【Vintage File】#26 Gibson 1975年製 Flying V Natural ~時代が追いついた先駆けの矢~

渋谷店佐藤です。
寒い日が続き体調を崩しがちなこの時期ですが、如何お過ごしでしょうか?
さて、これまでGuitar Quest【Vintage File】では王道の名器から長い歴史の中で生まれた怪作・奇作まで、様々なヴィンテージを紹介させて頂きましたが、今回紹介させて頂く1本は「王道にして異端」と言えるあのモデルです。

 

Gibson 1975年製 Flying V Natural。
言わずと知れた「ザ・変形ギター」、フライングVの登場です。
フライングVが登場したのは1958年。それまでジャズ・ギターの分野で特に高い人気を持っていたGibsonでしたが、ストラトキャスターやプレシジョンベースといった先進的なソリッド・ボディのモデルを登場させたフェンダーと比べられると、やや保守的なイメージがつき始めていました。その状況を打破するために投入されたのがこのフライングVと、同時に発表されたエクスプローラーの「モダニスティック・ギターズ」2本。
しかしながら登場した50年代という時代にとってはあまりにもデザインが先鋭的すぎたため一般には受け入れられず、僅かな本数(100本未満)のみ製造され一旦姿を消した・・・というのが定説となっています。ただ、同時期の所謂オリジナル・バースト(サンバーストカラーのLes Paul Standard)の生産本数(1200~1500本と言われています)と比べても極端に少ない製造本数である事を考えると、当時のGibsonとしても数を売るモデルとは考えておらず、「市場にインパクトを与えるスポットモデル」「イメージ戦略の為のスペシャルモデル」として捉えており、少量のみの製造については想定の範囲内であったのではないか・・・?という説もあります。
今となっては真相は不明ですが、現在変形ギターの代表格として地位を築き、「エレキギター」と聞いて思い浮かべるシェイプの1つである事は疑いようもありません。

それでは順番に各部を見ていきましょう。

 

アルファベットのVをそのままボディシェイプにしたデザインは今でこそ見慣れた印象がありメジャーですが、1950年代後期当時としては超・エキセントリックで、奇異の目で見られた事でしょう。しかしながら、著名ミュージシャンの中で最初に愛用した人物として知られるのは、意外にもブルース・ギタリストのアルバート・キングでした。

 

ヘッドストックです。ヘッドの先端が丸みを帯びた形状となっているのがこの時期の特徴です。
本器はネック折れのリペア跡がありますが、しっかりと直されており、使用に際して問題はありません。フライングVと言えば、マイケル・シェンカーの愛器も何度もネックが折れている事で有名です。

 

「丸ヘッド」と並ぶこの年代の特筆すべき特徴としてはボディの薄さが挙げられます。参考までに渋谷店店頭にあった2018年仕様のフライングVと比較すると、約5mmも薄くなっており、体感的にはほぼSGと同じような薄さです。当然ボディも非常に軽量で、軽々振り回せます。

 

ピックアップはボビン表面にアルファベットのTの文字が確認できる、所謂Tトップの刻印ナンバード・ハムバッキングPUです。
本個体のピックアップカバーは取り外されており、それも影響してか枯れていながらもやや荒々しいサウンドが心地よいです。

ケースはオリジナルのハードケースが残っています。特異な形状の為、ケースも専用のシェイプとなっています。

フライングVは50年代末期に初登場し少数が作られた後、一旦姿を消し、その後60年代後期に少量ずつ/不定期ではありますが再生産がスタートします。60年代~70年代初めにかけ、ロック・ミュージックの発展とソリッドボディ・エレクトリックギターの流行、さらに前述のアルバート・キングの他、ジミ・ヘンドリクス、キース・リチャーズ、アンディ・パウエルらの愛用により徐々にそのシェイプが一般的に受け入れられるようになったためか、1975年にレギュラー・モデルとなります。発表当初の先進的すぎたコンセプトに、時代が追いつき定番モデルとなった好例と言えるでしょう。

レギュラー・モデル化直後の本個体。ピックアップカバーが外され、ネックが一度折れている辺りも含め歴戦の勇士らしい佇まいが何ともロックでクールですね。

次回の【Vintage File】も、どんな楽器が登場するかお楽しみに!

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