【Vintage File】#16 B.C.Rich 1979年製 Bich 10-Strings ~続・アメリカン・アバンギャルド~
渋谷店佐藤です。
前回の【Vintage File】では1974-75年製のSeagull IIを紹介させて頂きましたが、偶然か必然か、再び強烈なヴィンテージのB.C.Richが入荷しましたので、今回も紹介させて頂きます。
B.C.Rich 1979年製10弦仕様Bich!!Guitar Quest【Vintage File】史上、(今のところ)最も過激なギターの登場です。
細部に至るまで順番に見ていきましょう。
ダブル・カッタウェイの鋭角的なシェイプで、ボディ底部のまるで食いちぎられた跡のような切り欠きが超・アバンギャルドなデザインの1本です。ボディ材はハワイアン・コアで、3ピース構造となっています。
ヘッドストックです。前回紹介させて頂いたSeagull II同様、”R”のイニシャルとエキゾチックな杢目、迫力のあるインペリアル・ペグが存在感を放つデザインですが、大きな違いは複弦のボールエンドをひっかける穴が開いている点です。
シリアルナンバーは「82282」と、1979年前後のUSA製である事を示すものなのですが、シリアルナンバーが打刻されている部分の木材がスカーフ・ジョイント風に接木してあります。ヘッド裏側から見ると、継ぎ目が横向きに一直線に走っているのが確認でき(左側の画像)、さらにヘッドを上から覗き込むと、同様にヘッド材の真ん中辺りに継ぎ目が確認できます(右側の画像)。
一見修復跡のようにも見られますが、実はこれはファクトリー・オリジナルで、この時期のB.C.Richのうち、ボディのセンターピース材が幅広の個体に散見される仕様です。当時仕入れていた製材の寸法によるものか・・・スルーネックの関係上、特にハワイアン・コアの場合、体積の大きい材を確保するのが困難であったための措置と思われます。
Bichの特徴である、底部に大きく切り欠きが入れられたボディ・デザイン。ヘッド側から通された副弦4本は、切り欠き部分にセットされたペグに巻き取られます。副弦用にもきっちりインペリアル・ペグが使用されています。
調弦に関しては、12弦ギターから6,5弦の副弦を取り除いたイメージで、4,3弦の副弦は1オクターブ上、2,1弦の副弦はユニゾンとなっています。
前回のSeagullでも取り上げた、B.C.Richのお家芸とも言えるスルー・ネック!今回のBichはよりボディとネックの境界の無い、さらにぬるっとした形状が特徴的で、ハイフレットまでウルトラスムースにフィンガリング可能です。
美しくもワイルドな木目のハワイアン・コア材をふんだんに使用したボディです。ハンドクラフトにより各所に施されたコンター、鋭利なホーンが個性的です。他のどのギターとも異なる、有機的・生物的で官能的なデザインがCOOL!!
ボディ底部の「爪」にあたる部分には切り欠きが入れられ、地面と当たった時に角が削れないようクッションが取り付けられています。さらに切り欠きが斜めに入っているため、正面から見た際に目立ちません。この部分もオリジナルの仕様です。一見キワモノ的なB.C.Richですが、実は細かく考え抜かれてデザインされているという、ブランドとしての哲学が窺える興味深いポイントですね。
それではハードウェアも順番に見ていきましょう。
出ました!B.C.Richのアイデンティティとも言える沢山のわけがわからない悪趣味なスイッチ群(笑)!バッテリースナップ(x2)の他、一部配線の交換はありますが、完動状態です。
3WayPUセレクター、マスターボリューム&トーンの他、フロントPUボリューム、トーンを6段階に分けて変えられるヴァリトーン・スイッチ、各PUごとのコイルタップ、センターPU時のフェイズIn/Out切替に加え、個別にゲイン・ノブが付いたアクティブ・ブースターを2基搭載(しかも同時がけ可能!)という超・個性的なサーキットです。ブースターを同時がけした時のサウンドは、ブースターというよりはまるでファズを2基直列で繋いでゲインを上げたかのようなブチブチ・ジリジリとしたファットなディストーション・サウンドで、使いどころは限られますが強烈かつ唯一無二の存在感です。
ブリッジには、前回のSeagullより後の時代のものとなる、パテントナンバー刻印入りのバダスが搭載されています。主弦はこのバダスに裏通し、副弦4本はそのままサドルの上を通って切り欠き部分のペグに巻き取られる…という構造になっています。
ピックアップはフロントにDiMarzio X2N “Power Plus”(1979刻印入り)、リアにDiMarzio “Super Distortion”が搭載されています。初期のB.C.RichはGibsonやGuildのPUを純正採用していたのに対し、1975年前後からDiMarzioを純正で搭載した個体が出現しはじめます。GuildのPUも意外に高出力なのですが、今回のBichに搭載されているDiMarzioのPUはさらにハイゲインに対応した高出力モデルとなっています。
NWOBHMの勃興や、80年代以降到来するハードロック/ヘヴィメタル全盛期といった、当時のトレンドを見据えた(・・・かどうかは不明で、実際にはGibson等の2芯PUをコイルタップ用に4芯にバラすという面倒な作業をするよりは、最初から4芯仕様のPUをDiMarzioに発注し仕入れてマウントした方が楽だったから・・・というのが定説となっているようですが・・・)仕様変更となっています。
最初期の個体の場合、ピックアップキャビティにシリアルナンバーが書かれているものも存在しますが、本器は記載なしです。ただし、フロントとリアのキャビティ双方に数字の「3」(及びフロントには大きめのX印・・・位置決めか検品済みのサインのようなもの?)が鉛筆で書かれています。
70年代後期から採用されたノンバインディングのブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)指板と、雲形のインレイです。黒くエキゾチックな木目とパールのインレイのコントラストが目を惹くポイントです。
ハードケースは無地の所謂ブラック・トーレックス・ケースですが、70年代後期~80年代当時に多くのB.C.Richが卸され販売されていた事で知られている「The Hollywood Music Store」のデカールが内張り部分に貼られています。
ぱっと見の印象は過激なキワモノなのですが、じっくり見ていくと、驚くほど高度なクラフトマンシップと、デザイナーの感性が見てとれる見事な1本であると言えます。
Bichの愛用者としては、(他にも膨大な種類のモデルを使っていますが)Aerosmithのジョー・ペリーが知られており、10弦仕様のBichを副弦を取り除いて6弦仕様として使用したり、10弦使用のまま弾いたり、さらにはダブルネック仕様のBichを使用している姿も確認できます。
本器は調整から戻りたてのため、まだWEB用の商品ページができておりませんが、撮影等完了次第掲載させて頂きますので、是非お見逃しなく!
次回以降の【Vintage File】も、引き続きビビっと来た1本を紹介させて頂きますので、お楽しみに!