【Vintage File】#14 Guild 1985-86年製 D-25 ~激渋アーチバック~

渋谷店佐藤です。
今回の【Vintage File】は私の趣味全開でお送りさせて頂きます。
14本目にして、遂に個人的に大好きなあのブランドの初登場です。

 

Guild 1985-86年製 D-25!丁度この時期から出現し始めるナチュラル・フィニッシュの個体です。

ギルドというブランドですが、ギブソンやマーチンといった他のライバル・ブランドと比較するとかなり紆余曲折を経ており、ご存知の方も多いかとは思いますが、簡単にその歴史を説明させて頂きます。

今でこそ全く関連性の無いような印象がありますが、元々ギルドの母体となったのはEpiphone(エピフォン)でした。
主にジャズ・ギタリスト向けのアーチトップ・ギターで第二次大戦前には一世を風靡したエピフォンですが、戦後に入り経営状態が悪化。1950年代に入り、労働争議の影響もあり一部工場を閉鎖してしまいます。そこに楽器店の経営者であり、自身もギタリストである創業者アルフレッド・ドロンジが、当時エピフォンの副社長であったジョージ・マンをはじめとする数名の職人を引き抜き、1952年にニューヨークにてGuild Guitarsを設立。

ジョージ・マンらにしても、「Gibsonに買収されるされないでモメている会社にいるよりは、自分たちでブランドを立ち上げて最高の楽器を作ろうぜ!」・・・という会話があったのか無かったのかは定かではありませんが、いずれにせよ渡りに船の話であった事は間違いないでしょう。

創業当初はエピフォン出身の職人らのノウハウを活かしたアーチトップ・モデルがメインでしたが、1954年にフラットトップ、アーチバックのFシリーズがラインナップに加わります。

その後順調に業績を伸ばし、1956年にはニュージャージー州のホーボーゲンにファクトリーを移転。1966年にはアブネット社に買収されますが、アルフレッド・ドロンジはそのまま社長職に留まり、翌1967年にはより生産拠点を拡大すべくニュージャージー州のウェスタリー(ロードアイランド)にファクトリーを移転。続く1970年代にかけて、ウッドストックでのリッチー・ヘブンスや、ポール・サイモンモデルなど、フォーク・ロックのムーブメントに乗り、フラットトップ・アコースティック・ギターでも高い評価を得ます。

 
今回紹介させて頂くD-25は、60年代から続くウェスタリー・ファクトリーにて製造された個体で、ボディ内部のデイトから、1985年12月にボディが組まれ、翌1986年に完成し出荷されたものである事が伺えます。
*ウェスタリーファクトリー製のGuildは、多くの個体でボディトップ裏にボディが組まれたデイトがスタンプされています。

順番に細部も見てみましょう。

 

ギルドのフラットトップ・アコースティック、ドレッドノートボディのラインナップ中、D-25は最もお手頃な価格帯のモデルの為、ギルドの代名詞と言えるチェスターフィールド・インレイ等は入っていませんが、シンプルなロゴとマホガニーの木目がむき出しとなったヘッド表面、他ブランドと比較してもやや大柄で独特な形状のヘッドが無骨で中々渋く、味わい深いルックスです。

丁度この数年後にヘッドのデザインが変更されるため、古き良きギルドのイメージ/ルックスを持つ最後の世代と言えるかもしれません。トラスロッド・カバーのデザインも独特ですね。

 

ボディトップにはウェザー・チェックが入り、部分的にベアクロウが出ています。現在はMartin等でカスタムオーダーする際にもアップチャージが発生する場合が多いベアクロウですが、当時はこのようなお手頃なモデルにも普通に使われており、当時のギルドが良質な木材を潤沢にストックしていた事が伺えます。程よく日焼けして飴色となった色合いも渋いですね。

トップだけではなくバックのマホガニー材にはうっすらとフレイムが出ています。それ程ぎらついた木目ではないですが、控えめながらも静かに主張している感が何ともたまりません。

こちらも個性的な形状のブリッジです。ウェスタリー製のギルドのブリッジは1970年代以降もハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)が使用されているという説がありますが、頷けるような美しい木目です。

 

ボディ内部の様子です。ギルドは1970年代中頃にブレーシングのデザインを変更しており、どちらかというと時代を追うごとに重厚なつくりとなっていきます。本器もかなり背丈のあるがっちりしたノンスキャロップ・ブレーシングで、引き締まった無骨な鳴りを生み出すのに一役買っています。

そしてこのモデル最大の特徴とも言える合板アーチ・バック!ピックでストロークするとワンテンポ遅れて一気に音が出力されるようなイメージの、独特の跳ね返り感の強いトーンは、好みが分かれるポイントでありますが、気に入ってしまうと病みつきです。
アーチの形状も、プレス成形とは言え、流石に元々アーチトップ職人であったブランドの出自通り、美しく見事な曲線美です。

また、70年代後期以降のウェスタリー製ギルドの特徴のひとつとしてこのネックブロックの形状が挙げられます。ネックブロックがサウンドホール縁のあたりまで延長され、ごつめのトーン・バーが配されているレイアウトで、60年代末期のGibsonとも似た構造です。このあたりも独特の無骨でごついトーンを生み出すファクターとなっていますね。

ギルドはこの後の1995年にフェンダーに買収され、その後生産拠点をカリフォルニア州のフェンダー工場、ワシントン州のタコマ工場へと移し、さらにコネチカット州のオベーション工場に移った後、2010年代に入り一旦アメリカでの生産をストップしてしまいます。
しかしながら、最近になり親会社がコルドバに代わり、元ギブソンのマスター・ルシアーであるレン・ファーガソンがギター製造における総合コンサルタントとして加入。カリフォルニア州に新たに生産拠点を築き、生産を再開させたという嬉しいニュースが入ってきています。

ファンとしてはレン・ファーガソンによる新しいギルドも非常に気になるのですが、やはりウェスタリー期以前の古き良きギルドにもロマンと魅力があります。今回紹介させて頂いたD-25もお手頃ながら、フラットトップ・アコースティックモデルの中では、ある意味元来アーチトップ屋であったギルドのスピリットを最も感じさせるモデルなのではないかと感じます。
ギターとしての実力もしっかり持っており、個性派なトーンながら、強くきっちり弾けばそれに応えて鳴ってくれる懐の深さを感じさせるキャラクターです。

その波乱に満ちた歴史の中で、ギブソンともマーチンとも違う、不思議な愛嬌と魅力を持つアメリカン・ギターを作り続けてきたギルド。是非その魅力に触れてみては如何でしょうか?

次回の【Vintage File】もお楽しみに!

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