「オクトパス・ガーデン」に通じるサウンドで、コーラスもそれを意識しているように思えます。ドブロは石川鷹彦。吉田拓郎の『元気です』同様、膝の上に寝かせて弾くスクエア・ネックの物を使用しています。テレキャスターと思われるエレキ・ギターの演奏も石川鷹彦によるものでしょう。
ちなみに、この曲と⑪以外の作曲はこうせつが手掛けています。

Epiphone Dobro Hounddog Deluxe Square Neck
Epiphone Dobro Hounddog Deluxe Square Neckドブロ・ギター(参考画像)

⑥ そんな人ちがい
哀愁を帯びたハーモニカとペダル・スティールをフィーチャーしたカントリー・タッチのスロー・ワルツ。クレジットから、ハーモニカは猫の常富喜雄でしょう。何故かペダル・スティール奏者のクレジットがありませんが、おそらくはちみつぱいの駒沢裕城でしょう。

なおペダル・スティールとは、スティール・ギターに足で操作するフロア・ペダルや膝で操作するニー・レバーを装備し、それらを使用してチューニングを演奏中に自在に変えられるようにしたものです。カントリー・ミュージックの代表的な楽器のひとつで、ロックやポップスでも使用されることが多い楽器でもあります。

Sho-Bud Pro IIIペダル・スティール・ギター(ビンテージ品)
Sho-Bud Pro IIIペダル・スティール・ギター(ビンテージ品)(参考画像)

⑦ 神田川
喜多条忠作詞の叙情派フォーク、四畳半フォークの決定版的ナンバー。昭和フォーク・ファンであれば知らない人はいないでしょう。印象的なバイオリンははちみつぱい、ムーンライダースの武川雅寛。バックに響くしっとりとしたギターは石川鷹彦。
ここでもD-45が使われた模様です。

⑧ 遠い街
正やん作詞のナンバー。正やんが弾くバンジョーのイントロで始まる素朴なナンバー。アメリカのフォーク・ソングと日本の叙情性が融合しています。

⑨ 突然さよなら
「マキシーのために」に通じるアレンジを持つミディアム・テンポのナンバー。こうせつの伸びのあるボーカル、エレクトリック・ピアノとフルートが気持ち良く、失恋ソングなのに爽快感さえ感じさせてくれます。

⑩ 大きな片想い
① に通じる甘酸っぱい青春ソング。ホンキー・トンク調のピアノがシンプルなアレンジの中で光ります。また、かぐや姫のコーラスにはビートルズの影響が垣間見られますね。

⑪ 僕の胸でおやすみ
パンダが作詞、作曲した佳作。かぐや姫の中ではどちらかと言うと地味な存在ですが、詞、メロディともに秀逸。パンダもまた素晴らしい作家ですね。エレクトリック・ピアノの影に控えめに響くギターも石川鷹彦によるものでしょう。綺麗なサウンドです。

いかがでしたでしょうか。石川鷹彦が参加していても、吉田拓郎の『元気です』とは幾分サウンドが異なりますね。メインのリズム・セクションが、後に吉田拓郎、小室等、柳田ヒロと新六文銭を結成するチト河内、後藤次利というところも見逃せませんね。(敬称略)

次回は洋楽に目を移しニッティ・グリティ・ダート・バンドを紹介しましょう。石川鷹彦さんからうかがった裏話も紹介したいと思います。ご期待ください。


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この記事を書いた人

白井 英一郎
1960年生まれ。吉田拓郎を聞いてフォーク・ギターを始め、石川鷹彦をきっかけにブルーグラスにも興味を持つ。その後イーグルス、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのアメリカン・ロックに傾倒。エレキ・ギターも弾くようになる。ギター、スティール・ギター、バンジョー、マンドリン、ウクレレ、三線を弾くマルチ・プレイヤーとして演奏活動をする現役ミュージシャンで、音楽誌や楽器専門誌のライターの肩書きも持つ。1970年代の音楽とファッションをこよなく愛し、音楽のあるスロー・ライフを実践するロハス・ピープル。入門者からベテランまで、お客様のライフ・スタイルに合った商品を提案する楽器のコンシェルジュ。

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