【解説】Fender Shawbuckerピックアップ

イシバシ楽器渋谷店副店長のスターキー星でございます。

2015年からフェンダーのアメリカンスタンダード・ストラトキャスターHSSアメリカンデラックス・ストラトキャスターHSSなど一部モデルのブリッジポジションに新搭載されるようになったショウバッカーピックアップ。

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2016年新製品アメリカンエリート・ストラトキャスターHSSでも大々的に取り上げられておりますが、ピックアップのみの単体販売がないこともあってか、非常に資料が乏しいのが現状。そこで、ひとつのリファレンスになればと今回特別にフェンダーミュージックからサンプルを送ってもらい分解検証してみることとしました。

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こちらのピックアップの設計者であるTim Shawはもともとギブソンのエンジニアを務めていたキャリアがあります。以前、メルマガでご紹介しましたレスポール・カラマズーのように、1970年代後半になると、ヴィンテージ・リイシューへの需要が高まり、ジミー・ウォレスや、レオズ・ヴィンテージのようにショップオーダーもヒートアップしていきます。

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そういった潮流の中で、1980年に発表されたレスポールスタンダード80(ヘリテイジシリーズ)には、セス・ラバーのオリジナルPAFをレプリカした通称NEW PAFが搭載されることになりました。当時その設計開発を手がけたのが、ピックアップ界のレジェンドであるビル・ローレンスとの親交もあったティム・ショウなのです。

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(Les Paul Kalamazooに搭載されたこちらのPickupsは刻印ナンバードPAFのダブルホワイツ・Tバッカー)


ティム・ショウがフェンダーに入社したのは、1996年1月のこと。20年に渡るキャリアの中で、このたび新開発されたShawbuckerですが、実はかなり出力を抑えた仕様。SSHレイアウトで、シングルコイルと併用した際のバランスを熟慮した結果であり、それと同時にヴィンテージPAFからの現代的アプローチとして、明瞭で歌心のあるサウンドを実現することに重きを置いたものといえるでしょう。

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ゼブラボビンのホワイトサイドがアジャスタブルとなっており、ポールピースのピッチは約9.8mmです。アメスタやアメデラ、アメエリは、ヴィンテージリイシューより、ブリッジの弦間ピッチが狭いので、Fスペース/トレムバッカーなどとは異なり、ハムバッカーの一般的なサイズに準拠しております。

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直流抵抗値(DC Resistance)は、室温26度で計測したところ約7.16kオームでした。黒リード→緑リードのスラッグコイルで3.58kオーム、白リード→赤リードのスクリューコイルで3.57kオームという結果。ミスマッチコイルにはなっておらず、高い精度でほぼ同じターン数にてワウンドされているものと思われます。

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両ボビンともギター正面から向かって時計回りにワイヤーが巻かれており、ブラックボビンがS極(巻き始めBlue→巻き終わりGreen)、ホワイトボビンがN極で(巻き始めWhite→巻き終わりRed)となっております。

比較参考として、アルニコVマグネットのフェンダー純正ハムバッカー主要モデルの直流抵抗値は下記のとおりです。
・Diamondback Humbucker:約8.4kオーム(American Standard Stratocaster HSS等)
・Twin Head Modern Humbucker:約15.2kオーム(American Deluxe Stratocaster HSHや同Plusシリーズ等)
・Atomic Humbucker:約16.4kオーム(American Deluxe Stratocaster HSSAmerican Special Stratocaster HSS等)


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ボビン下部に取り付けられるマグネットのサイズも測ってみましたが、実測値で長さが約2.5インチ、幅が約5.01インチ、厚みが約1.27インチ。これは1961年以前のいわゆるロングマグネット期のPAFに使用されていたマグネットのサイズとほぼ同様の数字です。PAFの場合、1961年以降はマグネットのサイズが小さくなるのですが、1980年のティム・ショウPAFでは当時のオリジナルPAFのマグネットサイズを復刻しており、今回のショウバッカーもそれを踏襲しているというのが興味深いところです。

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ボビンのパーツナンバーは、050941(Black)、053743(White)。コイルのワイヤーは、現在確認中ですが、プレーンエナメル被膜のAWG(American Wire Gauge)42ゲージでしょうか。ポッティング、ワックス含浸は行われておりませんが、通常よりタイトにワウンドすることで不要なマイクロフォニックを低減させるように製作されております。


以上、ここまで駆け足ではありましたが、本日はショウバッカー・ピックアップについてクローズアップしてみました。

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American Standard Stratocaster HSS Shawbuckerの場合は、250kと500kのポットがシングル/ハムで切り替えされるデュアル配線となっており、そういった細部に至るまで、本来意図したピックアップの性能を最大限に活かそうとするエンジニアの心意気が如実に反映されている部分です。

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N4 Noiseless Pickupsを搭載したAmerican Elite Stratocaster HSS Shawbuckerの場合は、巻き始め同士(WとB)を結線してGをホット、Rをコールドとしているのに対して、Custom Shop Fat ’50s Pickupsを搭載したAmerican Standard Stratocaster HSS Shawbuckerでは、巻き終わり同士(RとG)を結線して、Wをホット、Bをコールドとして配線されているのが確認できますね。

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ショウバッカーを搭載したモデルいずれも、「ストラトはシングルコイルに限る!」という方にこそ是非一度使ってみていただきたい、個人的にはそんな印象を抱いております。とても自然な音の立ち上がり方をするので、ピッキング直後の野暮ったさがなく、繊細なタッチダイナミクスが出しやすいのに加えて、儚げな音の消え際に何とも言い難い情趣が感じられます。

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ティム・ショウが、PAFの復刻を求められた当時、Gibsonはノーリン傘下にあった時代ですから、開発/製作コスト面での制約も強いなかで、彼は チャレンジングなミッションを見事にこなしました。ニューPAF(アメリカではTim Shaw PAFという名前が一般的)は、大小様々なメーカーから同ピックアップのレプリカが多数製作されるようになった今日でもすこぶる高い評価を受け続けております。Shawbuckerに関しても、昨年リリースされたばかりではありますが、Fenderエレキギターの歴史を彩るランドマークとして相応しい存在感があり、新たな物語を紡ぎ出すパートナー、コレクションとして今あらためておすすめしておきたいと思います。

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