※この記事はイシバシ楽器メールマガジン2016年6月号「イシバシ三銃士のスーパーギター列伝」からの転載記事です。最新版はイシバシ楽器のメールマガジンにてご覧いただけます。


Q:最近のギブソンのアコギって作りが雑で粗くて個体差が激しいんですよね?

A:作りが雑で粗いのは昔からです。むしろ最近のものは昔に比べると比較的丁寧だと思います。

イシバシ楽器渋谷店の佐藤と申します。
唐突に始まりましたが、こちらのメールマガジン、私の担当回では、このように店頭で皆様から頂く事の多い(時にきわどい)ご質問に率直に回答させて頂きます。

記念すべき1回目は冒頭に挙げさせて頂いた、Gibsonのアコースティックギターについてです。「作りが粗い、雑だ」と言われる所以は色々と考えられるのですが、ひとつひとつ見ていきましょう。

まず、現行のギブソンアコースティックの他ブランドとの違いについてです。
アコースティックの分野において、MartinやTaylorといったライバル・ブランドと異なる点が、主に3点挙げられます。

①塗装・・・全モデルニトロ・セルロース・ラッカー
②ネックとボディの接合・・・全モデルでハイド・グルー(ニカワ)によるダブテイル・ジョイントを採用
③生産拠点・・・全モデルがアメリカ、モンタナ州ボーズマンにある同一の工場、同一ラインで製造されている
(注:いずれも2016年6月現在)

つまるところ、「やや頑なに伝統的なタイプのアコースティックギターの製法にこだわり、ライバル・ブランドと比較すると比較的規模の小さい生産拠点で作り続けている」事が特色と言えます。
廉価グレードのメキシコ製モデルやカスタム・ショップ等、明確に製造ラインを分け、自動化も推し進めているMartinや、ブランドとしてNTネックの採用等で合理化を推し進めてきたTaylorとのイメージの違いが、「最近になっても昔ながらの作り方で頑固に作っている」≒「最近になっても合理的な手法を採用せず前時代的な作り方に固執している」という形で伝わってしまっているのかもしれません(こういった意見が広まった他の理由としては2000年代後半の輸入代理店変更とそれに伴う日本国内のGibson取扱い店舗の変化も挙げられますが、こちらは今記事ではあえて触れません…)。
工場の1日あたりの生産本数も、2016年現在、Martin、Taylorの半分以下です。

では果たして最近のGibsonは昔と比べて本当に作りが粗いのか?

丁度渋谷店店頭に1940年代製のSouthern Jumbo、1960年代製のJ-45、現行のJ-45 Standardがありますので、普段あまり見る機会の無い部分の詳細な画像と共に検証していきましょう。

まず全体を見ていて気になるポイントはサウンドホール周辺。上から40年代、60年代、現行品です。
40年代、60年代共にロゼッタ(サウンドホール・リング)の継ぎ目を隠していない(ピックガード付近に見えます)のは潔い! ともズボラ! とも言えます。
一方の現行品は指板で上手く継ぎ目を隠しています(ただし継ぎ目の位置は個体ごとに微妙に異なります)。
ただ寸法的に40年代、60年代共にやろうと思えばできそうなのですが・・・。

40年代のみ19フレット仕様ですが、それにしても現行品の指板がホール付近まで延長されているのが目を惹きます。
ボディトップと指板との境目の処理がやや汚いのが気になりますが・・・(これは現行のどの個体にもある程度見受けられます)。

また、40年代に関してはボディのバインディングの継ぎ目も隠していません
しかもトップ側は1弦側、バック側は6弦側と、丁度対角線上に継ぎ目があります。
これは恐らく製造上バインディングを巻く際、作業台の上にネックが横に向く方向でボディを置いて、まずトップ側を巻いてそのまま「そーい!」とひっくり返してバック側を巻く・・・といった極めてアメリカンな作業工程を踏んでいたため・・・と推測されます。あくまで憶測ですが。

続いてボディ内部です。

上から40年代、60年代、現行のボディ内部です。およそ10年ごとにキャラクターが大きく変化するギブソンのアコースティック・フラットトップ。内部もまるで別ブランドのギターのように異なっています。
尚、40年代と60年代で見られる、ブレーシングを留めている布テープのようなものは補修ではなく、仕様です。
それ以外に40年代、60年代共にブレーシング再接着など補修箇所はもちろんあるのですが、それを差し引いても流石に現行のものは丁寧で洗練されている印象です。
唯一ブリッジプレートが荒々しいルックスなのが気になりますが・・・(意外にこのあたりがギブソンらしい鳴りの秘訣だったりするのでしょうか?)。

*余談ですが、現行ギブソンの1960’s系のモデルも、右側画像のJ-45 Standardと同形状のスキャロップドブレーシングを採用しています。
ご覧の通り中央画像のようなオリジナルの60年代製のものとは形状が異なっており、60’sらしいアタック感を持ちながらもやや洗練された扱いやすい印象のある現行1960’sと、ひたすら癖の強い打楽器的な鳴り方のオリジナル60年代製の鳴りの違いの理由はこの辺りにもあります。

別角度、丁度ボディ右肩部分の真裏付近です。
現行のJ-45 Standardの構造は強いて言えば1950年代前半に最も近い形状ととなっていますが、ドームド・トップを考慮に入れた形状のブレーシング(予めトップ板を僅かにアーチがかったドーム状に設計し、その曲面に合わせてブレーシングを設計し組み込む)や、ノッチの入ったライニングなど、単に50年代の回顧にとどまらない現代らしいリファインも施されている点も特色と言えます。

駆け足で見ていきましたが、結論としては「最近のギブソンは昔と違って作りが凄く丁寧でしっかりしてるんですよ!・・・とは言えません。
作りが粗いのは昔からです。
しかしながら、現代の時代に沿ったリファイン、改良は間違いなくされていると言えます。」
といった所でしょうか?

また「個体差」についてですが、これに関しては正直な所ギブソンがというより、他のブランド、MartinやTaylor、他の国産ブランドなどにも同様のレベルで見受けられます。
しかしながら程度としては木目や個性の異なる生の木材を使用した弦楽器である所以のもの・・・といった印象で、店頭で中古やヴィンテージ等を見ていると、「使い手であるプレイヤー/オーナー様の扱い方によってどうにでもなるのではないか・・・」と感じます。
しかしながら楽器として感覚的にしっくりくるかこないか、見た目も含めてお好みかそうではないか等は十人十色かと思いますので、是非イシバシ楽器店頭にてお好みの楽器の「個性」についてご相談頂ければと思います。

現行のGibson J-45 Standard、特に最新スペックのものは指板エッジ部分の形状変更、ピックアップのアップデートなどリファインが進み、即戦力かつ完成度の高い良い楽器だと感じます。

実際に店頭でMartinやTaylorを普段ご愛用頂いている方にお試し頂くと、「今のギブソンがこんなに良いとは思わなかった! 意外! あと弾き易い!」という方が3/4、「やっぱり全然好きじゃない! ダメダメだ!」という方が1/4といった印象です。これまで「ギブソンは作りが雑で粗くて駄目なんでしょ?」と思われていた方にこそ是非お試し頂ければ幸いです。

大いなるギターワールドの旅に出かけよう!

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