Column for Beginners 第一回・ピックアップのお話。
今週から始まりました「Column for Beginners」
この春からギターを始めたビギナーや、外に出づらい梅雨時の部屋での楽しみにこれからギターを始めようという方向けに、
エレキギターの構造や音作りを基本的な部分から細かく丁寧にご説明させて頂こう、というコラムです。
第一回のテーマは「ピックアップ」
エレキギターサウンドの心臓部であるピックアップ(※以下PU)は、弦振動を電気信号に変換する小さなマイクで、
磁石とコイルを使って作られており、シングルコイルPUとハムバッキングPU(ハムバッカー)の2種類に分かれます。
シングルコイルPUとはその名の通り、シングル=単一のコイルを持ったPUで、
ストラトキャスターやテレキャスター、ジャガーといったフェンダータイプのギターに多く搭載されています。
サウンドの傾向は、クリアな高音域が特徴で、エッジの立った歯切れの良いトーンになります。
またピッキングやボリュ―ムコントロールに対するレスポンスも優れており、微妙なタッチの強弱にも反応してくれます。
一般的にシングルコイルPUは、電磁誘導によるノイズに対する対策が難しく、
大きな出力を持つギターアンプを使用する際の大音量下などでは、音作りの幅が狭まってしまうこともあります。
ハムバッキングPUとは、ハム(Hum=電磁ノイズ)をバッキング(Bucking=抵抗する)という意味で、
シングルコイルPUで問題になるノイズ対策の一つの手段として、それぞれのコイルを逆着磁(N極とS極が反対)の状態にして二つ並べることで、ノイズを打ち消しあうという方法をとったPUです。
レスポールやSG、フライングVなどといったギブソンスタイルのギターに多く搭載されており、
サウンドの傾向は、まとまりの良い中音域と柔らかく伸びるサステインを持った、ガッツのあるパワフルなトーンになります。
またピックアップに金属製のカバーが付いているものをカバードタイプ、カバーがなく剥き出しのデザインのものをオープンタイプと呼び、デザイン面だけでなく、音質の面でも若干の違いがあります。
ハムバッキングPUには、片方のコイルだけを使用してシングルコイルPUとして使うタップ機能を持ったモデルもあります。
こう聞くと「じゃあノイズが少なくて、音の伸びが良くて、タップもできるなら、ハムバッカーの方が優れてるじゃないか」と考えてしまいそうですが、
ハムバッキングPUは二つのコイルで音を拾っている構造上、どうしても絶対的なパワーが上がってしまい、
繊細なコントロールや高音域のキレにおいてはシングルコイルPUに敵いません。
タップ機能を使ったとしても「シングルっぽい音」が得られるという感じで、純粋なシングルコイルPUとは違うニュアンスのトーンになるということを忘れないでください。
またシングルコイルPUの場合も後述するPUセレクターによる各PUの組み合わせ如何によっては、ハムバッキング効果を得ることが可能なので、一概にどちらが良くてどちらがダメというものではなく、それぞれに良さを持ったPUであり、求める音の方向性に応じて選択するのが賢い選び方と言えるでしょう。
シングルコイルPUもハムバッキングPUも、遡れば1950年代に生み出された工業製品ながらその完成度は高く、
実に60年以上を経た今でも大筋の構造は変わらないまま使われている代物です。
近年ではコイルを縦に積み重ねることでノイズ対策を施したシングルコイルPUや、片方ずつのコイルの巻き方や磁石の強さを調整してピッキングレスポンスや音の輪郭感などをよりクリアにしたハムバッキングPUなど、
様々なモデルがピックアップメーカーから発売されており、音作りの選択肢は広がっています。
一般的なギターには2つか3つのPUが搭載されていて、ネックに近いものをフロント、ブリッジに近いものをリアと呼び、フロントとリアの中間にあるものをセンター、と呼びます。
(英語圏ではフロントをRhythm=リズム、またはNeck=ネック。 センターをMiddle=ミドル。 リアをTreble=トレブル、またはBridge=ブリッジと呼びます)
実際にギターを弾いてみると感じられる点として、ネック寄りでピッキングすると柔らかくふくよかな響きに、ブリッジ寄りでピッキングするとギラっとした硬い響きになります。
それぞれのPUはこの響きのニュアンスの違いをより正確に捉える為の配置となっています。
マイクが音の発生源に近いほうがはっきりと音を拾えるように、PUの配置もフロントの音はフロントらしく、リアの音はリアらしく拾いやすい位置に配置されているのです。
これらのPUを求める音に応じて切り替える為のスイッチが、PUセレクターです。
3つのPUが載ったストラトキャスタータイプの場合は5点のセレクター、2つのPUが載ったレスポ―ルタイプの場合は3点のセレクターが一般的です。
ストラトキャスタータイプのギターの場合、センターのPUが逆着磁となっているものが多く、フロントとセンターのミックスや、センターとリアのミックスポジションを選ぶと、ハムバッキング効果を得る事ができ、シングルコイルPUの弱点であるノイズを軽減することができます。
レスポールタイプのギターの場合、片方のPUのボリュームを0に、もう片方のPUのボリュームを10に設定してミックスポジションを選ぶことで出力が0になり、PUセレクターを素早く切り替えることで音を途切れ途切れに出力するスイッチング奏法に利用することもできます。
またSelva SST-100のようにフロントとセンターにシングルコイルPU、リアにハムバッキングPUを採用し、ストラトキャスタータイプとレスポールタイプの美味しいトコ取りを狙ったギターもあります。
ギタリストの演奏動画などを見ていると、演奏内容に合わせて細かくPUセレクターを切り替える瞬間も見受けられると思います。
PUの切り替えに併せてギターのボリュームやトーンつまみを調整したり、ピッキングするポイントをずらして、一本のギターから多彩なトーンを生み出すギタリストもいるので、機会があれば参考にしてみると良いでしょう。
ここまででPU=ギターにとってのマイク、というイメージは掴めたかと思いますが、これがつまりエレキギターがそれ単体では大きな音が出ない理由のひとつなのです。
歌を歌う口とマイクだけがあってもパワーアンプとスピーカーシステムがなければ大きな音は出ないのと同じく、ギターの弦を揺らす手と振動を拾うPUだけがあっても大きな音は出ません。
エレキギターの場合はギターアンプとスピーカーキャビネットという、エレキギターに適したアンプとスピーカーを用いて、大きな音を得る事ができます。
次回はギターアンプとスピーカーキャビネットのお話をしたいと思います。