マンドリン特集
前回のバンジョーに続いてブルーグラスはもちろん、フォークやロックでも使用されるマンドリンを紹介しましょう。
↑ギブソンはマンドリン・メーカーとしてスタート。代表モデルF5。
マンドリンとは
マンドリンはイタリア起源の楽器で8弦4コースとなっています。チューニングは低音弦側からGGDDAAEEで各コースはユニゾンとなっています。バイオリンと同じ音の並びですね。隣接する弦の関係が全て五度のため、五度チューニングと呼ばれることがあります。
イタリアのマンドリンはボウル・バック(裏板が丸い)構造で主にクラシック音楽に使われます。音の瞬発力はありますが、サスティンはあまりなくトレモロ奏法が主体です。
↑イタリア・スタイルのマンドリン(鈴木バイオリン製)
一方、ポップス・ファンに馴染みの多いのは、日本では通称フラット・マンドリン(フラマン)と呼ばれる平たい胴のマンドリンです。アメリカに渡ったマンドリンが、かのギブソンによってアーチド・トップ、アーチド・バックのスタイルに改められたのです。ちなみにギター・メーカーとして知られるギブソンは、マンドリン・メーカーとしてスタートしていたのです。ライバルのマーティンもマンドリンを製作しましたが、フラット・タイプの他、ボウル・バック、アーチド・トップ&バックのモデルがラインナップされていました。しかしながらギブソンほど浸透はしませんでした。
ギブソンによる新しいスタイルのマンドリン
ギブソンがスタートさせた新しいスタイルのマンドリンは特にブルーグラスで注目されたと言って良いでしょう。中でもブルーグラスの創始者ビル・モンローが使用したモデルF5(上記画像)は、数々のコピー・モデルが作られるなど、アメリカン・マンドリンのスタンダードとなっています。バイオリンのようなfホールとヘッドとボディのスクロール(渦巻き)のデザインが印象的なF5は、アーチド・トップ・ギターのL5とともに伝説的なビルダーでありエンジニアのロイド・ロアーが開発した楽器です。ロイドのギブソンの在籍期間は長くはなく、ロイドが携わったF5は現在相当なプレミアがついています。ビル・モンローが愛用したF5もロイド・ロアー期の物です。
ギブソンにおけるアルファベットFはスクロールを持つシリーズを示します。ティアドロップ型のAというシリーズもあります。またサウンド・ホールがオーバル(楕円)型のモデルもあります。オーバル・ホールの物は比較的柔らかい音色、fホールの物はメリハリのあるはっきりとした音色という違いがあります。ブルーグラスのような技巧的な演奏スタイルにはfホールの先鋭な音色が合いますが、フォークやポップスにはオーバル・ホールの素朴で温かみのある音色が馴染むかもしれません。石川鷹彦、イーグルスのバーニー・レドンはオーバル・ホールのマンドリンを多用していました。
↑ギブソン系列エピフォンの入門モデルのフラマン。ティアドロップ型です。型番はMM30ですが、スタイルはAタイプと呼べます。
クラシックのマンドリンは繊細な音色ですが、ギブソン・スタイルのマンドリンは芯が太く、アンサンブルの中でも埋もれにくいと言えます。また、より主張の強い音色のバンジョーと比較すると、マンドリンは特徴的な音色を持っていながらも比較的様々なジャンルに応用が可能な楽器と言えるでしょう。
代表的なブランド
現在もギブソンはマンドリンを作り続けています。また同系列のエピフォン・ブランドでは入門者向けのモデルを用意しています。
日本でも比較的入手しやすいブランドのひとつで、アメリカで設計して中国で生産しているイーストマンはクオリティの割にリーズナブルな価格で人気があります。私も同社製品を愛用しています。
↑イーストマンのFタイプ。こちらはオーバル・ホールを採用。上述の石川鷹彦、バーニー・レドンはこの形のマンドリン(ギブソンF4)を使用していました。
また、アメリカの商社サガのブランド、ケンタッキーの製品も日本においても安定した人気があります。かつては日本のカスガ楽器で生産していましたが、その後韓国、中国と原産国が変わっています。そのケンタッキーの日本の代理店であるHOSCOは、バンジョーのみならず幅広いマンドリンのラインナップを展開しています。ロアー、ブラントンなどをチェックしてみてください。
↑ブラントンの入門モデル。こちらはギターのようなフラット・トップ構造でラウンド・ホールを持っています。
アリアもまたブルーグラス楽器の入門モデルを手がけています。エレクトリック・マンドリンのラインナップもあります。また、バンジョー同様、70年代から80年代初頭までは、入門アイテムからプロ・モデルまで日本でも優秀なマンドリンが作られていました。サム、ジャンボ、モーリス、カスガ、ブルーベルなどが有名です。
次回はリゾネーター・ギターを取り上げましょう。